2019年8月18日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (653) 「下記念別川・オビラフネップアンナイ沢川・イタラカオマップ・エホルカブッコロナイ沢」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

下記念別沢川(しもきねんべつさわ──)

sar-kes-oma-p??
葭原・端・そこに入る・もの(川)
san-okay-us-pet??
山から浜に出る・多くある・いつもする・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
小平蘂川の南支流の名前で、小平町達布の南側で小平蘂川に合流しています。下記念別川は小平蘂川の支流の中でも最大規模のもので、川に並走する道道 867 号「達布石狩沼田停車場線」で南南東に向かうと、沼田町の幌新太刀別川上流域(ホロピリ湖の北側)に出ることができます。良く整備されている上に交通量が少ないこともあり、快適にドライブできる道です。

「西蝦夷日誌」や「竹四郎廻浦日記」には「サンケシヨマフ」という名前の川が記録されています。

しばしにてサンケシヨマフ、此辺までは丸木船も上るとかや。
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 上」北海道出版企画センター p.495 より引用)
ちょっとそのままでは意味を解しづらいのですが、これが「サルケショマフ」であれば意味は明瞭です。sar-kes-oma-p で「葭原・端・そこに入る・もの(川)」ということになり、実際の地形にも即したネーミングと言えそうです。

ただ、明治期の地形図には「サㇰオカイウㇱュペッ」という、似て非なる名前で描かれています。これを素直に読み解くと sak-okay-us-pet で「夏・多くある・いつもする・川」という、まるで TUBE のような川ということになってしまいます。

仮に「サㇰオカイウㇱュペッ」が「サㇰオイカウシュペッ」の間違いなのであれば、sak-oika-us-pet で「夏・渡渉する・いつもする・川」と解釈できます。

あるいは san-okay-us-pet で「山から浜に出る・多くある・いつもする・川」とも読めるかもしれません。下記念別沢川は流域が広いため、雨が広範囲に降った直後は一気に増水する川だった可能性も考えられます(san-okay という組み合わせはあまり記憶にないですが)。

このあたりには「記念別」という名前の山川が本当に多く、「下記念別沢川」「下記念別山」「中記念別沢川」「中記念別山」「上記念別沢川」「上記念別山」「奥記念別川」などがあります。ただ、少なくとも「下記念別沢川」は「記念別」とは関係無さそう、ということでしょうか。

じゃあなんでこの項目を書いたのか……という話ですが、調べていて「これは絶対引っかかる人が出てくるな」と思ったものでして。例えば「北海道地名誌」には次のように記されているのですが……

 下紀念別沢(しもきねんべつさわ)
達布市街で小平蘂川に合する左中支流の沢。紀念別はアイヌ語の「ケネ・ペッ」で,はんのき川の意。→炭鉱
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.378-379 より引用)
「下紀念別沢」は kene-pet ではないので、厳密にはこれは誤りということになります。

オビラフネップアンナイ沢川

o-pira-us-nup-an-nay???
河口・崖・のついた・野・ある・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
下記念別沢川の東支流の名前です。どうにも解釈が難しい川名ですが、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」に記載があったので、見てみましょうか。

 オピラフネップアンナイ沢
下紀念別川の小支流。アイヌ語の意味不明。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.144-145 より引用)
……。さ、気を取り直して今日も一日頑張りましょうか。「オビラフネップアンナイ」あるいは「オピラフネップアンナイ」ですが、o-pira-us-nup-an-nay で「河口・崖・のついた・野・ある・川」あたりでしょうか。割と強引な解だなぁという自覚はあるのですが、他にこれといった解釈が思いつかず……。

o-pir-rupne-an-nay というのも考えてみたんですが、文法的にちょっとおかしいのでボツかな、と思っています。

イタラカオマップ

e-tararke-oma-p??
頭(水源)・でこぼこしている・そこに入る・もの(川)
(?? = 典拠なし、類型あり)
下記念別沢川の西支流の名前です。大変興味深いことに、地理院地図には「イタラカオマップ」と記されています(「川」や「沢」、あるいは「谷」などはついていません)。

「イタラカオマップ」という川名はあまり聞かないタイプのものですが、日高に「イタラッキ川」という川があったのを思い出しました。もっとも「板を割るところ」や「板がぶら下がる」というのは「本当かなぁ」と思ってしまうのですけどね。

ということで、e-tararke-oma-p で「頭(水源)・でこぼこしている・そこに入る・もの(川)」あたりでは無いかなぁ……と考えてみたのですが、いかがでしょうか。

エホルカブッコロナイ沢

e-horka-put-kor-nay
頭(水源)・U ターンする・口(出入り口)・持つ・川
(典拠あり、類型あり)
下記念別沢川・上流部の南支流(西支流)の名前です。これまた早速ですが更科さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょうか。

 エホルカプッコロナイ沢
 水源が川下にまがる川口もつ川の意か。下紀念別川の支流。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.144 より引用)
e-horka-put-kor-nay ではないか、と考えたのでしょうね。「頭(水源)・U ターンする・口(河口)・持つ・川」なのでしょうけど、「河口を持つ川」というのが謎な感じもします。世の中の川の大半は河口がある筈なので……。

地形図を見てみると、「エホルカブッコロナイ沢」の流域は、上流部が広く下流部が狭まる、まるでクローバーのような形をしています。もともとそれほど長くない川なのですが、中流部から下流部にかけて東西から山が迫っているので、そのことを指して put(口)と呼んだのではないかな、と思います。

put(口)は「河口」と考えるのが一般的ですが、今回の場合はもう少し広く解釈して「出入り口」と考えるのが良さそうな感じです。e-horka-put-kor-nay であれば「頭(水源)・U ターンする・口(出入り口)・持つ・川」と解釈すれば良いのではないでしょうか。

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