2011年6月12日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (56) 「尾白内・砂原・鹿部・川汲」

 

函館に近づくにつれ、内容もエスカレートの一途を辿ります!(なんでだ

尾白内(おしろない)

o-sirar-un-nay?
川尻に・岩礁・ある・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「尾白内」は森町の東側にある地名で、函館本線の駅もあります。いつも通り「角川──」がいい具合に纏まっているので、見てみましょう。

古くはオシラナイ・ヲシラナイといった。渡島(おしま)地方東部沿岸,中央部。尾白内川下流右岸。地名は尾白内川に由来する。アイヌ語のオシラリウンナイ(潮の入り込む沢)がちぢまったとする説や(蝦夷地名考并里程記),オシラルウンナイ(川口に岩礁のある川)が転訛したという説がある(北海道駅名の起源)。明治中期頃からオシロナイと呼称されるようになった(開拓使事業報告)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.293 より引用)
由来とされるのは o-sirar-nay または o-sirar-un-nay でほぼ間違い無いのですが、問題はその意味でして……。もともと sirar は「『または岩礁という意味だ」とされていたのですが、知里真志保さんが「いやいやシラㇽにはなんて意味は無い」という説を唱えて以来、sirar =「潮」説は「誤訳だ」と考えられるようになってしまったのですね。

上記の引用部では「北海道駅名の起源」だけが知里説に準拠(知里さん自身が編纂に参画している)しているので「岩礁」説で、はるかに時代を遡る上原熊次郎の「蝦夷地名考并里程記」では「潮」説となっています。和訳にブレがあるのはこういった事情?によるものです。

あ、まとめますと、由来は o-sirar-un-nay で「川尻に・岩礁・ある・川」かなぁと思います。

砂原(さわら)

sarki?
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
ここはかつては「砂原町」という町でしたが、西隣の森町と合併して「森町」になった……ということのようです。さて、その由来は……

渡島(おしま)地方東部,北は内浦湾(噴火湾)に面し,南は駒ヶ岳山麓。地名は,アイヌ語のサラキ(鬼茅の意)に由来し,鬼茅や葭が繁茂していたことによる説,サラ(尾の意)に由来し,駒ヶ岳噴火により広く砂州ができたことによる説がある(北海道蝦夷語地名解)。またシャラ(顕れるの意)に由来し,高山で周りからよく見えることによるともいう(蝦夷地名考并里程記)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.623 より引用)
あららら……。かなり諸説入り乱れていますね。「サラキ」はおそらく sarki のことで、もともとは sarki-us-i で「葦・群生する・所」あたりの意味かと思います。

永田説の「サラ」というのは初めて聞きましたが、萱野さんの辞書を見てみると、確かに sar あるいは saraha で「尻尾」という意味があるようです。念のため「──地名解」のほうも見ておきましょうか。

今沙原村ト稱ス天明八年蝦夷管窺及寛政十一年蝦夷紀行並ニ「サラキ」トアルニ從フ弘前蝦夷志ニ「サラ」トアリ、云フ「サラ」ハ尾ナリ駒岳噴火ノ時此沙尾ヲ爲ス
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.159 より引用)
旧字が多いですが、何となく雰囲気で読んでみてください(←)。なるほど、確かに「駒ヶ岳が噴火した時に噴出物(火砕流?)が尾をなした」と読み取れますね。アイヌお得意の「地名説話」のようにも思えますが、北海道の駒ヶ岳はれっきとした活火山で、今でも細々と?活動を続けているので、荒唐無稽とも言い切れないかな……とか。

上原熊次郎説は sara で「現れる」だと言うのですが、さすがにこいつはちょっと……。逆に言えば、19 世紀初頭に上原熊次郎が調査をした時点で、このあたりの地名の由来は既に失われつつあった、ということになりますね。

鹿部(しかべ)

sike-un-pe?
背負う・いつもする・所
sikerpe?
キハダの実
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
予想外に「尾白内」「砂原」で盛り上がって?しまったので、サクサクっと行き……たいものですが、果たして。む、ちら見した限りはかなり危険な雰囲気が漂っています(←)。では、今回も「角川──」から!

地名の由来は,アイヌ語シカウンベの略語で背負うところを意味する(蝦夷地名考并里程記)。またシケルベともいったが,これはキハダ(一名シコロ)のある所を意味する。鹿部山地にキハダの木が多く,アイヌはイナウ(神祀る木幣)・薬・樹皮染料などに使用できる有用な木として扱った。この木名シケルペが転訛して鹿部となったという(ジョン・バチェラー:日本地名研究)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.639 より引用)
出ました、バチラー先生! sikerpe は「キハダの実」という意味で、平取町二風谷にも「シケレペ」という地名があるので個人的には馴染みが深いです。

シカウンベは、えーと、sike-un-pe で「背負う・いつもする・所」でしょうか。unus の用法が全く同じなのであればこの解釈で良さそうですが……。

川汲(かっくみ)

kakkok-un-i?
カッコウ・そこにいる・所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
いい感じに難読な地名ですが、その意味はと言えば……。あれ? 「──地名解」以外にソースは無いのでしょうか。「カックニ」で「カッコ鳥居ル處」、すなわち「カッコウのいる所」なのだそうですが……。kakkok-un-i (「カッコウ・そこにいる・所」)、でしょうか。

道東(津別)には「活汲」(かっくみ)という地名もあるそうなのですが、こちらは kakkum(「ひしゃく」)が語源ではないか、という説もあるみたいです。うーん、どちらも証明するのは難しそうですね。

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