2019年3月23日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (616) 「入志別川・達府・コップ山」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

入志別川(にうしべつ──)

ni-us-pet
流木・多くある・川
(典拠あり、類型あり)
石狩川の北支流で、深川の市街地の東を流れています。鵡川と厚真の境にある「入鹿別」の類型かな……と思ったのですが、「にうしべつ」と読むとわかった時点で勘違いに気が付きました。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ニウシヘツ」という川が記されています。また「再篙石狩日誌」にも次のように記されていました。

     ニウシベツ
右(左)の方小川。流れ木多く寄りたり。依て号り。ニは木、ウシは多し、ベツは川也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.237 より引用)※ 註は解読者による。

あああ、ちゃんと川名の由来まで完璧に記されていました(右と左が逆になっているのはご愛嬌ということで)。ni-us-pet で「流木・多くある・川」と考えて良さそうです。

達府(たっぷ)

ni-us-tapkop
木・多くある・丸山
(典拠あり、類型あり)
入志別川を遡ると「コップ川」という支流?があり、その西には「コップ山」という標高 313.0 m の山がそびえています。深川市の達布は「コップ山」の西を流れる「達府川」の流域にあります。

アイヌ語で「円丘」や「丸山」などの意味を持つ tapkop という単語がありますが、こう見事に並んでいると「あ、これは」と想像したくもなるものです。ということで、更科さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

もとニ・ウシ・タㇷ゚コㇷ゚(木の多い瘤山)といったのであるが、上の方の三分の二を削ってしまってタㇷ゚コㇷ゚のタㇷ゚を字名「達布」にし、後半のコプをコップにして
山の名に残したのである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.155 より引用)
おそらくそんなところだろうなぁ、と思っていた通りのことが記されていました。あまりにそのまんまなので「本当かなぁ」と思いたくもなるのですが、他に案があるわけでもなく……。とりあえず、現在の「コップ山」が「ニウシタㇷ゚コㇷ゚」と記されていたことは古い地図でも確認できました。

ということで、「達府」は ni-us-tapkop で「木・多くある・丸山」の tap を拝借した、となりそうです。なお、ni-us を「木・多くある」としましたが、正確には固有名詞としての「入志別川」の可能性もあります。

ni-us-pet の源流部にある tapkop だから ni-us-tapkop なのか、あるいは実際に木の多い丸山から流れる川だから ni-us-pet なのか、通常は前者が多い筈ですが、後者の可能性も捨てきれませんので。

コップ山

ni-us-tapkop
木・多くある・丸山
(典拠あり、類型あり)
さて、本日三つ目のネタが「コップ山」なんですが……これだけネタバレ感が凄いのも久々でしょうか。コップ山は入志別川の北にそびえる標高 313.0 m の山の名前です。

明治時代の地形図を見ると、この山は「ニウシタㇷ゚コㇷ゚」と記されていました。ni-us-tapkop は「木・多くある・丸山」となりますが、ni-us は「入志別川」のことを意味する可能性もあるので注意が必要です。

「コップ山」という名前は、結局の所、ni-us-tapkop の一部を拝借した……というか、前を大幅に省略したということのようです。一つのアイヌ語地名が複数の地名に派生するというのはちょくちょく見られますが、ここまで見事に二分割されるというのは割と珍しいのではないかと……。

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