2020年8月23日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (757) 「勇舞・メムシ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

勇舞(ゆうまい)

i-oma-i?
アレ・そこにある・川

(? = 典拠なし、類型多数)

JR 千歳線・長都駅(おさつ──)の東側の地名で、同名の川が北北東に向かって流れています(長都川の東支流)。千歳の市街地の地名は和名由来のものが殆どに見えますが、この「勇舞」は数少ない例外ではないかと考えています。

「北海道地名誌」には次のように紹介されていました。

 勇舞沢(ゆうまいさわ) 細長く東西に延びる市域の中央部で,恵庭市との境界をなしている。上長都西方の沢で,長都川と合している。「ユマイ」はアイヌ語で温泉あるの意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.45 より引用)

あれっ、勇舞川の西側(長都駅付近)も千歳市なのに変だなぁ……と思ったのですが、実は勇舞川は道央道の西側、陸上自衛隊千歳・恵庭演習場の中を流れていて、演習場の中では千歳市と恵庭市の境界になっていました。「市域の中心部」は「市街地の中心部」という意味では無かったのですね。

本題に戻ると、「勇舞」は yu-oma-i で「温泉・そこにある・もの(川)」と考えたようですね。なるほど、確かにありそうな解ではあります。

アレが折れた川

明治時代の地形図には、現在の「勇舞川」の位置に「イヨマイ川」と描かれていました。また、「東西蝦夷山川地理取調図」にも「イヨマナイ」という川が「ヲサツトウ」(長都沼)に直接注ぐように描かれています。

「長都沼」は道東自動車道の「新千歳川橋」と「千歳東 IC」の間あたりに存在した沼ですが、灌漑事業により農地へと生まれ変わっています。

そして、戊午日誌「東西新道誌」には次のように記されていました。

過ること茅野しばしにて、右の方ランコウシ村(チトセ会所の上也)え道有。此処谷地にて尾鼠荻等多く処也。
     イヨマイ
此処少しの沼なり。其名義は往昔山え行に爺が木に上り居て落、陰茎を折損ぜしによつて此名有とかや。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.431-432 より引用)

……。えーと……、「アイヌ語沙流方言辞典」には次のようにありました。

iyomauske イヨマウㇱケ【名】[i-y-oma-uske もの・(挿入音)・そこにある・ところ][隠]ものがある所=男の陰部。
(田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」草風館 p.262 より引用)

これを見る限りでは「折損」というニュアンスは含まれないようですね。そして iuske も違うと言えば違うよなぁ……と思ったのですが、萱野さんの辞書を見てみると……

イヨマイ【i-oma-i】
 陰門.
 ▷イ=それ(=男性器) オマ=入る イ=所 =ポアパ(ポ=子供 アパ=戸)
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.79 より引用)

なんと、ついに性別が逆転してしまいました。i-oma-i で「アレ・そこに入る・ところ」と言うのですが……。

地名女体化説?

知里さん(知里真志保)は地名解釈についても画期的な説をいくつも提唱したことで知られていますが、中でも最も有名なのが「地名人体説」でしょうか。氏の古典的名著である「アイヌ語入門」から、その考え方を見てみましょう。

古い時代のアイヌは,川を人間同様の生物と考えていた。生物だから,それは肉体をもち,たとえば水源を「ペッ・キタィ」(pét-kitay 川の頭)とよび,川の中流を「ペッ・ラントㇺ(pét-rantom 川の胸)とよび,川の曲り角を「しットㇰ」(síttok 肘)とよび,幾重にも屈曲して流れている所を「かンカン」(kánkan 腸) あるいは「よㇱペ」(yóspe 腸),川口を「オ」( o 陰部)とよぶのである。
(知里真志保「アイヌ語入門 復刻─とくに地名研究者のために」北海道出版企画センター p.40-41 より引用)※ 原文ママ

また「地名アイヌ語小辞典」にも次のような記述がありました。

③川尻。o-sat-nay「川尻〔の〕・乾いている・川」。[今は o を「川尻」の意に解しているが,もとは「川の陰部」の意だったらしい。ただし,川は古く女性に考えられていたので,川の陰部と云っても,そこには女性の陰部を意識していたと思われる。「オ・さッ・ナィ」などという地名も,今は「川尻の・乾いている・川」の意に解しているが,古くは「その陰部の・乾いている・川」の意で,そこでは不感症の女性が意識されていたかもしれない。]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.72-73 より引用)

うーむ……。もうお気づきかもしれませんが、現在の「勇舞川」が合流する「長都川」は o-sat(-nay) だと考えられるのですね。まさか「陰茎を折損ぜし」という話が「その陰部の・乾いている・川」からの連想だったりしたら、こんなに面白い話は滅多に無いのではないでしょうか(多分それは無いだろうとも思ってますが)。

閑話休題

「勇ましく舞う川」が男性器のメタファーだったりした日には思わず吹き出しそうになりますが、さすがに本来は別の意味があったんじゃないかと考えてみたいです。「イヨマイ」または「イヨマナイ」であれば、i-oma-i あるいは i-oma-nay で、「アレ・そこにある・もの(川)」と考えられます(「アレ・入る・ところ」と本質的は同一ですが)。

最初の i- は「アレ」としていますが、言挙げを憚るために用いられる指示代名詞と考えられます。「アレ」は「熊」だったり「マムシ」だったりしますが、あるいは「男性器」なのかもしれません(笑)。あまり口にしたくない何かが出る川だった、と考えるしか無さそうですね。

メムシ川

mem-us-i???
泉池・ついている・もの(川)

(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)

千歳川と祝梅川の間を北に流れる川の名前です。また、川の南東側の千歳市弥生には「メムシ公園」という公園があります。

手元の資料には参考となりそうな情報が無く、アイヌ語に由来するか否かも確認が必要ですが、アイヌ語由来だと考えると mem-us-i で「泉池・ついている・もの(川)」と読めそうですね。

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