2020年8月9日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (753) 「美笛・モンルン美笛川・ソウオン美笛川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

美笛

pi-puy??
石・岬

(?? = 典拠あるが疑わしい、類型未確認)

支笏湖の西南西側の地名で、川による扇状地が広がっています。南を通る国道 276 号に「美笛トンネル」があるほか、「開かずの道道」として知られる道道 78 号「支笏湖線」が南北に通っています。湖岸に同名のキャンプ場(美笛キャンプ場)があり、道道 78 号もキャンプ場までは開通していることが多いようです。

永田地名解には次のように記されていました。

Pi pui  ピ プイ  水無シ澤ノ延胡索 「プイ」草ハ土人其根ヲ食料トス
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.217 より引用)

色々とツッコミどころの豊富な解のようで、まず puy は「エゾエンゴサクの根」ではなく「エゾノリュウキンカの根」を意味するのが一般的です(「エゾエンゴサクの根」は toma が主流でしょうか)。

この誤謬については多くのツッコミが入っているようで、更科源蔵さんも「アイヌ語地名解」にて次のように記していました。

プイとは延胡索ではなくえぞりうきんかで、これはたしかにえぞえんごさくと共に昔の食糧ではあったが、この川は石川でえぞりうきんかの生えそうな川ではないし、現在見当らなかった。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.98 より引用)

ということで、「エゾノリュウキンカ」説も全力で否定されていました。

また、山田秀三さんも「北海道の地名」にて次のように記していました。

美笛 びふえ
 千歳市内西南端の地名。支笏湖に美笛という部落があり,美笛川が支笏湖に入っている。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.57 より引用)

地理院地図では、川の名前は「千歳川」になっていましたが、Google マップでは一部に「美笛川」という表記が残っていました。戦前の陸軍図を見ると「美笛川」になっているので、昔は「美笛川」と呼ばれていたみたいですね。

永田地名解は「ピ・プイ。水無沢の涎胡索(えんこそ)。プイ草は土人其の根を食料とす」と書いたが,どうも分からない。ピに水無沢などの意味はなさそうである。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.57-58 より引用)

「ピに水無沢などの意味はなさそうである」というのもその通りなのですが、pi には「小石」という意味があるので、「小石が目立つ」=「涸れている」という連想は可能なのかもしれません。更科さんも pi は「小石」だとした上で、次のような説を立てていました。

ピ・エプィ(石の蕾)で石の小山のことと思われる。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.98 より引用)

epuy には「実」や「種」という意味があるほか、地形では「小山」と言った風に解釈されるようです。知里さんepuy の原義は「頭」であると考えていたようで、また puy にも「頭」や「岬」と解釈する例があることを指摘していました(斜里での事例)。

美笛における千歳川(美笛川)の地形的な特徴としては、巨大な扇状地・三角州と「美笛トンネル」の北に伸びた山が挙げられるかと思います。pi-puy であれば、やはり「石・岬」と考えるのが良さそうかな、と思います。

モンルン美笛川(もんるんびふえ──)

mosir-un-{pi-puy}??
島・ついている・{美笛川}

(?? = 典拠あるが疑わしい、類型未確認)

千歳川(美笛川)の北支流で、国道 276 号の「支笏大橋」の北東あたりで千歳川(美笛川)と合流しています。古い地図を見ると「モシルウンピプイ川」と描かれているように見えますが、もしかしたら「モンルウンピプイ川」かもしれません。

実は、どちらにしてもしっくり来る解が出てこなかったりするのですが(汗)、仮に「モシルウンピプイ川」であれば mosir-un-{pi-puy} で「大地・についている・{美笛川}」となるのでしょうか。

少し気の利いた解釈をするならば「島・ついている・{美笛川}」かもしれません。戦前の地形図を見た限りでは、美笛川とその支流には無数のドットが描かれており、砂利の多い川だったようにも見受けられます(なにしろ pi-puy ですからね)。流れてくる土砂が多く、島が形成されることが多かったのかな……という想像です。

もし「モンルウンピプイ川」だった場合は……そうですね。mun-ru-un-{pi-puy} で「草の・道・ついている・{美笛川}」あたりでしょうか。現在の「モンルン美笛川」沿いには道がついていますが、道は川沿いにかつて存在して金を算出したという「美笛鉱山」絡みのものだったように見受けられます。

この川筋は交通路としては今ひとつ使いでのない地形に見えますので、この考えは今ひとつかもしれませんね。

ソウオン美笛川(そうおんびふえ──)

so-wen-{pi-puy}
滝・悪い・{美笛川}

(?? = 典拠あるが疑わしい、類型未確認)

千歳川(美笛川)の西支流で、下流部に「美笛の滝」がある川です。滝壺に注ぐ水音が喧しいからソウオン美笛川……という訳は流石に無いようで、古い地形図によると元々は「ソーウエンピプイ川」だったとのこと。

「ソーウエンピプイ川」は so-wen-{pi-puy} で「滝・悪い・{美笛川}」と読めます。「滝が悪い」とはどういうことか……という疑問が出てきますが、地形図を見た限りではこの滝は相当険しいようで、川筋を歩く(遡る)上で「宜しくない」という意味だったのではないかな、と思われます。

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