2019年3月10日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (613) 「オサラッペ川・ヨンカシュッペ川・ハイシュベツ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

オサラッペ川

o-sar-pet
河口・茅原・川


道央道の「旭川鷹栖 IC」の北西を流れ、石狩川に合流する支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には河口付近に「ヲサラベブト」と記してありますが、一方で丁巳日誌「再篙石狩日誌」にはより詳細な記載がありました。

サルブツ
彼フシコヘツブトより三四丁上、此ハロより五六丁下なり。川すじ急流なるが故に、此枝川を上り来ること也。川口巾凡十五六間、前に一ツの岩有、其風景よろし。
 本名ヲサラベと云よし。訳して物の終りと云事のよし。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.254 より引用)

なんだか良くわからない訳が記されていますが、頭注には「オ・サラ 尻が開いている」と記されていました。sara は「開いている」とありますが、田村すず子さんの「アイヌ語沙流方言辞典」によると「(おおわれて隠れていたものが)現れる、見えるようになる、あらわになる」とのこと。

また、永田地名解にも次のように記されていました。

O saratpe  オ サラッペ  女神玉門出シタル處 「サラ」ハ出スノ義此處茅ナシ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.46 より引用)

うーん、「物の終わり」が更に訳のわからない方向に進化?しましたね……。

知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には、この珍妙な永田説がバッサリと切り捨てられていました。

 おさらっぺ川 原名「オサルペツ」(O-sar-pet 川尻・葦原・川)。川尻に葦原のある川の義。それが転訛して「オサラツペ」となり,「オ・サラ・ぺ」(陰部・あらわれている・者)などの意に俗解され,「女神玉門ヲ出シタル処」(永田氏『地名解』)などの奇怪な伝説を生むに至った。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.321 より引用)

あー、やっぱり、と言った感じでしょうか。永田方正は「此処茅なし」と注を打っていましたが、やはり sar(茅原)と考えるべきだったということでしょう。o-sar-pet で「河口・茅原・川」と解釈できますが、あるいは o-sar(-un)-pet で「河口・茅原(・ある)・川」だったかもしれません。

ヨンカシュッペ川

i-onka-us-pet
あれを・発酵させる・いつもする・川


オサラッペ川の東支流で、鷹栖町中心部の北側を流れています(上流部は旭川市域を流れています)。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヨウンカウシベ」と言う名前の川が描かれています。また、「再篙石狩日誌」には「ヨンカウシベ」と記されています。

「女神玉門ヲ出シタル処」でお馴染みの永田地名解には、次のように記されていました。

Ionga ush pet  イオンガ ウㇱュ ペッ  姥百合ヲ乾ス處
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.48 より引用)

うーん。ウバユリと言えば turep という語彙があって、実際に近くに turep-us-nay という川があったようです(現在の「六号川」)。どこをどのように読み解いたら「ウバユリを乾かすところ」になるのか……と思ったのですが、知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」に答がありました。

 イオンカウシペツ(I-onka-ushi-pet「それを・風にさらし・つけている所の・川」)ウバユリの根をつき砕いて澱粉をとり,その繊維を乾かし堅めた場所の川。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.325 より引用)

onka という語彙は初めて目にするのですが、萱野さんの辞書によると「発酵させる」とあります。

ト゚レㇷ゚ イルㇷ゚ ア・ウㇰ オカケヘ シチヒ アナㇰネ ア・ヌンパ ワ コㇿコニ ハム ネヤ ノヤ ネヤ イロンネノ ア・コカㇻカリ ワ ア・アヌ ア・オンカ ㇷ゚ ネ ワ=ウバユリの澱粉を取った後の繊維の部分は,それをしぼってフキの葉とかヨモギなどで厚くくるんでおき,発酵させるものだよ.
(萱野茂「萱野茂のアイヌ語辞典」三省堂 p.187 より引用)

単に「ウバユリを乾かす」のではなく、実は発酵させていたんですね。本題に戻ると、i-onka-us-pet で「あれを・発酵させる・いつもする・川」と読み解けそうです。

どうでもいいのですが「イオンカウシ」を「イオン化牛」と変換されそうになった時はどうしようかと思いました(本当にどうでもいいな)。

ハイシュベツ川

hay-us-pet
イラクサ・群生する・川


ヨンカシュッペ川の北支流で、鷹栖町と旭川市(1971 年に旭川市と合併した旧・東鷹栖町域)の境界となっている川です。知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 ハイウシペツ(Hái-ush-pet「イラクサ・群生している・川」)
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.325 より引用)

hay-us-pet で「イラクサ・群生する・川」という解釈ですが、至極妥当なものに思えます。ただ、「東西蝦夷山川地理取調図」には「ハシユシベツ」と記されているので、これだと has-us-pet で「細枝・多くある・川」とも読めそうです。

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