2020年1月26日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (698) 「雨煙別・キトウシナイ川・瑠潤の沢川・長留内」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

雨煙別(うえんべつ)

wen-pet
悪い・川

(典拠あり、類型多数)
幌加内町南部(だと思う)の地名で、同名の川もあります(雨竜川の西支流)。また、国鉄深名線にも同名の駅がありました。せっかくなのでいつものアレを見ておきましょうか。

  雨煙別(うえんべつ)
所在地 (石狩国) 雨竜郡幌加内町
開 駅 昭和 6 年 9 月 15 日 (客)
起 源 アイヌ語の「ウエン・ペツ」(悪い川)からとったものである。雨煙別川は断がいが多く、川をつたって歩くのに困難であったため名づけられたものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.113-114 より引用)
「雨煙別川」は、「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ウエンべツ」と描かれているほか、「再篙石狩日誌」にも「ウエンベツ」と記録されています。ただ、「東西蝦夷山川地理取調図」には雨竜川の東支流として描かれているので、これは現在の「雨煙内」のことだった可能性もありそうです。割と近くに「雨煙別」と「雨煙内」があって紛らわしいんですよね……。

永田地名解にも次のようにありました。

Wen pet  ウェン ペッ  惡川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.60 より引用)
「惡川」と書かれると「悪の十字架」っぽいですね(どこが)。wen-pet で「悪い・川」という解釈に揺るぎは無いようですが、その解釈については意外とブレがあるようです。実際に更科源蔵さんは「アイヌ語地名解」にて次のように記していました。

この近くのウェンペツ川は水がきたなくのめなかったため名付けられたものであるという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.157 より引用)
えっ、マジですか(汗)。その真相は「神の味噌汁」と行ったところでしょうか(何故)。

キトウシナイ川

kito(-ta)-us-nay
行者ニンニク(・採る)・いつもする・川

(典拠あり、類型多数)
雨竜川の東支流で、幌加内町上幌加内・振興のあたりを流れています。「再篙石狩日誌」には記載がありませんが、明治時代の「北海道地形図」には「キトタウシュナイ」という名前で描かれていました。

kito-ta-us-nay で「行者ニンニク・採る・いつもする・川」と解釈できそうです。ここから -ta を省略して、kito-us-nay で「行者ニンニク・多くある・川」になったと考えられます。これでも行者ニンニクの自生地であるという情報は残るので、短いに越したことは無い、ということなんでしょうね。

永田地名解には次のように記されていました。

Kitu ta ush nai  キト゚ タ ウㇱュ ナイ  菲ヲ掘ル澤「キソタウシナイ」ニ訛ル
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.60 より引用)
「菲」は「韮」の誤字かもしれません。また kitokitu となる流儀については確認できませんでした。註には「『キソタウシナイ』に訛る」とありますが、kitukiso に訛ったと考えるよりは kitokiso に訛ったと考えるほうが自然に思えます。

瑠潤の沢川(読み不明)

ru-oma-nay
道・そこに入る・川

(典拠あり、類型あり)
幌加内町振興のあたりで雨竜川に合流する西支流の名前です。「瑠潤の沢」の読み方は不明ですが、「るうるむの──」あたりの可能性があるのではないか、と考えています。それほど大きな川でも無いので、「東西蝦夷山川地理取調図」や「再篙石狩日誌」などには記載がなく、また「北海道地形図」にも名前はありません。

実は、この川はかつて「ルーオマナイ」と呼ばれていたようなのです。「ルーオマナイ」だと ru-oma-nay で「道・そこに入る・川」となります。瑠潤の沢川をまっすぐ西に向かって遡ると「長留内岳」の北北東の鞍部に出て、そのまま西に向かうとニセイパロマップ川に出ることができます。

長留内(おさるない)

o-sar-un-nay
河口・葭原・ある・川

(典拠あり、類型あり)
幌加内町幌加内から見て、雨竜川の対岸(西側)一帯を指す地名です。同名の川が南部を流れています。古い地図には「長留内」に「オサルンナイ」とルビが振ってあるものもあります。

この長留内川ですが、「東西蝦夷山川地理取調図」には描かれておらず、また「再篙石狩日誌」や永田地名解にも記載がありません。ただ、明治時代の「北海道地形図」などに「オサルンナイ」という名前で描かれています。

良くある地名なので意味するところも自明ですが、念のため山田秀三さんの「北海道の地名」の記述を引用しておきましょう。

オ・サル・ウン・ナイ(o-sar-un-nai 川尻に・葭原・がある・川)の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.85 より引用)
はい。o-sar-un-nay で「河口・葭原・ある・川」と考えて間違いないかと思います。

川尻は低湿地で今でも葭が生えていて,鴨撃ちの人などが来るのだそうである。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.85 より引用)
へぇ~。長留内川の河口部に向かうには道道 126 号「小平幌加内線」が便利なんですが、この道は延伸計画が凍結されてしまったようで、現在は河口の近くまで行くことができません(汗)。道路自体は河口の近くまで開通済みの筈なんですが……。

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