2020年1月5日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (692) 「班渓・パンモンポ沢川・ペンモンポ沢川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

班渓(ぱんけ)

panke-ni-o-p
川下側の・木(流木?)・多くある・もの

(典拠あり、類型あり)

JR 宗谷線・初野駅の北東のあたりの地名で、天塩川の東支流である「美深パンケ川」が流れています。以前は「斑渓」という字でしたが、現在は「班渓」のようです。

現在の川名は「美深パンケ川」ですが、大正時代の陸軍図では「パンケ川」となっていました。更に遡って明治時代の「北海道地形図」では「パンケニウㇷ゚」で、「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ハンケニウフ」と描かれています。

美深町の東部に「仁宇布」という集落があり、かつて「日本一の赤字線」として名を馳せた「国鉄美幸線」が走っていました。この「美幸線」は南寄りの「ペンケニウプ川」沿いを通っていましたが、現在の「美深パンケ川」は「ペンケニウプ川」と似たような特徴を持ち、対になる川と認識されていたことになります。

永田地名解には次のように記されていました。

Panke niup  パンケ ニウㇷ゚  ?
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.416 より引用)

今年も永田先生の伝家の宝刀は切れ味抜群ですね。「パンケニウプ」を素直に解釈すると panke-ni-o-p で「川下側の・木(流木?)・多くある・もの」になるのかなぁ、と思われます。

山田秀三さんの「北海道の地名」も見ておきましょうか。

たぶん panke-ni-u-p「下流側の・木・ある・もの(川)」であったろう。ただし u という動詞だけだと,立木が多かったのか,漂木が多かったのか見当がつかない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.145 より引用)

そんなところでしょうね。「u という動詞」については少々謎ですが、o が変化したものだと考えるのが自然かと思います。

川筋の地名の班渓は川名のパンケから来たものであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.145 より引用)

これもそうでしょうね。山田さんの旧著である「北海道の川の名」でも「班渓」となっていたので、「斑渓」は戦中か戦後すぐに改められたものかもしれません(あるいは表記が揺れていたものが統一されたのかもしれませんが)。

パンモンポ沢川

pan-mo-nup-o-nay??
川下の・小さな・野・そこにある・川

(?? = 典拠なし、類型あり)

「美深パンケ川」の北支流に「左の沢川」という名前の川がありますが、「左の沢川」の東支流に「パンモンポ沢川」「ペンモンポ沢川」という川があります。「パン」と「ペン」はそれぞれ「パンケ」「ペンケ」を省略したもの……と勘違いしそうになりますが、実は pan で「川下の」という意味がありました。まぁ地名だと pan-ke を使うのが一般的ですが……。

「パンモンポ沢川」と「ペンモンポ沢川」が存在する以上、「パンモンポ沢川」は「パン」と「モンポ」に分けて考えるのが良さそうなのですが、となると「モンポ」の意味を考える必要が出てきます。

美深町には JR 宗谷線の「紋穂内駅」があって、駅の北には「紋穂内川」が流れています。紋穂内は mo-nup-o-nay で「小さな・野・そこにある・川」だと考えられますが、「パンモンポ沢川」と「ペンモンポ沢川」がそれぞれ「左の沢川」と合流するあたりにも、ごく僅かに平坦に近い部分があります。このことを指して mo-nup-o-nay と呼んだ……と考えられる、かもしれません。

ということで、「パンモンポ沢川」は pan-mo-nup-o-nay で「川下の・小さな・野・そこにある・川」と考える……しか無さそうですね(いつになく弱気)。

ペンモンポ沢川

pen-mo-nup-o-nay??
川上の・小さな・野・そこにある・川

(?? = 典拠なし、類型あり)

えー……。書くべきことの 99 % くらいを「パンモンポ沢川」の項で書いてしまいました(汗)。ということで、差分および補足情報オンリーですが……

「ペンモンポ沢川」は「左の沢川」の東支流で、「パンモンポ沢川」の上流側で「左の沢川」と合流しています。合流部に僅かに平地っぽい部分があるのが「パンモンポ沢川」と共通するところです。

pan は、知里さんによると pa-ne(川下・である)の短縮形とのことで、pen も同様に pe-ne(川上・である)の短縮形と考えられます。地形では pena(川上のほう)や penke(川上の)を使うことが多いような印象がありますが、「地名アイヌ語小辞典」に採録されているということは、それなりに頻出する語彙だと認識されていたのでしょうね。

「ペンモンポ沢川」は pen-mo-nup-o-nay で「川上の・小さな・野・そこにある・川」と考えておきましょう。

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