2015年5月30日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (253) 「ウイーヌプリ・遠音別岳・海別岳」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ウイーヌプリ

uhuy-nupuri
燃えている・山
(典拠あり、類型あり)
山々が連なる知床連峰の最北端に位置する山の名前です。「なんだろうこれは?」となったのですが、松浦武四郎の「戊午日誌」にヒントがありました。

此辺まで岸の上少しヅヽ平地有れども、是より先は皆崖に成りて平地なく、其上を
     ウイノホリ
と云。是則遠方より見てシレトコノホリと云ものなり。山皆雑木也。東に当る処、峨々たる岩一ツ聳え立たり。本名ヲフイ岳のよし。判官様軍勢をよせるしらせの為に火をつけて焼玉ひしと云也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.46 より引用)
ふむふむ、なるほど。uhuy-nupuri なのですね。これを素直に解釈すると「燃えている・山」、即ち「火山」という意味になります。知床には今でもあちこちに温泉が湧いていますが、過去に火山活動が今よりも盛んな時期があって、その時の記憶が地名に込められているということでしょうか。

uhuy と言えば、増毛と浜益の間に「雄冬岬」という難所がありますが、雄冬岬の場合は「火山」ではなく、赤い岩が燃えているように見えるから uhuy なのだ、という説があったかと思います。ウイーヌプリの北側に「アカイワ川」あるいは「赤岩」という地名が見られるので、あるいはウイーヌプリも「赤岩が露わになっていた山」だったのかも知れません。さて、どちらが正解なんでしょうね……?

遠音別岳(おんねべつ──)

onne-pet
長じた・川
(典拠あり、類型あり)
羅臼町の春刈古丹川を遡っていったところに聳えている、標高 1,330.4 m の山の名前です。

この山の名前自体は斜里側の「オンネベツ(川)」に由来するのだと思います。onne-pet は「長じた・川」でしょうか。確かにこのあたりの川の中では大きいほうです。

山田秀三さんは「北海道の地名」で次のように記しています。

遠音別 おんねべつ
 遠音別川はこの辺では大きい川である。まあまあオンネ・ペッ(大きい・川)と解したい。ただしオンネは元来は「老いたる」の意。知里さんは地名ではポロとともに「親」と訳して来た。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.222 より引用)
そうですねー。「老いたる川」だと「涸れ川?」と誤解されそうな気もしますし、かと言って「大きい川」かと言うと、必ずしもそうではない場合もあるので、onne のニュアンスを訳出するのはなかなか難しいですよね。

海別岳(うなべつ──)

una(-o)-pet?
灰(・の入った)・川
(? = 典拠あり、類型未確認)
羅臼町と標津町の境界は植別川に沿っているのですが、その植別川を遡ったところに聳えているのが標高 1419.3 m の「海別岳」です。海別川も斜里側の地名なのですが、これは偶々と言いますか、羅臼側の地名に由来する山名は今更取り上げるまでも無いという事情によるものでして……(汗)。

というわけで海別岳です(キリッ)。永田地名解には、「海別」の解として次のように記してあります。

Una pet  ウナ ペッ  灰川 古へ噴火セシトキ全川灰ヲ以テ埋メタリシガ今ハ灰ナシ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.488 より引用)
ふむふむ。また過去の火山活動を想起させる解が出てきましたね。「──今ハ灰ナシ」のくだりは知里さんが「──予め証拠を隠滅しておくのである」と書いていた手法そのままなのが笑えます。

なお、知里さんの「斜里郡内アイヌ語地名解」には次のようにあります。

 ウナペッ 海別川。「ウナ・ペッ」(una-pet 灰・川)。昔噴火した時全川灰で埋つたという。「ウナ・オ・ペッ」(una-o-pet 灰の・入つた・川)とも云う。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.260 より引用)
あららら(笑)。これは偶然の一致と言えるレベルでは無さそうですね。知里さんはここでは永田地名解をそのまま引用しているようです。

というわけで、「海別」は una(-o)-pet で「灰(・の入った)・川」と解釈しておくのが良さそうですね。

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