2016年12月18日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (400) 「近悦府川・知決辺川・ウクル川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

近悦府川(ちかえっぷ──)

chikap-pet?
鳥・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
厚真川の支流で、厚真町本町の北側を流れています。本町の北に「桜丘」という地名がありますが、ここがかつて「近悦府」という地名だったようです。

戊午日誌「東部安都麻誌」に記載がありました。

扨此処(ノヤシベ)の向岸に当り、是は川口は不見しが
     チカユフ
西岸小川也。此西岸は皆平地にて、樹木立原也。名義本名はイカユフと云よし。昔し神の矢筒を此処え納め置しと云り。イカユフは矢筒の事也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.463 より引用)
えっ……と思ったのですが、確かに ikayop は「矢筒」という意味でした。一方で、更科源蔵さんは全く違う解を記していました(割と良くある話ですが)。

 近悦府(ちかえっぷ)
 厚真市街の近くにあった地名で、昔人をさらう巨鳥フリーがいたという伝説があるので、鳥のいる所という意味だと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.74 より引用)
「巨鳥フリー」と書かれると、なんかノンアルコールビールみたいな……(ぉ)。

ちなみに、chikap だと「鳥」を意味しますが、「チカエップ」というのはちょっと良くわかりません。東西蝦夷山川地理取調図には「チカフエ」とあるので、あるいは元々は chikap-ewak-i(鳥・住んでいる・ところ)あたりの地名で、近くを流れる川が chikap-pet と呼ばれたとか、そんな感じでしょうか。chikap-pet であれば「鳥・川」となりますね。

知決辺川(ちけっぺ──)

chikep?
切り立った崖
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
現在は「近悦府川」の支流のように見えるのですが、同じく厚真町本町の北側を流れる川の名前です。「近悦府川」と音が比較的近いのが凄く気になりますが……。

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には、次のように記されていました。

 知決辺川(ちけっぺがわ)
 厚真川右支流。チケㇷ゚(きり立った崖) の転訛という。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.75 より引用)
ふむふむ。chikep では無いかと言うのですね。chikep は「地球岬」あたりでもお馴染みの語彙ですが、「切り立った崖」という意味です。

戊午日誌「東部安都麻誌」には次のように記されていました。

惣て此辺平山にて其処を
     チケツヘ
と云小川有。其名義は山にて榀を剥処と云よし。チは沢山の事也。ケツは榀の事、剝はへ(はぐところ)と云よし也。此の沢昔しより榀皮よく有る故号とかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.465 より引用)
ありゃ、全くと言っていいほど解が一致しませんね。「ケツはシナのこと」とありますが、シナノキは一般的に nipes が使われることが多いようです(他は kukerkep など)。

戊午日誌の記録も貴重ですが、ちょっと意味が良く読み解けないので(汗)、今日のところは更科説の chikep で「切り立った・崖」と考えておこうと思います。

ウクル川

{ukur-kina}-us-i
{タチギボウシ}・多くある・もの(川)
(典拠あり、類型あり)
厚真町本町から見て東南東の方向を流れている川の名前です。戦前の地形図には「宇久留」とありますが、現在は宇隆(うりゅう)という地名のようです。どことなく間の抜けた Get Wild な感じがします(どこがだ)。

さて、タフな解読作業を再開しましょう。戊午日誌「東部安都麻誌」には次のように記されていました。

扨、村を出て樹立原低き処、処々此間の水未だ溜りてぬかりける処を、行こと凡五丁計にして西岸
     ウ ク ル
是左り(右)岸に有、此方よりは不見なり。本名ヲル(ク)ルキナウシのよし、其をヲクルキと詰、後またウクルと転ぜしもの也。ウクルは喰草の名也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.466 より引用)
ふむふむ。元々は {ukur-kina}-us-i で「{タチギボウシ}・多くある・もの(川)」だったと考えて良さそうですね。

ところで、ちょっと面白いのが東蝦夷日誌のこの記述でして……

向にウリルペツ(川幅七八間)、本名ヲクルベツにして、土人の喰料ヲクリキナと云草有故號し也。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.115 より引用)
「ウクル川」のことを「ウリルペツ」と記録しています。「ウリル」と言えば「雨竜」の語源も確か同じような音だったような気がするのですが、現在の「ウクル川」の傍の地名が「宇隆」で、音が「うりゅう」なんですよね。

「宇隆」は「宇久留」の進化形?だと思うので、音が重なったのは全くの偶然だと思いますが、そう言えば「近悦府」にも巨鳥「フリ」の伝承の話が出てきていましたし、いやいや、偶然にしてはシンクロ率が高いなぁと。

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