2020年1月25日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (697) 「カルウシナイ川・ルヤンベナイ川・シートートムシメヌ山」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

カルウシナイ川

kar-us-nay??
回る・多くある・川

(?? = 典拠なし、類型あり)

「ウツナイ川」の源流の一つと目される川で、道道 688 号「名寄遠別線」の近くを流れています。ウツナイ川を遡っていると、いつの間にか「カルウシナイ川」に名前が変わっている印象があるのですが、「エビシオマップ川」と合流するあたりよりも上流側が「カルウシナイ川」なんでしょうか……?

「東西蝦夷山川地理取調図」に描かれていないのは仕方がないとして、明治時代の「北海道地形図」にも(「エピㇱュオマㇷ゚」や「ルヤンペナイ」は描かているのに)「カルウシナイ川」の名前はありません。永田地名解も同様なのですが、「北海道地形図」と永田地名解はある程度リンクしているのかもしれませんね。

NHK 北海道本部編の「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 カルウシナイ川 ウツナイ川の支流。アイヌ語の意味不明であるが「カルシ」は茸のことである。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.284 より引用)

この変化球の繰り出し方は……更科さんっぽい感じがプンプンと。karus は「きのこ」を意味するようですね。「きのこ狩り」だと karus-kar になるのでしょうか……?

「カルウシナイ」と言われると、まずは kar-us-nay で「採る(収穫する)・いつもする・川」と考えたくなります。実はずっとそのように考えていたのですが、よく考えると kar-us-nay で「回る・多くある・川」とも解釈できることに気づきました。

「カルウシナイ川」の下流部、あるいは「カルウシナイ川」と「エビシオマップ川」が合流して「ウツナイ川」になる?あたりで、カルウシナイ川はかなり大規模に流れる向きを変えています(特に「うぐい橋」と「イワナ橋」の間の巨大な逆 S 字など)。このことを形容して「回る・多くある・川」と呼んだのではないでしょうか。

ルヤンベナイ川

ruyampe-nay?
大雨・川

(? = 典拠あり、類型未確認)

「カルウシナイ川」の北支流で、道道 964 号「板谷蕗の台線」の近くを流れています。道道 964 号も道道 688 号と同じく未開通区間のある道道で、現時点で中川町板谷に向かうことはできません。

不思議なことに、「カルウシナイ川」の支流という扱いなのに、永田地名解に記載がありました。

Ruyanbe nai  ルヤンベ ナイ  惡キ天氣ノ澤
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.60 より引用)

えっ……? と思ったのですが、更科さんの「アイヌ語地名解」に次のような追加情報を見かけました。

ルヤンベナイ川
 永田地名解では「悪キ天気ノ沢」とある。ルヤンベはこの地方では雨のことであり、日高地方では天気の悪いことである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.157-158 より引用)

ほう、ほう。改めて知里さんの「──小辞典」を眺めてみたところ、ちゃんと次のように記されていました。

ruyampe ルやㇺペ ①雨。②あらし。③大浪。(→神謡集,38)[<ruy(はげしく)an(ある)-pe(もの)]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.113 より引用)

「ルヤンベナイ」が ruy-an-pe-nay だとすると、pe(もの=川)と nay(川)がかぶることになりますが、あくまで ruyampe という語彙だと考えればそれほどおかしなことでもありません。ruyampe-nay で「大雨・川」と考えられそうですね。

シートートムシメヌ山

si-tu-tomotuy???
主たる・峰・途切れる

(??? = 典拠なし、類型未確認)

カルウシナイ川の北、ルヤンベナイ川の西、遠別町と幌加内町の境界に聳える標高 799 m の山の名前です。手元の資料には殆ど記載を見つけられず、唯一「北海道地名誌」に記述があったくらいです。

 シートートムシメヌ山 790.0 メートル ウツナイ川の水源にある山。現在ほとんどこの名で呼ぶ人なし。アイヌ語の意味も不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.283 より引用)

伝家の宝刀「意味不明」だけでは収まらず、「現在ほとんどこの名で呼ぶ人なし」とまで補足が入っています。でも、地理院地図には今でも「シートートムシメヌ山」と描かれているんですよね。

先程引用したのは幌加内町側の項目ですが、遠別町側でも次のように記されていました。

 シートートムシメヌ山 790 メートル 遠別川上流,幌加内町との境をなす山。地元ではこの名を知らない。意味不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.387 より引用)

なるほど。超スーパー意味不明と言った感じなんでしょうか。

古い 5 万分の 1 地形図には、この山は「シートートㇺシメヌプリ」と記されていました。どうやら最後の「ヌ」は「ヌプリ」の最初の一文字が残ってしまったようですね。となると「シートートㇺシメ」をどう解釈するか、という話になりそうです。

「シートー」は si-tu で「主たる・峰」ではないかと思うのですね。あとは「トㇺ」と「シメ」ですが、これ、実は「トㇺツイ」だったりしないでしょうか。tomotuy で「途切れる」という語彙があるのです。

si-tu-tomotuy で「主たる・峰・途切れる」という意味ではないかと考えたのですが、地形図を見てみると、シートートムシメヌ山の南西で、他ならぬ道道 688 号「名寄遠別線」が絶賛工事中だったりします。

道道 688 号は幌加内町と遠別町の境界である鞍部を通るのですが、そこは標高 460 m 程度しかありません。遠別町と幌加内町の境界の中では、飛び抜けて標高が低いので、このことを形容して「主たる峰が途切れている」と呼んだのではないか……という想像です。ええ、想像なんです。大事なことなので(以下略

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