2021年5月22日土曜日

次の投稿 › ‹  前の投稿

アイヌ語地名の傾向と対策 (833) 「オレタラップ川・近太虫・ペラウシュナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

オレタラップ川

o-retan-rap?
河口・白い・翼
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
枝幸町乙忠部の北部を流れる川の名前です。南隣を「モオレタラップ川」が流れています。

「東西蝦夷山川地理取調図」では「ヲレタンラフ」と描かれていて、南側には「ホンヲレタンラフ」と描かれています。

「再航蝦夷日誌」では「ヲレタニラフ」「ホンヲレタニラフ」となっていて、どちらも「小川有」となっています。「竹四郎廻浦日記」では少し違いがあり、「ヲレタンラフ 小川」の隣は「ヲン子ヲレタンラ 小川」となっています。

永田地名解には次のように記されていました。

O retanrap  オ レタンラㇷ゚  川尻ニ白沙アル處 「オタレタラプ」トモ云フ白砂場ノ義
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.442 より引用)
あっ、なるほど。retar は「白くある」という意味ですので、「オタレタラプ」であれば ota-retar-p で「砂浜・白い・ところ」と読めそうですね。

ただ、明治時代の地形図でも「オレタンラプ」となっていて、「オタレタラプ」とは少し違いがあることが気になります。「オレタンラプ」を素直に読み解けば o-retan-rap となるでしょうか(retanretar が音韻変化したものなので同じ意味です)。

あとは rap をどう解釈するかですが、知里さんの「──小辞典」には次のように記されていました。

rap, -u らㇷ゚ ①羽;翼。②両翼を張ったように突出ている出先。③=tapkop.
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.105 より引用)
rap 系の地名として真っ先に思い出すのが支笏湖畔の「モラップ山」なんですが、「モラップ山」は上記の①~③を全て満たしているかのような印象があります。一方で「オレタラップ川」の河口付近にそれらしき地形が見いだせるかと言われると、かなり厳しいように思えます。

ただ、河口の両側に広がる「砂浜」が「白い翼」のように見える……という話であればアリかなぁ、と。o-retan-rap で「河口・白い・翼」と解釈すると……ちょっと格好いいかも?

「モオレタラップ川」は mo-{o-retan-rap} で「小さな・{オレタラップ川}」と解釈して良いかと思われます。「竹四郎廻浦日記」が何故「大きな」を意味する onne を冠した形で記録したのかは不明……です。

近太虫(ちかぶとむし)

{chikap-toma}-us-i
{キバナノアマナ}・多くある・ところ
(典拠あり、類型あり)
1980 年代の「土地利用図」では、「乙忠部」の北に「ニウシドマリ」が描かれていて、その北に「チカブトムシ」が、そしてその北に「ベラウシナイ」という地名が描かれています。現在の地形図では、残念ながら「乙忠部」以外の地名を目にすることはありませんが、「近太虫」はバス停の名前として健在でした(!)。

この「近太虫」ですが、「東西蝦夷山川地理取調図」には「チカフトムシ」として描かれています。松浦武四郎が紀行の際に「チカフトムシ」で一泊したこともあってか、「再航蝦夷日誌」や「竹四郎廻浦日記」ではかなり詳らかに記されているのですが、何故か明治時代の地形図には記入がありません。

「チカフトムシ」の正確な位置を確認するために、組合せ表を書いてみました。

東西蝦夷山川地理取調図竹四郎廻浦日記永田地名解現在名
ヘラエウシナイヘラヱウシナイペライ ウㇱュ ナイペラウシュナイ川
-ホンヘラヱウシナイ-ミナミペラシュナイ川?
-ヲフンチヤクナイ-?
チカフトムシチカフトムシチカポ オト゚ン ウシ?
ノツカヲマナイノツコマナイノッ コマ ナイ名称未確認の川?
ウリヽエロキウリヽエロキウリリ エロキ?
ヲレタンラフヲレタンラフオ レタンラㇷ゚オレタラップ川
ホンヲレタンラフヲン子ヲレタンラポン オ レタンラㇷ゚モオレタラップ川
ヤムワツカナイヤムワツカヤㇺ ワㇰカオイ?
ニウシトマリニシトマリニ ウㇱュ トマリニウシナイポ川
-アワロイ-?
ヲチヽウベヲチウンヘオ キト゚ ウンペッ乙忠部川

