2016年10月8日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (380) 「イツカナイ川・オパラダイ川・ペナコリ」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

イツカナイ川

ikka-nay?
盗み・沢
ika-nay?
越える・川、あふれる・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
平取町北部の岩知志で沙流川に注ぐ支流の名前です。ペンケロップ川とイワチシ川の間を東から西に流れています。

では、早速ですが永田地名解(鍋大好き)を見てみましょう。

Ikka nai  イㇰカ ナイ  盗澤(ヌスビトノサワ)
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.232 より引用)
これはまた……。ちょっと聞いたことの無い解が出てきましたね。なんだか良くわからないので、セカンド・オピニオン行ってみましょうか。

またしばしを過て
     べンケヒイ
     イツカナイ
等何れも右の方也。イツカナイ、其名義は昔し鹿取に行犬を他の土人一疋盗みて隠し置しと云事のよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.69 より引用)
あんれま……。永田地名解の謎な解は、もっと昔からの言い伝えだったのですね。確かに ikka には「盗む」「盗み」という意味があるようですので、ikka-nay で「盗み・沢」と解釈できてしまうわけですね。

ということで、古くから伝わっている「盗み・沢」は正解のひとつとするとして、もう少し地名らしい解も検討しておきましょうか。ika-nay であれば「行かない」……じゃなくて「越える・川」あるいは「あふれる・川」と考えることができます。

この解釈の妥当性も今ひとつピンと来ないのですが、現在の地形図を見た限り、イツカナイ川が合流するあたりの沙流川は、巨大な中洲によって左右二つに流れが別れています。流れが別れているということは、それぞれの水量は他の場所と比べて約半分になっているということで、もしかしたら他所よりも渡りやすかったのかな……などと。まぁ、牽強付会なんですけどね、はい(汗)。

オパラダイ川

o-para-tay(-nay)
川尻・広い・林(・沢)
(典拠あり、類型あり)
平取町荷負の西側、二風谷ダムのダム湖に注いでいる支流の名前です。そう言えば IAEA のエライさんにこんな名前の人がいたような……(それはエルバラダイでは)。

戊午日誌「東部沙留志」には次のようにありました。

また其向
     ハラタイ
西岸小川也。其名義は山の中え入るや広きよゐ川(林)と云事なりと。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.692 より引用)※ 註は解読者による
ふーむ。どうやら para-tay で「広い・林」と読んだようですね。このあたりは他ならぬ「二風谷」も含めて、tay(林)が出て来る率が高いような気もします。

ちなみに「ハラタイ」と「オパラダイ川」には多少の違いがありますが、「東西蝦夷山川地理取調図」には「ハラタナイ」と記されていました。これだと para-tay-nay で「広い・林・沢」なのかもしれません。

現在の川名は「オパラダイ川」なので、o-para-tay(-nay) で「川尻・広い・林(・沢)」と考えていいのかな、と思います。本当に川尻が広かったのかは、今は「にぶたに湖」の底に沈んでしまっているので、なんとも言えませんが……。

ペナコリ

peni(-un)-{kur-i}?
川上(・にいる)・{その人}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
オパラダイ川の反対側、「にぶたに湖」の東側に注ぐ沙流川の支流の名前です。もともとは地名も「ペナコリ」だったようなのですが、現在の地形図には「ペナコリ」という地名を見出すことはできません(現在は「荷負」)。

戊午日誌「東部沙留志」に記載がありました。

また少し上りて
     ベナコリ
東岸平地なり。此処小川有。其名義は昔しより此村は男女とも子供の育ちがよいによつて此名有りといへり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.693 より引用)
むむむ……。「健康優良児が多いので『ベナコリ』なのだ」とあるのですが、これはどう解釈すれば……(汗)。pena-kor-i だと「上のほう・産む・もの」と解釈できるような、あるいはできないような……(どっちだ)。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

土地の萱野茂さんが,ペナ・コ・リ(上流・に向かって・高い)とも読めそうだがと言っておられたやに覚えている。それなら言葉にあった名であろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.364 より引用)
ふむふむなるほど。確かにそう読み解けなくも無いですね。

そして、その萱野さんの辞書には、こんな記載が見つかりました。

ペニウンクㇽ 【peni-un-kur】
 奥の方の人:二風谷からみると沙流川上流のアイヌをそう呼んでいた.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.400 より引用)
ということで、案外、peni(-un)-{kur-i} で「川上(・にいる)・{その人}」あたりかなと思い始めていたりしますが、いかがなものでしょう。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

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