2021年4月10日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (821) 「フンベオマナイ川・ポンオムシロナイ川・オキシナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

フンベオマナイ川

humpe-oma-nay
鯨・そこにいる・川

(典拠あり、類型あり)

雄武町音稲府と幌内の中間あたり(やや音稲府寄り)に、かつて「ウェンノツ」(wen-not で「悪い・岬」)と呼ばれた岬があるのですが、フンベオマナイ川はその少し北西側を流れています。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「フンヘヲマナイ」という名前の川が記録されています。また明治時代の地形図には「フムペオマナイ」という川が描かれているのですが……あれ? 上流部は現在の「ポンオムシロナイ川」相当の位置で、下流部は「ポンオムシロナイ川」の北隣の川の位置として描かれていますね。

「東西──」では、現在「フンベオマナイ川」とされる川の位置に「ノツソトマナイ」という川が描かれています。これは明治時代の地形図にも「ノッシュッオマナイ」と描かれていて、not-sut-oma-nay で「岬・ふもと・そこに入る・川と解釈できるので意味にも矛盾はありません。どうやら「フンベオマナイ川」はどこかのタイミングで誤って「お引越し」してしまったようですね。

「フンベオマナイ川」に戻りますが、「再航蝦夷日誌」には「ウンベヲマナイ」という名前の小川が記録されていました。「竹四郎廻浦日記」では「ウンヘヲマナイ」という名前の小川とされています。

永田地名解には次のように記されていました。

Humbe oma nai  フㇺベ オマ ナイ  鯨川 小川ナリ鯨ノ寄リタルコトアリ故ニ名ク
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.445 より引用)

はい。やはり humpe-oma-nay で「鯨・そこにいる・川」と考えて良さそうです。きっと近くに鯨が漂着したことがあったのでしょうね。

ポンオムシロナイ川

pon-o-mosir-nay??
小さな・河口・陸地・川

(?? = 典拠なし、類型あり)

現在「フンベオマナイ川」と呼ばれる川(かつての「ノツソトマナイ」)の北西隣を流れる川の名前です。明治時代の地形図を見ると、「ノツソトマナイ」の北西には「シンノシュケオマナイ」と「ポンオムシュイ」という川があり、「ポンオムシュイ」の上流が「フムペオマナイ」だったように見えます。

「ウェンノツ岬」の北西に川が 3 つあるのですが、「東西蝦夷山川地理取調図」には次のように描かれていました。

     ホンエンルン
     ノテヲロ
     ヲムシユイ
     フンヘヲマナイ
     シンノシケヲマナイ
     ノツソトマナイ
     ウエンノ子

「再航蝦夷日誌」には次のように記されていました。どうやら「ノツソトマナイ」に相当する記録がスキップされているようです。

     ホンエンルム
幷て
     ノチヲロ
幷而しばし行て
     ホンヲムシユイ
砂浜道よろし。幷て
     ウンベヲマナイ
小川有。越て
     シンノシケヲマナイ
小川有。越而しばし行
     ウヱンノチサキ
此処少しの岬也。此上を通り此岬とヱタエサシサキと対し而一港をなす也。
松浦武四郎・著 吉田武三・校註「三航蝦夷日誌 下巻」吉川弘文館 p.135 より引用)

あー、やはり「ヲムシユイ」ではなく「ホンヲムシユイ」になっていますね。「竹四郎廻浦日記」でも同様で、「ノツソトマナイ」に相当する記録がスキップされています。

     ホンエンルン
     ホンヲムシユイ 小川
     ウンヘヲマナイ 小川
     シンノシケヲマナイ 此所より岡道へ上る。
     ウエンノチ岬 此上を通る。
(松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.335 より引用)

これらの記録を見る限り、「ポンオムシロナイ」は「ホンヲムシユイ」だったと考えるしか無いのかな、と思わせます。そして「ホンヲムシユイ」は現在の「ポンオムシロナイ川」の位置ではなく、その北隣の川(名前未詳)のことだったと考えられそうです。

穴か、それとも陸地か

永田地名解には次のように記されていました。

Pon omu shui  ポン オム シュイ  川尻塞リテ沙中ノ穴ヲ流ルル川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.445 より引用)

pon-o-mu-suy で「小さな・河口・塞がる・穴」となりますので、一応意味は通じるでしょうか。ただ、現在の川名が「ポンオムシロナイ川」となると、pon-o-mosir-nay で「小さな・河口・陸地・川」だったのではと考えたくなります。

逆説的ですが pon-o-mosir-i で「小さな・河口・陸地・もの(川)」だとすれば「ポンオムシュイ」に発音も近くなるんじゃないか、と思うのですが……。

オキシナイ川

o-ki-us-nay??
河口・茅・多くある・川

(?? = 典拠なし、類型あり)

現在「フンベオマナイ川」とされる川と「雄武町幌内」の中間あたりを流れる川の名前です。残念ながら地理院地図には該当する河川は描かれていません。

「東西蝦夷山川地理取調図」や「再航蝦夷日誌」「竹四郎廻浦日記」などにも記載は見当たりません。ただ明治時代の地形図には「オキシナイ」という川が描かれていましたので、少なくともその頃から川の名前として認識されていたようです。

この「オキシナイ川」ですが、音からは o-ki-us-nay で「河口・茅・多くある・川」と考えるのが自然でしょうか。解釈を同じくすると思われる「興志内」が、古宇郡泊村にも存在します。

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