2021年1月24日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (801) 「沼田ポン川・ポンポンニタシベツ川・アイトナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

沼田ポン川(ぬまた──)

pon-nitat-kom(-us)-pet
小さな・谷地・曲がり(・多くある)・川

(典拠あり、類型あり)

沼田ポン川は JR 留萌本線の雨竜川橋梁のすぐ上流側で雨竜川に注いでいます。「沼田ポン川」というネーミングは何ともユニークな感じがしますが、資料によっては「沼田奔川」となっているものもあるようです(読みは「ぬまたぽん──」)。

「東西蝦夷山川地理取調図」を見てみると、このあたりの雨竜川の北支流として「ホロニタツコムシベ」と「ホンニタツコムシベ」という川が描かれています。また丁巳日誌「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。

またしばし行て
     ホロニタツコヘツ
左りの方相応の川なり。是をまたハンケニタツコベツとも云よし。リコチウシも此辺までは毎年樺剝に来れ共、是より上えは来りし事なしと。また少し上り、
     ホンニタツコヘツ
左りの方小川のよし。ベンケニタツコベツとも云よし。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.343 より引用)

また、永田地名解には次のように記されていました。

Poro nitachi pe  ポロ ニタチ ペ  大吥坭
Pon nitachi pe   ポン ニタチ ペ  小吥坭
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.59 より引用)

「吥坭」は「やち」と読みますが、要は「谷地」のことです。この「ポロ ニタチ ペ」は現在「幌新太刀別川」と呼ばれる川(の下流部)のことと考えられます。それにしても「幌新太刀別」を「ほろにたちべつ」と読ませるのは傑作の多い北海道の地名の中でも最高傑作の一つでは無いでしょうか。

そして「ポン ニタチ ペ」が現在「沼田ポン川」と呼ばれる川のことと考えられます。pon-nitat-pet で「小さな・谷地・川」ですが、これは「小さな谷地」のある川ではなく、幌新太刀別川と比べて小さな「谷地川」と解釈すれば良さそうです。

「東西蝦夷山川地理取調図」における「ホンニタツコムシベ」は pon-nitat-kom-us-pet で「小さな・谷地・曲がり・多くある・川」と読めそうでしょうか。「再篙石狩日誌」の「ホンニタツコヘツ」および「ベンケニタツコベツ」は pon-nitat-kom(-us)-pet あるいは penke-nitat-kom(-us)-pet で、-us が省略された形と見て良いのでは無いでしょうか。

やがて -us どころか -kom も省略されるようになり、更には -nitat が省略され -pet が和訳された結果、気がつけば「ポン川」になってしまったわけですが……。山田秀三さんの「北海道の地名」によると……

それを下略してポン川と呼ばれるようになったが,他地にも同名の川があるので,区別するため沼田を冠して書かれるようになった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.80 より引用)

「沼田ポン川」というどことなくユーモラスな川名は、このように形成されたようです。ちなみに興味深いことに、「沼田ポン川」の上流部には「ポンニタシベツ川」という川名が現存しています(沼田ポン川の北支流という扱いのようです)。

ポンポンニタシベツ川

pon-(pon-nitat-kom-us-pet)?
小さな・(小さな・谷地・曲がり・多くある・川)

(? = 典拠あり、類型未確認)

アイヌはどんなに小さな川であっても、ほとんどの川に名前をつけていたと言われます。そのネーミングは実用性を重視したもので、有用な植物の名前であったり、峠の向こうの地名であったり、地形上の特徴であったり様々ですが、どうしても似たような特色を持つ川が複数存在した場合は、penke-(川上側の)や panke-(川下側の)を頭につけて川名の重複を回避するようにしていました。

また川の本流と支流についても poro-(大きな)と pon-(小さな)をつけて区分することもありました。poro-(大きな)は onne-(老いた)とする場合もあり、また onne- と比べても例は少ないですが pon- の代わりに pewre-(若い)を使用するケースもあります。

pon- の類義語としては pewre- よりも mo-(小さな・静かな)を使用するケースのほうが圧倒的に多いかと思います。

poro-pon- は、必ずしも本流・支流の関係に限るものではなく、penke-panke- のように「似たような特徴を有する川」のグループ化にも使用されていました。前項の poro-nitat-kom-us-petpon-nitat-kom-us-pet はどちらも雨竜川の支流で、「幌新太刀別川」と「沼田ポン川」に本流・支流の親子関係はありません。

では pon-nitat-kom-us-pet の支流が似たような特色を兼ね備えていた場合、どんなネーミングにすれば良いのでしょうか。それを考え始めると夜も眠れなくなるので昼寝するしかないのですが……(ぉぃ)。

残念ながら「東西蝦夷山川地理取調図」には記入がないのですが、「沼田ポン川」にはかなり似たような規模の西支流が流れています。明治時代の地形図には「ポンニタチペ」の支流として「ポンポン」と言う名前で描かれていました。なんのことはない、更に pon- を追加するだけで良かったのですね(汗)。

山田秀三さんの旧著「北海道の川の名」にも、次のように記されていました。

 奔川の支流を、今、ポンポンニタッベッといっている。おかしな名である。これは奔川の支流であるという意味で Pon=Ponnitatpet と呼んだ姿らしい。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.45 より引用)

ということで、「ポンポンニタシベツ川」は pon-(pon-nitat-kom-us-pet) で「小さな・(小さな・谷地・曲がり・多くある・川)」だった、というお話でした。

アイトナイ川

ay-ta(-us)-nay??
イラクサ・刈る(・いつもする)・川

(?? = 典拠なし、類型あり)

JR 留萌本線・真布駅の西あたりで幌新太刀別川に合流する西支流の名前です。残念ながら「東西蝦夷山川地理取調図」には「ホロニタツコムシベ」の支流は描かれておらず、また「再篙石狩日誌」においても同様です。明治時代の地形図にも現在の「アイトナイ川」と思われる川が描かれていますが、「アイトナイ」ではない名前が描かれていました(最初の文字は「ニ」のようなのですが)。

要は手がかりのない状態なのですが、幸いなことに峠の向こうの留萌市に「アイトシナイ川」という川があることを知りました。「アイトシナイ」と「アイトナイ」はびみょうに違いますが、どちらも ay-ta-us-nay で「イラクサ・刈る・いつもする・川」だったと考えて良いのではないかな、と思っています。

もしかしたら、-us が省略された ay-ta(-us)-nay が「アイトナイ」になったのかも……。

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