2018年4月7日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (522) 「コイボクウシュベツ川・トウヤマンナイ川・ホイシクマカンベツ川・シンノスケクンベツ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

コイボクウシュベツ川

{koy-pok}-us-pet
{西のほう}・そこにある・川


白老町西部を流れる「敷生川」の支流の名前です。薄っすらと気づいていたのですが、白老町、川の数がすごく多く無いですかね……?

「東蝦夷日誌」には次のように記されていました。

右コエカタベツ(小川)、左コエホクシベツ(本川)、其源にシキウ岳と云有。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.97 より引用)

また、「東西蝦夷山川地理取調図」には「コヱホクウシヘツ」とあります。これらを素直に読み解くと {koy-pok}-us-pet で「{西のほう}・そこにある・川」と解釈できそうですね。

koy-pok は、元来は「波・しも」という意味で、対称的な語彙として koy-ka で「波・かみ」というものがあります。koy-ka が「東」で koy-pok を「西」と考えてもおおよそ間違いでは無いのですが、白老のあたりだと海岸線が北東から南西に伸びているので、この場合は koy-ka は「北東」であると考えたほうが適切かもしれません。

えぇと、何が言いたいかと言うと、地球の自転軸から導き出される厳密な「東西南北」とはちょっと違う概念なんだよ、といったところでしょうか。その証左として適切であるかどうかは別として、アイヌ語では「東のほう」「西のほう」を意味する語彙はよく目にするものの、「北」や「南」を意味する語彙は事実上無いんじゃないか、なんて話もあります。

トウヤマンナイ川

to-ya-an-nay
沼・岸・ある・沢


敷生川を遡ると、途中で「コイボクウシュベツ川」や「白水川」などの支流と枝分かれしますが、さらに本流側を遡ると、上流の山腹にいくつか池があることに気が付きます。国土地理院の地形図をちらっと見ただけでも 6 つほどの池と湿地が見えますが、トウヤマンナイ川はそのなかでもひときわ大きい池から流れ出ています。残念ながら国土地理院の地形図には川として記載がありませんが……。

ちなみに、「北海道測量舎五万分一地形図 胆振国」のトレース図を見た感じでは、当時は現在の「敷生川」に対する名前として「トヲヤアンナイ」と記されていたようにも見えます。白老町河川位置図によると「トウヤマンナイ川」は「敷生川」の東側を流れる別の川、という扱いですが、はてさて……。

「トウヤマンナイ」は、「トヲヤアンナイ」の転記ミスと考えるのが一番楽……じゃなくて自然じゃないかなぁ、と思います。to-ya-an-nay で「沼・岸・ある・沢」と考えられそうです。

ホイシクマカンベツ川

poy-{siki(-o-i)}-makan-pet
小さな・{敷生川}・奥へ行く・川


敷生川の源流のひとつ……と言ってしまっていいでしょうか。そして意味するところがさっぱりわかりません。そう言えば以前に「欧風ホイリゲ」という看板の出ている店を見かけて、同じく意味するところがさっぱりわからなかったことを思い出しました。要するに意味するところがさっぱりわからない、というところだけ理解できました(一体何を言っている)。

この川が、「東西蝦夷山川地理取調図」に「コエカタウシヘツ」として記されている川のことなんでしょうか。「コエカタウシヘツ」と「ホイシクマカンベツ川」、転訛した、あるいは転記ミスがあったと考えるのは少し厳しそうな気もします。

北海道測量舎五万分一地形図 胆振国」のトレース図を見ると、川の名前が記されていたのですが、「ホイシクフオシマツプクシペツ」とあるように見えます(あるいは「ホイシクフオシマケクシペツ」かもしれません)。

「欧風ホイリゲ」だけで意味不明なのに(それはどうでもいい)、その上に「ホイシクフオシマケクシペツ」という川名を見かけて「なんじゃこりゃああ®」となっていたのですが、数分後、「あ、もしかして……」と思える解釈が浮かびました。poy-{siki-o-i}-osmake-kus-pet で「小さな・{敷生川}・後ろ・通行する・川」と解釈できるのではないかと。

osmak は「うしろ;背後」を意味しますが、知里さんの語原解では os-mak で「尻・後ろ」ではないかとのこと。mak真駒内苫小牧幕別などで見かけますね。

つまり(え?)、「ホイシクマカンベツ」は poy-{siki(-o-i)}-makan-pet で「小さな・{敷生川}・奥へ行く・川」と解釈できるのでは、と思い当たったわけです。osmake-kus(後ろ・通行する)が意味の似通った makan(奥へ行く)に置き換えられて現在に至る……というオチなのではないかと。

シンノスケクンベツ川

sin-noske-kus-pet
山脈・中央・通行する・川


ホイシクマカンベツ川の北を流れる、敷生川の源流のひとつです。近くに野原があれば面白かったのですが、残念ながら深い深い山の中でして……。

特にネタ元も無いのでそのまま解釈を考えてしまいますが、sin-noske-kus-pet で「山脈・中央・通行する・川」ではないかと。sin で「山脈」なんて語彙はあったっけ? と首を傾げる方もいらっしゃるかもしれませんが、元々は sir で「山」だったり「大地」だったりを意味する語彙のことで、知里さんの「アイヌ語入門」p.169 にある「r は,n の前に来れば,それに引かれて n になる」という音韻転化の法則に従ったものです。いやまぁ「『山脈』ではなくて『山』じゃないか」というツッコミは甘受するしか無いのですが……。

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