2016年5月14日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (338) 「捫別川・ブユニ川・有良川」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

捫別川(もんべつ──)

新ひだか町中部、JR 日高本線の「東静内駅」のあたりを流れる川の名前です。もともとは地名も「捫別」だったらしいのですが、道内に同名が多いので「東静内」にしてしまったとのこと。

東蝦夷日誌にも記載がありました。

モンベツ〔捫別〕(川幅八間、般渡し、夷家貳軒)名義、静成義。是遅流にして深き故號(なづ)く。又寛文亂の時も、此川より東は騒動も無がりしが故に、穏の義を取て號しとも言へり。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.177 より引用)

まぁ、意味するところは「道内に同名が多い」としたところで「お察し」状態でして、mo-pet で「静かな・川」だったのだろうなと思います。そういう意味では(全くの偶然なのですが)現在の「東静内」という地名に「静」という字が含まれているのは悪く無い話ですよね。

引用文に「寛文亂」とあるのは、いわゆる「シャクシャインの戦い」のことですね。蝦夷地の歴史を語る上では外せない重大事件ですので、内容は押さえておきたいものです。

アザミ川

捫別川の河口すぐ近くのところで合流する支流の名前です。独立して項目を立てるには少々ネタが足りないので、おまけ扱いですいません。

東西蝦夷山川地理取調図には「アサミ」とあり、東蝦夷日誌には「アンサミ」とあります。また永田地名解には「薊(あざみ) 和名ナリ」とあります。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、少々興味深いことが書いてありましたので引用しておきます。

なお土地のアイヌ旧家佐々木家から出た岡本頼子さんはアジャンミ(私の住む村)と聞いていると語られた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.352 より引用)

「アサンミ」という音で記録されているケースが多いので、これは音韻転倒による誤解のような気もしないでも無いですが、一応念のため。

ブユニ川

捫別川の中流部、静内川合のあたりで合流する西支流の名前です。東西蝦夷山川地理取調図や東蝦夷日誌にも「フユニ」とありますね。

永田地名解には、次のように記されていました。

Puini  プイニ  延胡索 土人根ヲ食料トス
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.260 より引用)

「エゾエンゴサク(の根)」は toma と呼ぶことが多いので、どうにも意味が掴めなかったのですが、puy だと「穴」の他に「エゾノリュウキンカ(の根)」という意味があるようですね。「ブユニ」だと puy-un-i で「穴・そこに入る・もの」即ち「エゾノリュウキンカ(の根)」と考えられそうです。これだとまさに植物の根っこそのものですよね。

永田方正が何故に「延胡索」としたのかは謎ですが、単純に「エゾノリュウキンカ」と間違えたのではないかなぁ……と(うっかりレベルの)。

有良川(うらがわ)

いや、表側なんですが……(一体何を言ってるのだ)。川名は「有良川」ですが、地名は「浦和」に変わってしまったようです(現在は合併のために「静内浦和」)。日高の海沿いをドライブしていると、突然「浦和」にやってきてしまうのはなかなか笑えます。

永田地名解に記載がありました。

Urara  ウララ  霧 此邊霧多シ故ニ名ク。一説ニ「ウラ」ハ連續ノ義音蝦夷ノ家連續セシニ因リ名ク
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.251 より引用)

えーと、urar で「」ではないかという説ですね。「有良川」で「うらがわ」と読ませるのは「浦河」とそっくりなのですが、果たして関係性はあるのでしょうか。

「一説に『ウラ』は連続の擬音」「蝦夷の家連続せしにより名づける」というのは少々難解なのですが、u-ka で「重ねる」と言った意味があるので、おそらくその訛りなのではないかと想像します。……あ、他ならぬ知里さんの「──小辞典」に記載がありましたね。

ukaw, -e ウかゥ 石が重なりあっているところ。[<u-ka-o]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.135 より引用)

ということで、もしかしたら u-ka-ka あたりの訛りで「互いに重なり合う」という意味だった可能性もあるかなぁ……と思ったりもします。

現在の裏側……じゃなくて有良川を地形図で見ると、河口部がおそらくは沿岸流の影響で随分と曲がった形をしています。これは完全な思いつきですが、もしかしたら o-rar で「そこで・潜る」なんて意味……だったりしたら面白いんですけどね(まぁ、普通は muka になるんでしょうけど)。

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