2024年3月9日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1121) 「シリクロチ川・タンネナイ沢・トチビヤニウシ」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

シリクロチ川

sir-kur-ot-i
山・影・多くある・ところ(川)
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
道東自動車道・庶路 IC の南、白糠町新興のあたりで西から庶路川に注ぐ支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「リコロチ」という名前の川が描かれています。戊午日誌 (1859-1863) 「東部久須利誌」には次のように記されていました。

 またしばし上りて
     ヲメウケナイ
     シリコロチ
 二川とも左りの方小川。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上』北海道出版企画センター p.524 より引用)
永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Shiri kur'ochi   シリ クロチ   山蔭
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.324 より引用)
sir-kur-ochi で「山・影・群在する」と読めそうでしょうか。あるいは sir-kur-ot-i で「山・影・群在する・ところ(川)」のほうが良いかもしれませんが、ochi あるいは ot は一般的に動物が群在するのに用いることが多いので、疑問も残ります。

ただ『──小辞典』を見てみると……

ot おッ《完》①(名詞についたばあい)a)……が群在(群居,群来)する。Chiray-~-nay 〔チらヨッナィ〕[イト魚が・群来する・川](地名解 222, 309, 408)Chir-~-to 〔チろット〕[鳥が・群来する・沼](同 309)。b)群在するような印象を表わすのに用いられる。pe(kem, ye, nupe)~汁(血,膿,涙)が・にじみ出る。→入門 224.
知里真志保地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.82 より引用)
「群在する」だけではなく、「群在するような印象を表す」のに使用しても良い……のですね。ということであれば、やはり sir-kur-ot-i で「山・影・多くある・ところ(川)」と見て良さそうに思えます。

タンネナイ沢

tanne-nay
長い・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
庶路川の西支流で、道東自動車道・庶路 IC の 1 km ほど西を流れています。国土数値情報では「クンネナイ沢川」とありますが、陸軍図には「タンネナイ澤」とあるので……おそらく誰かがうっかりやらかした系でしょうね。

タンネナイ沢の東には「鍛音内たんねない」という四等三角点もあります(標高 206.5 m)。また「運輸局住所コード」には「白糠町タンネン」という住所もあるのですが、位置が良くわかりません(「タンネン」については『角川日本地名大辞典』(1987) にも言及あり)。

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Tanne nai   タンネ ナイ   長川
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.325 より引用)
まぁ、そうなるでしょうね。tanne-nay で「長い・川」だと思われるのですが、鎌田正信さんは『道東地方のアイヌ語地名』(1995) にて「特に長い川ではない。何かほかのわけがあるのだろうか」と記していました。

改めて地形図を眺めてみると、まぁ似た長さの川は他にもあるものの、たとえば庶路 IC のすぐ西を流れる川などと比べると、十分長い川と言えそうな気もします。

トチビヤニウシ

tu-{chip-e-yan-i}-us-i?
峰・{舟着き場}・いつもある・ところ
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
道東自動車道の「上庶路トンネル」の東側の地名……なのだそうです(Google Map)。「タンネナイ沢」の西支流ということになりそうですが、手元の資料には言及が……ありました(ぉぃ)。

『角川日本地名大辞典』(1987) には次のように記されていました。

 とちびやにうし トチビヤニウシ <白糠町>
〔近代〕昭和46年~現在の白糠しらぬか町の行政字名。もとは白糠町大字庶路村の一部,トチビヤニウシ。地名の由来は,アイヌ語のトチビヤニウシ(沼の近くの石の岸,樹木が群生する所の意)による。
(『角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)』角川書店 p.964 より引用)
ありがたいことに地名の由来まで記してありますが、これは……うーん。chip-e-yan-i で「舟着き場」、より正確には「舟・そこで・岸に上がる・ところ」という言い回しがあるので、{chip-e-yan-i}-us-i で「{舟着き場}・ある・ところ」ではないかと思われるのですね。

問題は頭の「ト」ですが、永田地名解 (1891) には網走郡の地名として「シト゚ チピヤニ」と記録されていました(現在の「サラカオーマキキン川」河口附近)。これは si-tu-{chip-e-yan-i} で「大きな・峰・{舟着き場}」と読めそうな気がします。

今回の「トチビヤニウシ」も、似たような感じで tu-{chip-e-yan-i}-us-i で「峰・{舟着き場}・いつもある・ところ」と考えていいのかな、と思われます。故に……というのもおかしなつなぎ方ですが、現在の「トチビヤニウシ」は「上庶路トンネル」のすぐ東側の地名とされていますが、本来は庶路川沿いの地点を指した地名だったのでは……と思わせます。

何故「峰」に舟を上げる必要があるのだろう……という疑問もあるのですが、一般的な名称とも言える {chip-e-yan-i}-us-i に対して、具体的な地形を頭に付加しただけ……だったりするかもしれませんね。

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