2017年12月24日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (494) 「ベンベ川(豊浦)」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ベンベ川

pe-un-pe?
水・ある・ところ
pewre-pet?
若い・川
pe-pe?
水・水
pet-pet?
川・川


豊浦駅のすぐ近くを流れる川の名前です。ドイツの自動車メーカーは関係ないものと思われます(そりゃそうでしょ)。

それでは、まずは「北海道駅名の起源」を見てみましょうか(何故?)。

  豊 浦(とようら)
所在地 (胆振国) 虻田郡豊浦町
開 駅 昭和 3 年 9 月 10 日
起 源 もと「弁辺(べんべ)」といったところで、アイヌ語の「ペッペッ」(川・川)、すなわち(小さい川が集まったところ)から出たものであるが、ごろが悪いというので、村名を「豊浦」と改称したから、駅名も昭和 10 年 4 月 1 日村名に合わせて改めた。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.65 より引用)

なんと! 元々は「弁辺」という駅名だったんですね!(絶対最初から知ってただろ)。pet-pet で「川・川」では無いか、という説のようです。

山田さんに聞いてみよう

この「ベンベ」については、山田秀三さんの「北海道の地名」にとても良くまとめられているので、引用しておきますね。

 豊浦 とようら弁辺 べんべ
 豊浦町市街は急坂の下の海岸にあり,弁辺川(小川)は急斜面を流れ下っている。この川が二股になり,ポロ・ベンベ(北股),ポン・ベンベ(南股)となっているので,永田地名解は「ペペ。二川合流する処」と書いたが研究を要する。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.412 より引用)

現在の地形図を眺めてみると、ウィンザーに向かうロープウェイ?乗り場のあるあたりから川が描かれていますが、これは「南股」の「ポン・ベンベ」でしょうか。「ポン・ベンベ」は「小さなベンベ」ですから、やはりベンベもダウンサイジングの波に……(違います)。

この川筋泉が多く,あっちやこっちに,ちょろちょろと流れていたという。上原熊次郎地名考は「ベンベ。ベーウンベの略語なり。此処冷水の所々に湧き出るゆへ地名になすといふ」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.412 より引用)

ん、これは「蝦夷地名考并里程記」も見ておかないといけませんね。

上原さんにも聞いてみよう

確かに「蝦夷地名考并里程記」には次のように記されています。

ベンベ                番家休所アプタ江二里半程
  夷語ベーウンペの略語なり。則。冷水の生する所と譯す。扨、ベーとは水の事。ウンとは生す。又は有ると申事。ペとは所と申事にて、此処冷水の所々に湧き出るゆへ地名になすといふ。
(上原熊次郎「蝦夷地名考并里程記」草風館『アイヌ語地名資料集成』p.48 より引用)

ふーむ。上原説は pe-un-pe で「水・ある・ところ」では無いかという説ですね。

秦さんにも聞いてみよう

せっかくなので秦檍丸(村上島之允)の「東蝦夷地名考」も見ておきましょうか。

一 ベンベ
 べは水の訓なり。此處、清川二流あり。故に此名ある歟。
(秦檍麻呂「東蝦夷地名考」草風館『アイヌ語地名資料集成』p.17 より引用)

これは……。若干判断に苦しみますね。「川が二手に分かれているから」という考え方は永田地名解の説に通じるのですが、「べは水の訓なり」というのは後の上原説に通じるものがあります。

松浦さんにも聞いてみよう

東蝦夷日誌には次のように記されていました。

越て沙濱(半里計)、ベンベ〔辨邊〕(小川、小休所、漁や、蔵有)土人廿餘軒。本名ベウレベツにて、冷水生る所多しの義也。此間の岩間に清水の涌出る所有。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.53-54 より引用)

おっと。新説が出てきました。「ベウレベツ」は pewre-pet でしょうか。であれば「若い・川」と読めるかもしれません。

pewreonne(老いている)の対義語と捉えることもできるかもしれません。地名における onne は「温根沼」や「恩根内」などの例がありますが、「老いている」と言うよりは「大きい」であったり、あるいは「親」と言った風に捉えられます(そういったニュアンスをなるべく活かすべく「長じた」とする時もあります)。

地名における onne の対義語は、多くの場合 pon(小さい)だとされます。ただ、pewre(若い)を使う場合も稀にあったのではないか……と考えています(たとえば中標津町の「ペウレベツ川」など)。

「ベンベ川」は距離も短いですから onne では無い……と考えることもできますが、むしろ湧水(=若い水)があることを指していたのかもしれません。

永田さんにも聞いてみよう

山田さんの「北海道の地名」によると、永田地名解は「ペペ。二川合流する処」と記しているとのことですが、より正確にはどのように記されていたのでしょう。ということで、永田地名解も見てみました。

Pepe  ペペ  二川合流スル處
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.174 より引用)

うーむ。これ以上の情報は得られないのか……と思ったりもしたのですが、しれっと隣にこんな項目がありました。

Pepe shir'etu  ペペ シレト゚  二川合流スル處ノ岬 「ペペ」ハ水ノ義ナリ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.174 より引用)

あ。永田さんも pe は「水」だと解釈していたのですね。となると「──駅名の起源」の pet-pet 説はどこから出てきたのか……。

更科さんにも聞いてみよう

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には、次のように記されていました。

 豊浦(とようら)
 室蘭本線豊浦町はもと弁辺村といった。ベンベでは語呂が悪いといって、昭和七年漁の豊かであることを祈念して豊浦と村名を改めた。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.57 より引用)

ふむ。村名を改めたのが昭和 7 年で、駅名が改められたのが昭和 10 年なんですね。このあたりはニセコ町の先を行った感じでしょうか。

ベンベはアイヌ語で川また川というペッ・ペッの訛りで、駅のわきを流れているベンベ川の水がちらばって流れていたので名付けられたものである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.57 より引用)

なるほど。「──駅名の起源」の pet-pet 説は更科さんがオリジナルだったのでしょうか(更科さんが「──駅名の起源」説を参考にしたという可能性もあるんですけどね)。

もう一度山田さんに聞いてみよう

例によって色々と出てきましたが、大別すると「湧き水説」「細流説」「BMW 説」などがあったでしょうか(最後のは無い)。山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のようにまとめられていました。

土地のアイヌ古老伊貸(いかし)松蔵さんに聞いたら,老人はベーベナイと呼んでいたとのことであった。つまり pe-un-pe(水・ある・処),pe-pe-nai(水・水・川)か,または pe-pe(水・水)から来た名だったらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.412 より引用)

なるほど、pe-un-pe で「水・ある・ところ」だけではなく、pe-pe で「水・水」とも読めてしまいますね。

ごろが悪かったので

そして、「ベンベ」が何故「豊浦」に改名されたのかという謎については、次のように記されていました。

「ベベ」は北海道方言で女陰をいうので,それを避けて豊浦と改名したものらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.412 より引用)

あー……。更科さんは「語呂が悪い」と表現を濁していましたが、ズバっと言っちゃいましたねぇ……(汗)。「豊浦」「ニセコ」「御影」が道内三大「ごろが悪いので改名」系の駅名でしょうか。

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