2020年2月1日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (699) 「雨煙内」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

雨煙内(うえんない)

wen-nay
悪い・川

(典拠あり、類型多数)
幌加内町の役場から、東に 1.5 km ほどのところにある集落の名前です。雨竜川の東支流として同名の川が流れていて、上流部には「雨煙内ダム」があります。

ややこしいことに、雨煙内川の 8 km ほど北に「雨煙別川」が流れています。山田秀三さんも「北海道の地名」でこの奇妙な偶然?について言及されていました。

何もない長い雨竜川筋ではまるで隣の川のような感じで,何だか変なのであった。流長は雨煙内が 9.8 キロ,雨煙別が 12.6 キロで,後の方が少し大きいという程度,共に周辺の川よりずっと大きい。もっとも,アイヌ語の地名は近距離に同名があるのは珍しくない。ここでは語尾のナイとペッが違うだけで区別していたのであろうか。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.85 より引用)

ウエンベツあれこれ

wen-petwen-nay は頻出地名(川名)とも呼べるもので、本当に道内のあちこちで見られます。漢字表記もバリエーションが豊富で、「雨煙別」「雨煙内」のほか「植苗」や「植別」、「宇園別」などもあります(他にもあったと思ったんですが、思い出せず……)。「遠別」もあるいは wen-pet である可能性があるかもしれません。

幌加内の wen-petwen-nay はそれぞれ「雨煙別」「雨煙内」で表記にも統一性が見られますが、「雨煙別」については栗山町にもありました。「うえん」と読める字の組み合わせの中でも、「雨煙」はどことなく風流な感じもするので、それで好まれたのかもしれませんね。

閑話休題

本題に戻りますと、「東西蝦夷山川地理取調図」には現在の雨煙内川と思しき位置に「ウエンベツ」という名前の川が描かれています。ところが「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。

扨左りの方本川しばし上り候や、平地に成るよし也。左りの方
     ウエンベツ
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.350 より引用)
松浦武四郎は雨竜川を遡っていたので、左右は(アイヌの流儀と同じく)河口から水源方向を望んだ場合のものです。つまり雨竜川の西支流ということになり、こちらは「雨煙別川」に相当すると見られます。

現在の「雨煙内川」を命名する際に、「東西蝦夷山川地理取調図」に記されていた「ウエンベツ」から名前を拝借した……という可能性は流石に無いと思いますが、なんかそんな錯誤の可能性を考えたくなる偶然ですね。

なぜ悪かったのかはわからなくなっている™

あ、wen-nay は「悪い・川」と見て間違いないと思われます。NHK 北海道本部編の「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 雨煙内川(うえんないがわ) 幌加内市街の南を流れる雨竜川の支流。「ウェン・ナイ」はアイヌ語の悪い川ということだが,この川の水がきたなくて飲めないのでこの名がついたもの。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.284 より引用)
あれっ。どこかで聞いた話ですね……。更科源蔵さんは「アイヌ語地名解」の「雨煙別川」の項(「雨煙内川」ではなく「雨煙別川」)で次のように記していました。

この近くのウェンペツ川は水がきたなくのめなかったため名付けられたものであるという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.157 より引用)
ところが、「北海道地名誌」(これもおそらく更科さんが記したものと思われます)では、「雨煙別川」については次のように記されていました。

 雨煙別川(うえんべつがわ) 雨煙別部落の西山から流れ雨竜川に合する中
川。雨煙内と同じ悪い川の意であるが,こっちは水質が悪いのではなく,滝があって歩きにくい川の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.284 より引用)
おーい。どっちやねーん!

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