2021年4月25日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (826) 「パンケオロピリカイ川・ペンケオロピリカイ川・毛鐘尻山」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

パンケオロピリカイ川

panke-oro-pirka-i
川下側の・その中・良い・もの(川)

(典拠あり、類型あり)

雄武町上幌内の南西側で幌内川に合流する東支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヘンケヲロヒリヤイ」(ママ)という川は描かれていますが、「パンケオロピリカイ川」らしき川は異なる名前で描かれているように見えます。

「竹四郎廻浦日記」には「ヲロヒリカイ」という名前の川の存在が記録されていました。明治時代の地形図には「パンケオロピリカイ」と描かれているものと、何故か「ヤム」と描かれているものがありました。

永田地名解には次のように記されていました。

Panke oro pirika-i  パンケ オロ ピリカイ  下ノ川中善キ處 水中歩シ易ク水モ亦淸シ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.452 より引用)

どうやら panke-oro-pirka-i で「川下側の・その中・良い・もの(川)」と考えて良さそうでしょうか。

ペンケオロピリカイ川

penke-oro-pirka-i
川上側の・その中・良い・もの(川)

(典拠あり、類型あり)

パンケオロピリカイ川の合流点から幌内川を少し川上側に遡ったところで合流している、幌内川の東支流の名前です。「パンケオロピリカイ川」よりも規模の小さな川ですが、こちらは何故か「東西蝦夷山川地理取調図」に「ヘンケヲロヒリヤイ」(ママ)として描かれています。

永田地名解にも次のように記されていました。

Penke oro pirika-i  ペンケ オロ ピリカイ  上ノ川中善キ處
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.452 より引用)

これもやはり penke-oro-pirka-i で「川上側の・その中・良い・もの(川)」と考えるべき……なんでしょうね。

ヲロヲロヲロ……

ちょいと余談ですが、「竹四郎廻浦日記」では幌内川の支流を次のようにリストアップしていました。

 此川巾狭(十間)けれども遅流にして、字ヲシサ ヲチヒ子サン、ヲシヲシナイ、ヲロヒリカイ、ヲロウエンホロ、ヲロナイタイ、ルウチシ、此処より沢目五六里上、堅雪の節はテシホ川筋ナヨロと云え昔しは皆越縁組までせし由。
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.334 より引用)

やたらと「ヲ」の字が目立っていますが、その中でも「ヲロヒリカイ」「ヲロウエンホロ」「ヲロナイタイ」のような oro 系の地名が多いことに気づきます。oro-wen-{poro-nay}oro-pirka-ioro を「その中」と解釈できるのですが、「ヲロナイタイ」をどう解釈したものか、ちょっと疑問に思えてきました。

「ナイタイ」を nay-ta-i で「川・にいる・もの」と解釈できなくは無いのですが、oro-nay-ta-i で「その中・川・にいる・もの」というのは意味が良くわからなくなります。また nay-tay で「川・林」と言うのも見聞きしたことがありません。

内大部」という川名・地名がありますが、これは nay-e-etaye-pet ではないかと考えています。「ヲロナイタイ」を同様に oro-{nay-e}-etaye と考えてみると、「その中・{沢・頭}(水源)・引っ張る」となり、あきらかに変です。

前述の通り、幌内川の支流には妙に oro が多いので、これはもしかしたら oro ではなく o-ru-o で「そこに・道・ある」なのかもしれないな……と思い始めています。実は penke-o-ru-o-pirka-i も「川上側の・そこに・道・ある・良い・もの(川)」なのかもしれません。

毛鐘尻山(けがねしり──)

{kep-ka}-ne-sir???
{かじられた}・ような・山

(??? = 典拠なし、類型未確認)

パンケオロピリカイ川を遡ると、途中で東に向きを変えることになるのですが、「毛鐘尻山」はその源流部に聳える標高 916.4 m の山です。近くを紋別郡雄武町・上川郡下川町の町境が通っていますが、毛鐘尻山は町境から 0.6 km ほど北にずれているため、下川町には接していません。

「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 毛鐘尻山(けがねしりやま)916.3メートル 下川町の境に近いパンケオロピリカイ川(幌内川右支流)水源の山。アイヌ語の意味不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.500 より引用)

さて、これはどう考えたものでしょうか。地形図で見てみると、毛鐘尻山の西側が崩れたようになっていて、更に良く見てみると西側が全体的にえぐられているようにも見えます。もしかしてこのことを形容して {kep-ka}-ne-sir で「{かじられた}・ような・山」と呼んだのではないか……と思えてきました。

そう言えば、どこかによく似た形の山があったような……と思っていたのですが、「イルムケップ山」とそっくりだったことを思い出しました。「イルムケップ」は {en-rum}-kip で「岬}・前頭」ではないかと考えているのですが、となると「毛鐘尻山」も kip である可能性も出てきます。

改めて田村さんの辞書を見てみると、kip には「額の髪のはえぎわ」という意味があるとのこと。となると kip-ka は「額の髪のはえぎわ・の上」ということになります。言われてみれば、確かに「毛鐘尻山」は尻ではなく頭のようにも見えてきます。kip-ka-ne-sir だと「額の髪のはえぎわ・の上・のような・山」となりそうですね。

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