大正時代以降の「チカブトムシ」は、組み合わせ表の「ウリリエロキ」のあたりの地名として描かれていますが、本来の「チカフトムシ」は岬の北側、現在の「ミナミペラシュナイ川」の南側あたりの地名だったように見えます。

「再航蝦夷日誌」と「竹四郎廻浦日記」には、いずれも「チカフトムシ」と記録されていますが、地名の由来については残念ながら抜け落ちてしまっているようです。

永田地名解には次のように記されていました。

Chikapo oton ushi  チカポ オト゚ン ウシ  チカ魚腐リタル處 「チカプトムシ」ト云フハ急言ナリ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.441 より引用)
うーん……。まず「チカ魚」というのが意味不明な感じがします。普通 chikap は「鳥」であり、あるいは「鷹」を意味するとされます(旭川近郊の「鷹栖町」が chikap-un-i だと言われていますよね)。otonotun?)というのも意味不明です。

幸いなことに、更科さんが永田地名解を完全否定しているようですので、ちょっと見てみましょうか。

 チカプトムシ
 乙忠部の北方海岸。チカプトマ・ウㇱで、の多いところの意であるが、この地名はほとんど使わず、一般に一本松といっている。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.202 より引用)
うわ。聞いたことのない植物が出てきたなぁ……と思ったのですが、知里さんの「植物編」にちゃんと記載がありました。

§ 343. キバナノアマナ Gagea lutea Ker-Gawl.
chikap-toma(chi-káp-to-ma)「チかㇷ゚・トマ」 [chikáp(鳥)tomá(エゾエンゴサクの塊莖)] 根莖 《幌別》《A 沙流・鵡川・千歳・石狩國上川郡》
(參考) 鱗莖を熱灰の中に埋けて燒いて食べた。煮て油をつけても食べた。葉も汁の實にした(幌別)。
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.204 より引用)
いやー、これだけズバっと来られては反論の余地はありませんね。{chikap-toma}-us-i で「{キバナノアマナ}・多くある・ところ」と考えて良いかと思います。

ペラウシュナイ川

peray-us-nay
魚を釣る・いつもする・川
(典拠あり、類型あり)
「オレタラップ川」の北、枝幸町山臼やまうす南部を流れる川の名前です。オレタラップ川とペラウシュナイ川の間には「ミナミペラシュナイ川」が流れているほか、ミナミペラシュナイ川とオレタラップ川の間にも名称未確認の川が流れています(但し地理院地図では川として描かれていません)。

「ペラウシュナイ川」ですが、「東西蝦夷山川地理取調図」に「ヘラエウシナイ」と言う名前で描かれている川のことだと考えられます。少し引っかかるのが、実際には「オレタラップ川」と規模が変わらないのに「乙忠部川」と同規模の川として(支流も含めて)描かれている点です。

永田地名解には次のように記されていました。

Perai ush nai  ペライ ウㇱュ ナイ  釣川 雑魚ヲ釣ル川ナリ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.441 より引用)
あ、peray は「魚を釣る」という意味なんですね。知里さんの「──小辞典」にも次のように記されていました。

péray ぺらィ 《完》魚を釣る。=ap-atte.
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.88 より引用)
ということで、peray-us-nay は「魚を釣る・いつもする・川」ということになりそうですね。釣りをするのに良い川だったので、「東西蝦夷山川地理取調図」でも仔細に記録されてしまった……ということなんでしょうか。

前の記事続きを読む

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

新着記事