2017年12月2日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (490) 「礼文華」

 


やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

礼文華(れぶんげ)

rep-{un-ke}-p?
沖・{そこに入っている}・もの?
rep-un-ke-p?
沖・そこに入る・削る・もの


豊浦町西部の地名で、同名の川も流れています。JR 室蘭本線にも駅がありますが、こちらは「礼文駅」という名前です。ということで、まずは「北海道駅名の起源」を見てみましょうか。

  礼 文(れぶん)
所在地 (胆振国)虻田郡豊浦町
開 駅 昭和 3 年 9 月 10 日
起 源 むかしこの地を礼文華といったのを「礼文」と略したもので、礼文華とはアイヌ語の「レプンケ・プ」(沖へ突き出ている所)の意である。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.65 より引用)

ふむ。rep-{un-ke}-p で「沖・{そこに入っている}・もの」……でしょうか。-ke知里さんの小辞典で見てみると、いくつもの解釈が記されています。

-ke ケ 名詞或は名詞的語根について‘所’‘部分’の意を表わす。 kim-ke[山の所]山奥。rep-ke[沖の所]沖合。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.45 より引用)

このように、名詞につくと「所」であったり「部分」あたりの意味になるのですが、

-ke ケ ①自動詞について他動詞をつくる。asin(外へ出る)/ asin-ke(外へ出す)。san(前へ出る)/ san-ke(前へ出す)。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.45 より引用)

自動詞を「他動詞化」させたり、

②擬声または擬容の自動詞をつくる。char-ke(鈴など)チャラッと鳴る。散らばる。pat-ke パッとはねる。purpur-ke(猫が)ブルブル鼻を鳴らす;(水が)ブルブル湧き出る。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.45 より引用)

擬音を「自動詞化」させたり、

③或る種の語根について自動詞を表わす。per-e(割る)/ per-ke(割れている)。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.45 より引用)

アクションとしての動詞を状態動詞化?させたりするようです。

閑話休題

ということで rep-un-ke-p ですが、un-ke-ke をどう解釈したものか、という話でした。「──駅名の起源」の「沖へ突き出ている所」という解釈から考えると、un を「そこへ入る」と考えて、-ke を「状態動詞化」の -ke と捉えて「そこに入っている」としてみたのですが、どうでしょうか……?

ただ、あえて un-ke で「そこに入っている」とするのが、少々くどいようにも思えるのがこの説の難点かもしれません。

更科さんにも聞いてみよう

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には、「駅名の起源」とほぼ同じ説が記されていました。

 礼文華(れぶんげ)
 アイヌ語レプンケ・プで沖へ突き出ているもの、つまり海に突き出ているところという意味で、現在イコリ岩といっているあたりの崎についた名であると思うが、現在は駅名が礼文となってからはあまり礼文華といわなくなり、山道だけが礼文華峠、礼文華山道というように昔のままに呼ばれている。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.57 より引用)

あの……、できれば文章をもう少し細切れにして頂けるとありがたいのですが(定期)。考え方は「駅名の起源」と同じっぽいですね。「駅名の起源」の当該項目も更科さんが担当していた可能性もありそうです。

永田さんに聞いてみよう

ただ、rep-un-ke-p には他にもいくつか解釈があるようでして、たとえば永田地名解にはこんな風に記されています。

Rep un kep  レㇷ゚ ウン ケㇷ゚  沖ヘ流レ出ル所 「アイヌ」云フ何物ニテモ海ニ落ストキハ皆沖ヘ流レ出ル故ニ名クト蝦夷紀行「レプンケプ」トアルハ是ナリ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.175 より引用)

まるでヘラクレイトスばりの解釈が飛び出しました。「何物であっても、海に落としたならば全て沖に流れ出るため」というのですが……。

松浦さんにも聞いてみよう

「東蝦夷日誌」には、次のように記されていました。

レブンゲフ(岩岬)何を流しても此岸え寄らずして沖え迦〔這〕出す義也。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.49 より引用)

あー、永田説とそっくりですね。永田説はこの説を参考にしたというところでしょうか。

上原さんにも聞いてみよう

上原熊次郎の「蝦夷地名考并里程記」には、次のように記されていました。

レブンケ
  夷語レブンケプなり。則、崩れたる崎と云ふ事。扨、レブンとは沖へ出ると申事、ケプとは崩れ亦は剥くと申事にて、此崎崩れて海中へ出たる故、地名になすと云ふ。
(上原熊次郎「蝦夷地名考并里程記」草風館『アイヌ語地名資料集成』p.48 より引用)

ふむ。rep-un-kep で「沖・そこに入る・かじる」と解釈できますね。

秦さんにも聞いてみよう

秦檍丸(村上島之允)の「東蝦夷地名考」には次のように記されています。

一 レブンゲツプ
 レブンは突出したる名。ゲツプは器といへる語なり。
(秦檍麻呂「東蝦夷地名考」草風館『アイヌ語地名資料集成』p.17 より引用)

「ゲツプ」の原型が良くわかりませんが、少なくとも rep-un の考え方は同じようですね。

山田さんにも聞いてみよう

山田秀三さんは、「北海道の地名」で上記の各説を紹介した上で、次のように記していました。

手に負えないが,古い上原熊次郎にひかれる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.413 より引用)

「手に負えないが」という断り書きが微笑ましいですが、上原説に妥当性を感じた理由について、次のように続けています。

他地でも断崖をケ(削る)でいうことがある。レブン・ケ・プ「沖の(沖の方へ)。削る・もの(断崖)」といった意味だったのではなかろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.413 より引用)

はい。上原説に微修正を入れて rep-un-ke-p で「沖・そこに入る・削る・もの」ではないかと考えたようです。

山田さんは、この rep-un-ke-p という地名の所在を「大岸のすぐ西の岬の名から出たらしい」としていますが、どのようにしてそう推定されたのでしょうか。大岸の西にある岬と言えば「茶津崎」ですが、ここはもう「大岸駅と礼文駅の間」なので「すぐ西」とも言い難いんですよね。

ということで

諸説並べてみましたが、とりあえずヘラクレイトス説(違う)を抜きに考えると、上原・山田説(沖・そこに入る・削る・もの)と駅名の起源・更科説(沖・{そこに入っている}・もの)に大別されると言ったところでしょうか。随分と長くなってしまいましたが、本質的には「大体似たようなもの」と言えるのかもしれません(汗)。

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