2021年4月11日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (822) 「幌内・枝枝幸・ウエンシテント川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

幌内(ほろない)

poro-nay
大きな・川

(典拠あり、類型あり)

雄武町北部の地名で、1915 年(大正 4 年)までは「幌内村」が存在していました。同名の川が流れていて、下流部に「幌内ダム」が存在します。下流側にそこそこ落差の大きいダムがあるというのは珍しいですよね。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ホロナイ」という名前の川が描かれていました。明治時代の地形図には、村の名前として「幌内」が、そして川の名前として「ポロナイ」が描かれていました。「再航蝦夷日誌」「竹四郎廻浦日記」ともに「ホロナイ」という川名が記録されています。

永田地名解には次のように記されていました。

Poro nai  ポロ ナイ  大川 幌内村
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.445 より引用)

幌内川は雄武町でもっとも大きな川で、水源を溯るとピヤシリ山に辿り着きます。故に poro-nay で「大きな・川」ということなんですね。

枝枝幸(えだえさし)

etu-e-san(-i)?
岬・そこから・浜へ降りる(・ところ)

(? = 典拠あるが疑わしい、類型あり)

雄武町幌内の北西に位置するあたりの地名です。同名の川も流れています。バス停もあるようですが、バス停の名前は「枝々差」とのこと。古い地図には「幌内駅」と描かれているので、これはかつて駅逓が存在していたということでしょうか。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「エタエサン」あるいは「エタエサシ」と描かれているように見えます。「再航蝦夷日誌」では「ヱタヱサン岬」で、「竹四郎廻浦日記」でも「エタエサンサキ」とあります。やはり「東西蝦夷──」も「エタエサン」が正解のような気がしてきました。

明治時代の地形図では「エタエサシュ」と描かれています。これは永田地名解を参照したものかもしれませんね。

Etaesash  エタエサシュ  昆布岬 此岬下ニ於テ昆布ヲ取リ食ヒシコトアリ故ニ名クト云フ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.444 より引用)

えーと、etu-e-sas で「岬・食べる・昆布」と言うことでしょうか(汗)。永田方正氏は「枝幸」も「昆布」としていたので、やはり昆布に思い入れがあるのでしょうか。

道内各所にある「エサシ」あるいは「エサウシ」は e-sa-us-i で「頭・浜・突き出している・もの」と考えられるので、{e-sa-us-i} 自体が「」であると言えます。また etu は「」で、転じてこれも「」を意味します。

「枝枝幸」という地名は「枝」という字が重なっていますが、etu-{e-sa-us-i} と考えると「岬・岬」という、よくわからない話になってしまいます。

その点、松浦武四郎が記録した「エタエサン」であれば、まだ逃げ道があると言うか……(汗)。etu-e-san であれば「岬・そこから・浜へ降りる」と読めますし、etu-e-san(-us)-i で「岬・そこから・浜へ降りる(・いつもする)・ところ」と呼ぶこともあった……かもしれません。

ウエンシテント川

wen-{sir-etu}?
悪い・{岬}

(? = 典拠あるが疑わしい、類型あり)

枝枝幸の北西、枝幸町との境界の少し手前にある小川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には該当しそうな川が見当たらないようです。

改めて「トイナイ川」(枝幸町)と「幌内川」(雄武町)の間の地名(川名)を確認してみると、「東西蝦夷──」では次のようになります。

1     トエナイ
2     トンナイウシノツ
3     トンナイウシ
4     リシラウシ
5     クチモツテキナイ
6     エタエサシ
7     アイノカルシナイ
8     チカフトエンルン
9     ホロナイ

「再航蝦夷日誌」では次の通りです。かなり細かく説明が入っているので、地名(川名)のみピックアップすると……

1     トヱナイ
3     トンナイウシ
4     リシラウシ
      チヱシチシ
      止宿所
5     クチモテツキナヱ
6     ヱタヱサン岬
7     アイノカルシナイ
8     ツカウテンルム
9     ホロナイ
(松浦武四郎・著 吉田武三・校註「三航蝦夷日誌 下巻」吉川弘文館 p.134 より抜粋引用)※ 番号は筆者が追記

「竹四郎廻浦日記」では次の通りです。こちらも同様に地名(人名)のみピックアップしますが……

1     トイナイ 小川
3     トンナイウシ 小川
4     リライシ 此所より山道
5     クチユフテクナイ 海岸崖
6     エタエサンサキ
7     アイノカルシナイ
8     ツカウテエンルン 此所より下る。
9     ホロナイ
(松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.329-333 より抜粋引用)※ 番号は筆者が追記

最後に、明治時代の地形図から同区間の地名(川名)を拾ってみると……

1     トイナイ(川)
2     ト゚ンナイウシュノツ(岬)
      トペンウシュ(岩岬)
3     ト゚ンナイウシュ(川)
      ウエンシラト(川)
5     クチベチツケナイ(川)
6     エタエサシュ(川)
      幌内駅
7     アイヌカルシカイ(川)
8     チカオツエンルム
      シマイシヤニ
9     幌内川(川)

このようになります。突然出てきた感のある「ウエンシテント川」ですが、連番から考えると「リシラウシ」(ri-sirar-us-i で「高い・岩・ある・ところ」か)あたりに相当しそうでしょうか。

そして明治時代の地形図にある「ウエンシラト」というのは良いヒントになりそうです。おそらく wen-{sir-etu} で「悪い・{岬}」あたりで、沿岸を舟行する上で邪魔になる岩礁があったということでは無いでしょうか。

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