2019年7月6日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (644) 「対雁・下ノ月」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

対雁(ついしかり)

to-e-sikari
沼・そこで・回る


JR 函館本線の「江別駅」と、国道 275 号の「新石狩大橋」の中間あたり、石狩川の南側の地名です。「雁」が「かり」なのは良いとして、「対」が「ついし」というのは難易度が高そうですね。

「東西蝦夷山川地理取調図」には、現在の読みと同じく「ツイシカリ」と記されています。松浦武四郎の他の記録を見ても、「ツイシカリ」または「トイシカリ」のどちらかとなっています。to- または tu- っぽい感じでしょうか。

「永田地名解」こと「北海道蝦夷語地名解」は、石狩国札幌郡から北見国斜里郡に至るまで、500 ページ近くを費やして地名を記録していますが、一番最初に記されているのがこの「対雁」だったりします。ということで早速見てみましょうか。

To ishikara  トイシカラ  囘流沼 「」ハ沼ナリ 「イシカラ」ハ囘流ナリ此沼ハ「ヌプロチベッ」ト「ハシウㇱュペッ」ノ間ニアリテ淸水湧出囘流セリ故ニ名ク文政年間上對雁ト稱シ石狩十三場所ノ内トス明治四年對雁村ヲ置く
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.29 より引用)

「對」は「対」の旧字です。どうやらこの「対雁」という当て字?は江戸時代から綿々と受け継がれてきたもののようですね。

永田地名解の「回流沼」という解について、山田さんは次のように読み解いていました。

 つまり野津幌(のっぽろ)川と厚別川の間にあった沼から対雁の名が出たのだという。その名の解が少し難しい。to-e-shikari(沼が・そこで・回る)ぐらいの形から出た言葉か。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.40 より引用)

ふむ。確かに to-e-sikari で「沼・そこで・回る」と解釈できそうですね。ただ、少し語順が変な感じもします。実際に、知里さんの「──小辞典」には次のような記述があります。

e-sikari-to エしカリト 【ビホロ】水が溜って流れない沼。[e-(そこで)sikari(ぐるぐるまわっている)to(沼)]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.27 より引用)

普通は、この語順になりそうな気がするんですよね。また「東西蝦夷山川地理取調図」を始めとして少なからず「ツ」の音で記録されているのも若干気になります(中には「チイシカリ」というものもありました)。この辺を考慮して tuye-(e-)sikari-to で「切る・(そこで・)回る・沼」と風に解釈できたりしないかな、と思ったりもします。

「ツイシカリトー」の「ツイ」の意味が「トー」に食われたんじゃないか、というアグレッシブな仮説ですが、残念ながら想像の域を出ていません。

ちなみにこの「対雁」ですが、1875 年(明治 8 年)に「樺太・千島交換条約」が締結された際に、樺太からアイヌが移住した場所なのだそうです。

下ノ月(しものつき)

not-ke?
岬・のところ


道央自動車道は「千歳川大橋」で千歳川を渡っていますが、千歳川大橋の西側のあたりが「下ノ月」という地名です。

すっかり見落としていたのですが、「北海道地名誌」には次のような記述がありました。

(通称)下ノ月(しものつき)「ノ月」はアイヌ語「ノッケ」(頤のように突き出た出先のこと)から出たというが,附近にはそれに該当する地形が見当たらない。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.41 より引用)

えぇと、「頤」は「おとがい」と読みます。詳しくはうぃきぺを見ていただければと思うのですが、「下顎」あるいは「下顎の先端」のことです。

「附近にはそれに該当する地形が見当たらない」とありますが、古い地図を見ると「江別川」(現在は「千歳川」と呼ばれる)が今よりも蛇行していたことがわかります(現在の地形図でも「馬蹄沼」という名前の三日月湖の存在が確認できます)。河川の蛇行で生じた突端状の地形を「下顎」と呼んだ……と考えられそうに思えます。

ということで、「下ノ月」などに見られる「ノ月」は not-ke で「顎・のところ」あるいは「岬・のところ」と考えられる、かもしれません。

今のところ「北海道地名誌」以外の典拠が無いのが少々弱いところではありますが……。

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