2020年10月18日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (773) 「イルムケップ山・ペンケキプシュナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

イルムケップ山

{en-rum}-kip???
{岬}・前頭

(??? = 典拠なし、類型未確認)

赤平市北部、芦別市との境界上に聳える標高 864.3 m の山の名前です。沖里河山(標高 802 m)や音江山(標高 795.4 m)と近く、トライアングルを形成しているようにも見えます。

明治時代の地形図には「イルムケップ」の文字は無く、音江山と思しき位置に標高 825 m の「シルツルヌプリ」という名前が描かれていました。

「北海道地名誌」の「沖里河山」の項には次のように記されていました。

 沖里河山 (おきりかやま) 802.1 メートル オキリカップ川の水源にあるというが,実際は音江川の水源にあり,最初の 5 万分図にはイルムケップ山とある。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.244 より引用)

現在は「イルムケップ山」「沖里河山」「音江山」の 3 つの山として認識されていますが、沖里河山と音江山の位置関係が「オキリカップ川」と「音江川」の位置関係とは逆だったりしますし、色々と混乱があったであろうことを伺わせます。

鼠は山を噛ったか

本題に入りますが、更科さんの「アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 イルムケップ山
 芦別市と赤平市との境にある山、意味は鼠の噛るものであるという説もあるが、意味不明であるといった方がよいようである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.119 より引用)

ermu-ke-p で「ネズミ・かじる・もの」と考えたのですね。いくらなんでもそれは無いのでは……と思いたくなりますが、その辺は更科さんも承知していて、結局の所は「意味不明」で締めています。

ただ、いいヒントを頂いたような気がします。ermu(ネズミ)と en-rum(岬)を混同するのはアイヌ語地名のお約束のひとつで、ここもその例ではないかと考えてみました。ermu ではなく en-rum{岬})で、ke-p ではなく kip前頭)と考えると、イルムケップ山の特徴にも合致すると思われるのです。

{en-rum}-kip で「{岬}・前頭」ではないか……という説ですが、音江山の東、沖里河山の南(イルムケップ山の北)に標高 804 m の峰があり、そこから南東に伸びる峰があります。面白いことに、イルムケップ山はその峰の上にあるのではなく、そこから更に南側に飛び出た位置にあります。このことを形容して「岬の前頭」と呼んだのではないか……という推測です。

ペンケキプシュナイ川

penke-kip-us-nay??
川上側の・前頭(イルムケップ山)に・ついている・川

(?? = 典拠あるが疑わしい、類型未確認)

赤平市茂尻のあたりで空知川に注ぐ北支流の名前です。ペンケキプシュナイ川自身の支流として「右ペンケキプシュナイ川」があります。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヘンケチフシナイ」「ハンケチフシナイ」という川が描かれていました。また丁巳日誌「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。

しばし過て
     ハンゲゲフシナイ
     ヘンゲケフシナイ
等左りの方。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.369 より引用)

「チフシナイ」が「ゲフシナイ」に進化(?)したようですが、続いて永田地名解も見ておきましょうか。

Panke poro nai    パンケ ポロ ナイ      下ノ大川
Penke kip ush nai  ペンケ キㇷ゚ ウㇱュ ナイ  上ノ大川
Panke kip ush nai  パンケ キㇷ゚ ウㇱュ ナイ  下ノ大川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.64 より引用)

うーむ。川名は現在とほぼ同じ形になりましたが、その解釈は随分とテキトーと言いますか……。ちなみに「パンケ キㇷ゚ ウㇱュ ナイ」は現在の「赤間沢川」のことなのですが、「パンケ幌内川」と全く同じ解になっちゃってます。知里さんが激おこになるのもなんとなく理解できますね……。

改めて、「ペンケキプシュナイ」の意味をもう少しだけ丁寧に考えてみましょう。penke-kip-us-nay となろうかと思われるので、要は kip が何かを理解すれば良さそうです。……あ(!)

何のことはない、ペンケキプシュナイ川を遡った先に、巨大な kip があるではありませんか。kip は「前頭」のことで、ペンケキプシュナイ川の場合は「イルムケップ山」のことと考えることができます。penke-kip-us-nay は「川上側の・前頭に・ついている・川」で、イルムケップ山から流れ出る川、と考えられそうです。

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