2018年12月24日月曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (591) 「コルシナイ沢川・ポロナイポロ川・エペウシュッペ沢川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

コルシナイ沢川

kor-us-nay?
蕗(の葉)・多くある・沢


ウヤムナイ沢川から 3 km ほど下流側で合流する(名寄川の)西支流の名前です。OpenStreetMap によると、川沿いの林道の名前は「コロウシ林道」と言うのだとか。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ユルシ」と記されていましたが、明治の頃の地形図には「コルシナイ」と記されていました。丁巳日誌「天之穂日誌」にも「コルシ」と記されているので、「東西蝦夷──」の「ユルシ」は「コルシ」の誤記と考えていいのかもしれません。

「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 コルシナイ沢 名寄川上流の左小川の沢。アイヌ語蕗の多い沢の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.358 より引用)

あっ……。そうか、その手があったか、という心境です。kor-us-nay で「持つ・いつもする・沢」だとしたら、何を持っていたかが不明だなぁ……と思っていたのですが、kor 自体が「蕗(の葉)」を意味する名詞でもあったのでした。

たとえば kucha-kor-us だったら「(常設の)小屋・持つ・いつもする」と読めるのですが、今回はいきなり kor から始まっていたので。

「コルシナイ沢」は、kor-us-nay で「蕗(の葉)・多くある・沢」と解釈できそうです(今のところ傍証が無いので、念のため「?」をひとつ残しておきます)。

ポロナイポロ川

poro-{nay-po}
大きな・{ちっちゃな川}


上から読むとポロナイポロ、下から読むとロポイナロポです(激しくどうでもいい)。残念なことに回文にはならない「ポロナイポロ川」は、コルシナイ沢川の合流点から 0.7 km ほど下流部で名寄川に東から合流しています。このあたりの東支流では「エクヤシン沢川」と似た規模の、比較的長いものです。

poro は「大きな」で nay は「川」という意味です。poro-nay であれば道内だけではなく樺太にも存在する普遍的な川名ですが、nay の後に poro が来る例はあまり記憶にありません。

明治の頃の地形図には「ポロナイ」とありますが、「東西蝦夷山川地理取調図」には「ホロナイホ」とあります。また大正十二年測図の陸軍図にも「ポロナイポ沢」とありますので、「ポロナイポロ」ではなく「ポロナイポ」だったと考えて良さそうです。

永田地名解にも次のように記されていました。

Poro nai po  ポロ ナイ ポ  大澤口
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.418 より引用)

うーん……、po がなぜ「口」と解釈できるのか、ちょっと良くわからないですね……。

nay-po は「苗穂」の語源としても知られていますが、この場合の -po は指小辞だとされます。ですので nay-po は「ちっちゃな川」であったり、あるいは「川の子」と考えることができます。

poro-nay-poporo-{nay-po} と解釈すると、「ちっちゃな川」の中における比較的大きな川と捉えることができます。この場合、「大きな・{ちっちゃな川}」という若干謎めいた解釈になりますね。

あるいは {poro-nay}-po で「大きな川の子」と解釈することもできるかもしれません。このあたりに poro-nay に相当する川は無いじゃないか……と思われるかもしれませんが、実は「名寄川」が poro-nay だったりしたのではないか……という想像です。

「名寄」は nay-oro あるいは nay-or-o あたりではないかと言われていますが、これは川の名前としては循環参照気味なのですね(「川のところの川」となりかねない)。川の名前としての「ナヨロ」は後付けで、そもそもは固有の名前を持たない nay か、あるいは poro-nay だったんじゃないかという想像です。

エペウシュッペ沢川

ipe-us-pet
食物・多くある・川


ポロナイポロ川の合流点から 3 km ほど下流側で西から(名寄川に)合流する支流の名前です。地理院地図では「エペウシュペ沢」ですが、他の地図では「エペウシュッペ沢川」と表記されることが多いようです。

明治の頃の地形図には「エペウシェペ」と記されていますが、不思議なことに永田地名解や丁巳日誌、東西蝦夷山川地理取調図などには記載がありません。

「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 エペウシュペ沢 奥名寄で名寄川に入る左小川ある沢。アイヌ語で食糧のどっさりある沢の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.358 より引用)

なるほど。道北の幌延町には「エペコロベツ」という川がありますが、それと似たような形の川名ですね。epeipe の転訛したもので、ipe-us-pet で「食物・多くある・川」だと考えられそうです。

ipe は「食事する」という意味の完動詞であり、また名詞としては「食事」「食物」のほかに「魚」を意味します。「魚」は si-ipe と言う場合もあり、これは「主たる・食物」を意味するとも言われていますね。「エペウシュッペ沢川」の場合も、鮭や鱒などが遡上する川だったのかもしれません。

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