2014年12月7日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (236) 「ニクル沼・涛釣沼・来運」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ニクル沼

nikur-osmak-un-to
林・背後・そこにある・沼
(典拠あり、類型あり)
斜里郡小清水町の東側、海に近いところにある沼の名前です。この沼も海跡湖だった可能性がありそうですね。

では、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

斜里町史地名解は「ニクル沼。原名ニクル・オㇱマクン・ト(nikur-osmak-un-to ニクル・の背後・にある・沼)」とあった。つまりこの沼名が略されてニクル・卜ー「nikur-to ニクルの(処の)・沼」と呼ばれたのであった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.217 より引用)
ふむふむ。ところで「ニクル」って何でしたっけ?

ニクリ(nikur-i)なら「その林」の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.217 より引用)
なるほど。ということは、nikur-osmak-un-to は「林・背後・そこにある・沼」ということになりますね。

ちなみに、更科源蔵さんは、「アイヌ語地名解」の中で次のように記しています。

現在ニクル沼(土地の古老はニクル・オシマㇰ・ウン・トで墓の背後にある沼の意という)と呼ぶ沼と
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.260 より引用)
おや? これではまるで「ニクル」が「墓」という意味のようですね。実は、「仁倉」の項でも似たような話が出てきていたのですが、もしかしたら、通常は「林」と解される nikur を「墓地」と解釈するケースがあったのかもしれませんね。

涛釣沼(とうつるとう)

to-utur-to
沼・間・沼
(典拠あり、類型あり)
斜里郡斜里町北西部にある沼の名前です。「沼」はアイヌ語では to ですが、このあたりでは「沼」という漢字を「トー」と読ませていたのですね。

では、今回も山田秀三さんの「北海道の地名」から。

濤釣沼 とうつるとう
 斜里町海岸東端の沼。ニクル沼と並んでいる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.217 より引用)
はい。現在はニクル沼と涛釣沼の間は 1 km ほどの距離がありますが……

斜里町地名解はまずこの二つの沼の間の土地の名として「トウトゥル(to-utur 沼・間)」と記し,次に沼名を「オンネト。濤釣沼の原名。オンネ・ト(親の沼)。この沼とニクル沼を親子と考えて名づけたのである。単にト(沼)とも云った」と書いた。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.217 より引用)
あ、なるほどー。もともとは「ニクル沼」と「涛釣沼」の「間」の土地を to-utur(「沼・間」)と呼んでいたのですね。

現在の「涛釣沼」は、もともとは「トー」あるいは「オンネトー」だったのを、いつしか近隣の地名を冠して「涛釣沼」と呼ばれるようになった、ということでしょうか。「山本山」みたいで変な地名だなぁと思ったのですが、これで納得です。to-utur-to で「沼・間・沼」ですね。

来運(らいうん)

ray-kun-nay??
死・人・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
斜里郡斜里町の内陸部、中斜里駅から少し南のあたりの地名です。瑞祥地名丸出しだなぁ……と思ったのですが、実は違いました(汗)。

というわけで、「角川──」(略──)を見てみましょう。

 らいうん 来運 <斜里町>
〔近代〕昭和28年~現在の斜里町の行政字名。もとは斜里町大字斜里村の一部。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1600 より引用)
はい。この「来運」なんですが……

地名はアイヌ語のライクンナイ川に由来し,死人の川の意で,川の流れが極めて遅いためそう呼んだのが訛ったものという(斜里町史)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1600 より引用)
うわわわ(汗)。瑞祥地名どころか、これじゃまるで正反対ですね……。

ちなみに、知里さんの「斜里郡内アイヌ語地名解」には、次のようにあります。

 ライクンナイ(猿間川左支流) ライクンナイは「ライクル・ナイ」の変化で「死人・川」の意。この川は流れが極めて遅いのでそう呼んだという。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.259 より引用)
あ、なるほど。ray-kur が後に続く nay に引きずられて音韻変化していたのですね。ray-kur-nay で「死・人・川」ということなのでしょう。

ただ、ray には確かに「古い川に水が流れず停滞しているような状態を云う」と知里さんの小辞典にもありますが、わざわざ後ろに kur をつけたのは何故なのかな、という疑問が残ります。ray-kur だとどう見ても「死人」と解釈したくなるわけで……。

おまけ

斜里町来運から見て北北西のあたりに「羅萠」という地名があります(南斜里駅の南側)。「萠」には「むい」とルビが振られているので、「らむい」と読めばいいのでしょうか。少なくとも 1980 年代にも存在していた地名なので、最近できた地名では無さそうなのですが、何とも意味がよくわからない地名です。

「斜里郡内アイヌ語地名解」には

 ラモイ 不明。カムイ,すなわち熊の訛りだとも云う。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.256 より引用)
とあるのですが、あるいは rarmani-us-nay (アララギ・多くある・川)という川名が短縮に短縮を重ねて「ラムイ」になったのかな……と思ったりもします。このあたりはアイヌ語由来の地名が失われているケースが多いのですが、数少ない例外の可能性があるということでメモ代わりに……。

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