2024年11月30日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1189) 「ペンケ日方川・辺奴山・ポンヤオロヌップ川・マオロマップ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ペンケ日方川

penke-nup-pa-oma-nay?
川上側の・野・かみて・そこにある・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
歴舟川の中流部で合流する北支流です。すぐ東(歴舟川の下流側)には「パンケ日方川」も存在します。ちなみに国土数値情報では、あろうことか「──日方川」が「──方川」に誤った形で記録されています。

「ペンケ日方川」は『北海道実測切図』(1895 頃) で「ペンケヌㇷ゚パオマナイ」と描かれている川に相当すると見られます(流路の向きがかなり異なるという問題点はあるのですが)。penke-nup-pa-oma-nay で「川上側の・野・かみて・そこにある・川」と考えられそうです。

実際に「パンケ日方川」の合流点から東側は平野部が続いているので、「野の端にある川」と呼ぶに相応しい立地だと言えそうです。

ここで問題となるのが「日方川」の出どころですが、陸軍図を見ると、現在の「歴舟川」が何故か「日方川」と表記されていました。「日方」は歴舟川河口部の地名でしたが、いつの間にか少し内陸側に移動して現在に至ります。

pikata は「南西風」を意味する語とされます(『アイヌ語方言辞典』(1964) には、旭川では何故か「北風」を意味する語として記載されていますが)。pankepenke もアイヌ語なので、penke-pikata は一見アイヌ語地名のように思われるのですが、個人的には違和感を覚えます。

panke-penke- を冠する地名(川名)は少なくないですが、支流が本流の川名に panke-penke- を冠するケースは記憶にないのですね。今回の場合は「ペンケヌㇷ゚パオマナイ」「パンケヌㇷ゚パオマナイ」が「ペンケ」「パンケ」と略されたうえで、他の「ペンケ──」「パンケ──」と区別するために当時の川名だった「日方」を後置した……ということではないかなぁと考えています。

辺奴山(ぺんぬやま)

penke-nup-pa-oma-nay?
川上側の・野・かみて・そこにある・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「ペンケ日方川」と「歴舟川」の間に「辺奴山」という名前の三等三角点(標高 474.5 m)が存在します。「ペンケ日方川」はかつて「ペンケヌㇷ゚パオマナイ」と呼ばれたことがあり、「ㇷ゚パオマナイ」が「ペンヌ」に略された可能性が高そうに思えます(ちょっと奇妙な略し方ではあるのですが)。

「ペンケ日方川」の項で「ペンケヌㇷ゚パオマナイ」という川名が長すぎるとして忌避された……と考えてみたのですが、「辺奴山」というネーミングもこの仮説を補強するものと言えるかもしれません。この三角点名も penke-nup-pa-oma-nay で「川上側の・野・かみて・そこにある・川」と考えられそうです。

ポンヤオロヌップ川

pon-ya-oro-oma-p
小さな・陸・の中・そこにある・もの(川)
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「辺奴山」三角点の南で歴舟川に合流する南支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「コエホヤロマフ」とありますが、これは「コエホヤロマフ」の誤字だと思われます。

北海道実測切図』(1895 頃) では「ポンヤオロオマㇷ゚」と描かれていました。「ヤオロマップ岳」という山があるので「もしかして……」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、やはり「ポンヤオロオㇷ゚」が「ポンヤオロップ」に誤記された可能性が高そうですね。

pon-ya-oro-oma-p で「小さな・陸・の中・そこにある・もの(川)」と考えて良さそうです。

マオロマップ川

sinoman-ya-oro-oma-p?
本当の・陸・の中・そこにある・もの(川)
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
歴舟川を遡ると、「清水橋」と交叉してからは「三ノ沢」「一の沢川」「にしだ沢」「六段沢」「霧沢」「やよい沢」「下滝沢」「上滝沢」などの支流が合流していて、「上滝沢」の先で「マオロマップ川」が合流しています。

「マオロマップ川」は巨大な S 字を描く特徴的な流路を持ちますが、『北海道実測切図』(1895 頃) にはそれらしい川が見当たりません。ただ、この特徴的な流路を除けば「キㇺクㇱュペッ」の位置に近いので、「マオロマップ川」=「キㇺクㇱュペッ」と見て良さそうに思えます。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には次のように記されていました。

キムクシペツ
ヤオロマップ川(地理院・営林署図)
 上流部の大きな二股の左側から流入しており、上流は S 状の屈曲が著しく、ペテカリ岳とルペツネ岳を水源としている。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.49 より引用)※ 原文ママ
鎌田さんは「キムクシペツ」=「ヤオロマップ川」としていますが、陸軍図では妙なことになっていて、現在の「歴舟川」が「日方川」となっている上に、更に「日方川」と並んで「ヤオロマップ川」と描かれています。別の言い方をすれば、陸軍図は「日方川(=歴舟川)」と「ヤオロマップ川」を同一の川として描いていて、現在の「オロマップ川」には川名が記入されていません。

ややこしい話になってきたので、遅まきながら表にしてみましょうか。

東西蝦夷
山川地理取調図
(1859)
北海道実測切図
(1895 頃)
陸軍図国土数値情報
コエホ(ク)ヤロマフポンヤオロオマㇷ゚ポンヤオロマップ川ポンヤオロヌップ川
シノマンヤロマフキㇺクㇱュペッ-マオロマップ川
コエカタヤロマフヤオロオマㇷ゚日方川・ヤオロマップ川歴舟川

100 % 確実とは言い切れませんが、おそらくこの見立てで合っているんじゃないかと思われます。そしてこの表が正しいと仮定した場合、「マオロマップ川」は「シノマンヤロマフ」だったと言えそうでしょうか。sinoman-ya-oro-oma-p で「本当の・陸・の中・そこにある・もの(川)」と解釈できそうです。

そして、最大の論点となりそうな『『オロマップ』と『オロマップ』の違い」ですが、やはり……転記ミスだったと見るのが妥当でしょうか。「シノマンヤロマフ」の「シノ」と「ヤ」をすっ飛ばして「マロマフ」と呼んだ……と考えることもできなくは無いかもしれませんが、「ヤ」を「マ」と間違えるほうが遥かに難易度が低そうに思えるので……。

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