2020年3月8日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (709) 「出足平川・ワッカケ岬・湯内川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

出足平川(でたるひら──)

retar-pira
白い・崖

(典拠あり、類型あり)

余市から古平・積丹方面に向かう国道 229 号は、シリパ岬の断崖を回避して内陸部を西に向かい、「梅川トンネル」で出足平峠を越えて、「出足平川」沿いを余市町白岩町に向かいます。ちなみにこの梅川トンネル、以前(2010 年頃)は幅の狭いトンネルだったのですが、いつの間にか通行しやすいように拡幅されていたみたいですね。

「出足平」は「でたるひら」と読むのが正解だと思われますが、少し古い地図には「でたりひら」とあったり、大正時代に測図した陸軍図では「でたりびら」となっていたりします。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「レタリヒラ」と言う名前の川?が描かれていました。「レ」と「デ」は似た音なので、おそらく訛った音で語られるようになり、ついには正式な読み方も「デ──」になってしまった、と言ったところでしょうか。

永田地名解には次のように記されていました。

Retara pira  レタラ ピラ  白崖 岩屏皚白故ニ名ク
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.93 より引用)

おおよそ想像がついていましたが、やはり retar-pira で「白い・崖」だったようです。なお「出足平川」の河口のあたりは「出足平」という地名でしたが、昭和 30 年に現在の「白岩町」に改名したとのこと。「白岩町」の「白」は retar を意訳したようです。

なお、興味深いことに、「西蝦夷日誌」には「レタリピラ〔出樽平、出足平〕」とあるにも関わらず、「竹四郎廻浦日記」では「デタリヒラ」とあるほか、「再航蝦夷日誌」にも「ホンデタリヒラ レタリヒラかと思ふ也」と記されています。

松浦武四郎は「レタリヒラ」が原型に近いと薄々気づいていながら、現地のインフォーマントに何度も「デタリヒラ」と聞かされたんじゃないか……と想像したりします。

ワッカケ岬

wakka-ke??
水・の所

(?? = 典拠なし、類型あり)

余市町白岩町の北にある岬の名前です。国道 229 号は「ワッカケトンネル」でバイパスしているので、トンネルの名前でご存じの方も多いかもしれません。

明治時代の地形図には「ワッカヶ岬」として描かれていました。大正時代の陸軍図には「ワッカケ岬」とあり、現在の形に落ち着いたようです。

「東西蝦夷山川地理取調図」や「西蝦夷日誌」、「再航蝦夷日誌」などには該当しそうな記録を見つけることができませんでしたが、「竹四郎廻浦日記」には「ワツカウイサキ」という岬の存在が記録されていました。

「ワッカケ」または「ワツカウイサキ」をどう解釈するかですが、wakka-ke であれば「水・の所」と解釈できそうです。「ワツカウイサキ」については wakka-o-i で「水・多くある・ところ」でしょうか。ここが岬であるということを考えると、湧き水ではなく波をかぶることが多かったのかな、と思えます。

湯内川(ゆうない──)

yu-nay
湯・川

(典拠あり、類型あり)

「湯内」は先月の深川市湯内に引き続き、今年二度目の登場です(余市町の湯内川は「ゆうない──」と読みます)。

「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ユウナイ」という名前の川が描かれています。また「西蝦夷日誌」や「再航蝦夷日誌」、「竹四郎廻浦日記」にも「ユウナイ」の記録があります。

「竹四郎廻浦日記」には少し興味深い記載があったので、引用しておきましょう。

     ユウナイ 小川有。
此処本名タンナイと云よし。中に小川有。両岸峨々たる岩壁。
(松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 上」北海道出版企画センター p.412 より引用)

「ユウナイ」は元々は「タンナイ」なんだよ、とのことですが、「タンナイ」は tanne-nay で「長い・川」あたりでしょうか。確かに東隣の「能登屋沢川」や「出足平川」と比べると長いほうかな、と思わせます。

また「西蝦夷日誌」には次のように記されていました。

ユウナイ〔湯内〕(川幅三四間、番や、茅蔵、戎社)兩岸惣て絶壁、本名はタシナイと云よし。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.154 より引用)

あれ? 「タンナイ」だと思ったのですがこちらは「タシナイ」ですね。wakka-ta-us-nay で「水・汲む・いつもする・川」という解釈も成り立ちますが、「ユウナイ」という名前の由来を考えると少々びみょうな感じもします。その「ユウナイ」の由来ですが、

土人の話に、水源に温泉の気有、依て號るよし。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.154 より引用)

はい。yu は「湯」の借用語彙だったようで、yu-nay で「湯・川」とのこと。温泉っ気のある水は飲用水としては不適な場合も多いかと思ったのですが、水源部で湯が湧いている程度であれば、海沿いの集落あたりではほぼ希釈されて引用には問題のない状態になっていたのかもしれません。

ちなみに、かつては地名も「湯内」でしたが、現在は「(余市町)豊浜町」に改められています。以前に大規模な崩落事故が起きた「豊浜トンネル」は、余市町豊浜町の西にあります。

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