2020年4月5日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (717) 「黒松内・日司町・ルシ岬」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

黒松内(くろまつない)

{kur-mat}-nay
{日本人女性}・川

(典拠あり、類型多数)
黒松内と言えば、日本海にも太平洋にもあと少しのところで手が届かない自治体としていちぶでは有名ですが、積丹町北部にも全く同じ名前の地名があります。

「東西蝦夷山川地理取調図」には内陸部の河川として「クロマツナイ」という名前の川が描かれていますが、海岸部の地名として「クロマチナイ」も描かれています。「西蝦夷日誌」の記載は更に謎めいているので、念のため引用しておきましょうか。

 ○川筋開墾地多く、上にケナシバヲマ(右川)、アラベツバ(右川)、ヲマナイ(右川)、イヨベツ(右川)、フイタシベツ(右川)、過て岳〔積丹岳〕の南面に至り、サネナイ〔珊内、柵内〕え堅雪の時越るに近く、左りクルマツナイ(左)、、ラフシマウシ(平地)、ホリカシヤコタン(水源)、此邊惣て平地、畑地によろし。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.140 より引用)
「積丹川」の「左(川?)」として「クルマツナイ」という川の存在が記されています。ただ、明治時代の地図を見ると、現在の積丹町立日司小学校の北側の川(地理院地図では無名の河川として描かれている川)が「クルマツナイ」だったと見られるため、少なくとも積丹川の左支流(北支流)という認識は正しくないように見受けられます。

一方で、次のような記載もあります。

運上や海岸岩磯まゝ(三町廿五間)クロマツナイ〔黑松内〕(小灣、流有)和人辨才泊と云。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.142 より引用)
こちらの「黒松内」は、現在も地名として現存する「黒松内」のことだと思われます。積丹川の支流の「クロマツナイ」については、「西蝦夷日誌」と「東西蝦夷山川地理取調図」以外では確認できなかったので、もしかしたら単なる勘違いなのかもしれません(見落としているかもしれませんが)。

永田地名解には次のように記されていました。

Kuru mat nai  クルマッ ナイ  日本婦人ノ澤 和女難船シテ此處ニ死シタルヲ以テ名ケタリト「アイヌ」等云フ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.101 より引用)
意味するところは「黒松内町」の黒松内と同じく {kur-mat}-nay で「{日本人女性}・川」だったようです。

積丹町黒松内から 14 km ほど西に「神威岬」がありますが、このあたりは「女人を舟に乗せて通ると海が荒れる」と信じられていたそうです(山田秀三さんの「アイヌ語地名を歩く」の p.32~ に詳しいです)。小樽あたりに向かおうとしていた日本人女性が積丹町黒松内のあたりで亡くなった、という話が本当にあったのかもしれませんね。

日司町(ひづか──)

由来不明


積丹町黒松内の南側を「日司川」という川が流れています。「日司町」という地名もあり、小学校の名前も「積丹町立日司小学校」です。「日を司る」ということで「ひづか」と読むようですが、手元の資料を漁った限りでは、由来が良くわかりません。

仮に「ひづか」という音がアイヌ語に由来するのであれば、pit-ukaw で「小石・重なり合っているところ」と解釈できるかもしれません。ただ、そのような地名が存在したという記録をどこにも見いだせないという致命的な難点があります。

そう思いながら「東西蝦夷山川地理取調図」を眺めて見ると、日司川の旧名である「クツタルシ」の隣に「クロマチナイ」「ヘンサイマ」があり、その隣に「ニカルシ」という地名?が描かれていることに気づきました。「日司」が「ひづか」ではなく「にっか」だったのであれば、「ニカルシ」の原型だった可能性もあったりしないかな……と。

永田地名解には次のように記されていました。

Nikar'ushi  ニカルシ  梯處 梯ヲ掛ケテ上下セシ處「ニカリウシ」ノ短縮語
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.100 より引用)
nikar-us-i で「梯・ある・ところ」と読み解いて良さそうな感じですね。

ルシ岬

由来不明


積丹岬の南南西に位置する岬の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」や「西蝦夷日誌」には「ルシ岬」に相当する地名の記録は見当たらないように思えます。

「北海道地名誌」には、次のように記されていました。

 ルシ岬(~みさき) 積丹岬の近くの岬。「ルシ」はアイヌ語で毛皮のことであるが,なぜこの名がついたかは不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.202 より引用)
確かに rus で「毛皮」という意味の語彙がありますが、地名と考えると少々無理がありそうな感じがします。

先程の「日司」と同様に、「ルシ岬」のヒントになりそうな地名が記録されていないか、「東西蝦夷山川地理取調図」を眺めてみたのですが……。あ、そう言えば「ニカルシ」という地名が記録されていたんでした。そして「ニカ」が「日司」になったりして……と想像を巡らせたりしたのですが、そうすると「ルシ」が残ることになりますよね(汗)。

いや、自分でも馬鹿げた想像をしてるという自覚はあるんですけどね。

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