2019年6月9日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (637) 「桃内・蘭島」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

桃内(ももない)

num-oma-nay
果実・そこにある・川


塩谷忍路の間に位置する地名で、同名の川も流れています。

手元の資料を眺めただけでも、かなり表記に揺れがあるようです。西蝦夷日誌には「スモマナイ〔桃内〕(番や、板くら、いなり社有)」とありますが、「竹四郎廻浦日記」では「モヽナイ 本名モウムナイ」となっていました(西蝦夷日誌の「スモマナイ」は誤植の可能性あり)。

「再航蝦夷日誌」では同じく「モヽナイ」で、「東西蝦夷山川地理取調図」に至っては「ヌマモナイ」という川があり、その支流として「ホンモヽナイ」と「ホロモヽナイ」という川が描かれています。

永田地名解には次のように記されていました。

Num oma nai  ヌㇺ オマ ナイ  果實澤 「ヌモマナイ」ト呼ブハ急言ナリ當地李樹多キコトハ先輩ノ日誌ニ見エタリ今桃内村ト稱スルハ「ヌモマナイ」ノ轉訛ナリ或ハ云海岸ナル桃形ノ岩石ニ名クト
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.91 より引用)

「先輩の日誌に見えたり」というのが興味深いですが、これは松浦先輩のことでしょうか?

num-oma-nay は「果実・そこにある・川」と読むことができます。「海岸に桃の形をした岩があるから」というのは話を盛ったっぽい印象もありますが、ほかは概ねありそうな話かな、と思います。

蘭島(らんしま)

ran-osma-nay?
下りる・入る・川


忍路湾の南、小樽市の西端に位置する地名で、同名の駅もあります。じゃあ、いつものアレ行っておきますか。ええ、アレですよね。ということで「北海道駅名の起源」を見ておきましょうか。

  蘭 島(らんしま)
所在地 小樽市
開 駅 明治 35 年 12 月 10 日(北海道鉄道)
起 源 もと「忍路(おしょろ)」といったが、明治 39 年 12 月 15 日に「蘭島」と改めた。「蘭島」とはアイヌ語の「ラノシマクナイ」の下を略したもので、語源は「ラン・オシマ・ナイ」(下り坂のうしろの川)である。なお「忍路」はアイヌ語の「ウ・シ・ヨロ」(湾)のことである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.32 より引用)

ふーむ。ran-osmak-nay で「坂・うしろ・川」ということでしょうか。割と珍しい形の地名ですね。ran は良く目にしますが、osmak は比較的珍しい印象があります。

改めて他の資料を見てみますと、「東西蝦夷山川地理取調図」には「ラヲシユマナイ」とあります。「西蝦夷日誌」には「ラゴシユマナイ」とあり、また「再航蝦夷日誌」にも「ラコシマナイ」と「ラコシユマナイサキ」という記載があります。

また、永田地名解には次のように記されていました。

Ranoshuma nai,= Ranoshuma-nai  ラノシュマ ナイ  下リ入ル處 古ヘ虻田「アイヌ」山ヲ越エテ此處ニ下リ入リテ住居シ其子孫南北ニ蕃息シタリト云フ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.92 より引用)

うぅむ……。ちょっと苦しくないでしょうかこの解釈。あと、ここまで見た限りでは osmak と読めそうな解が「駅名の起源」に出てきた「ラノシマクナイ」しかありません。更に言えば「下り坂の後ろの川」というのも若干意味不明です。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、ここまで出てきた解釈を以下の様にまとめてありました。

松浦武四郎の東西蝦夷山川地理取調図ではラヲシユマナイ,西蝦夷日誌ではラゴシユマナイであるが,他に例がなく,解しにくい。永田地名解が「ラノシュマナイ。下り入る処。古へ虻田アイヌ山を越えて此処に下り入りて,その子孫南北に蕃息したりと云ふ」と書いたのは,当時のアイヌ古老の説らしい。ラン・オシマ・ナイ(下り・入った・沢)の意なのであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.490-492 より引用)

散々考えたんですが、やはりそう考えるしか無さそうな感じなんですよね。永田地名解とほぼ同じなのですが、ran-osma-nay で「下りる・入る・川」とすべきなのでしょうか。なんかまだ、しっくり来ないんですけどね……。

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