2014年10月18日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (221) 「キムアネップ岬・富武士・トカロチ」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

キムアネップ岬

kim-ane-p
山側・細くある・もの
(典拠あり、類型あり)
サロマ湖に突き出た岬で、キャンプ場があります。サンゴ草の群生地としても有名みたいですね。では、早速参りましょうか。山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

キムアネップ崎
 幌岩山と佐呂間別川の川口の間の処で,長く湖中に突き出している岬の名。キム・アネ・プ「kim-ane-p 山(側)の・細い・もの(岬)」の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.190 より引用)
ふむふむなるほど。kim-ane-p で「山側・細くある・もの」と考えれば良いのですね。

さて、何故に kim- がついているのか、という話なのですが、実は対岸の常呂町栄浦(栄浦大橋の西側)にも ane-p という地名があったのだそうです。それで混同を避けるために kim-ane-p と呼ぶようになったのだとか。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
明治31年5万分図ではキムアアネプ,松浦図ではキンマーネフと書かれた。当時の呼ばれていた音がそれらから察せられる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.190 より引用)
そうですね。より正確には、松浦図(東西蝦夷山川地理取調図)には「キンマアー子フ」とあるように見受けられます。「ネ」は「子」と書かれていたのですね。

富武士(とっぷし)

top-us-pet
竹・多くある・川
(典拠あり、類型あり)
ついジョー・リノイエさんの "Synchronized Love" が脳内再生されてしまいますが……(笑)。

さて富武士です(キリッ)。今回もまずは山田秀三さんの「北海道の地名」から。

富武士 とっぷし
 サロマ湖南岸中央部の川名,地名。永田地名解は「トゥプ・ウシ。小さきうぐひ魚居る処」と書いた。松浦図ではトツホウシとなっている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.190 より引用)※ 強調部は原著者による

ふーむ。ちょっと想定外の答が出てきました。永田地名解も見てみましたが、確かに「小キウグヒ魚居ル處」とありますねぇ。これは果たして……。

tup を「ウグイ」と見て良いものかが気になったので、ちらっと調べてみたのですが、ウグイは一般的には supun と呼ばれていて、tup を「小さなウグイ」とした例は見つけられませんでした。

なお、まだ続きがありまして……

あるいはトプシ「top-ush-i 竹・群生している・もの(川)」だったのかもしれない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.190 より引用)
これなら割と一般的な解釈ですね。更科源蔵さんも

ここで湖にそそぐトプウシペッに当て字をしたもの。根曲竹の多い川の意である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.294 より引用)
としていますので、top-us-pet で「竹・多くある・川」と考えて良いかなぁ、と思います。

おまけ

永田地名解が何故 tup を「小キウグイ」としたのかが謎なのですが、北海道庁の「アイヌ語地名リスト」には、次のように記されています。

トㇷ゚は一般的に竹のことだが、シシャモを柳葉魚というように、小さいウグイを「竹のような魚」と呼んだものか。
(アイヌ政策推進室・編「アイヌ語地名リスト」北海道庁より引用)
何だかわかったような、それでいて良くわからないようなことが書いてあります(汗)。えーと、まず、「シシャモ」は susam あるいは susu-ham と綴られます。susu-ham を逐語解すると「柳・葉」となるので、そこから「柳葉魚」という漢字表記が生まれたと考えられますね。で、似たような「擬葉化」(?)が、ウグイにもあったのではないか、という推察のようです。興味深い仮説ですね。

トカロチ

tukar-ot-i
アザラシ・群在する・ところ
(典拠あり、類型あり)
旧ソ連の崩壊と時を同じくして、大量のトカレフが国内にも流通してさぁ大変、という時代もあったねと、いつか話せる……あれ?

さてトカロチです。富武士川、あるいはその支流のトップウシベツ川の西側を「オンネトカロチ川」という川が北流していて、上流部には「トカロチ牧場」という牧場もあります。

明治期の地図には、現在の「オンネトカロチ川」のところに「オン子ト゚カロチ」と書いてあります。また、「東西蝦夷──」には、河口部に「トカルシ」と書かれています(隣には「ホントカルシナイ」ともありますね)。

これは一体なんだろう……と思ったのですが、永田地名解に記載がありました。

Tukar' ochi  ト゚カロチ  海豹居ル處「ト゚カリオチ」ノ急言
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.461 より引用)
あっ、なるほど。tukar-ot-i で「アザラシ・群在する・ところ」だったのですね。すっきりしました!

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