2018年6月30日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (546) 「オキラウンベ川・活込・ヨウナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

オキラウンベ川

o-kim-ran-pe??
その尻・山・下がる・もの
o-kiraw-un-pe??
河口・角(つの)・あるもの
(?? = 典拠なし、類型あり)
本別町西部を流れる「美里別川」の西支流の名前です。オキラウンベ川の西側には「ラウンベ川」も流れていますが、こちらは直接利別川に注いでいます。

さて、ラウンベの上についている「オキ」って何だろう……という話ですが、明治期の地形図を見ていて妙なことに気づきました。現在の「ラウンベ川」のところには「ラウシペ」とあるのに対し、「オキラウンベ川」のところには「オキランペ」と記されています。

もちろん「ラウシペ」が「ラウンペ」の誤記である可能性もあるのですが、「ラウンベ川」と「オキラウンベ川」の名前が他人の空似である可能性も考えないといけません。

平山裕人さんの「アイヌ語古語辞典」によると、上原熊次郎の「藻汐草」に次のような語彙が記録されているのだそうです。

オキランベ
 ①山崩洪水 ②
(平山裕人「アイヌ語古語辞典」明石書店 p.291 より引用)
この「オキランベ」ですが、どうやら okimunpe(山津波)の変形のような感じですね。okimunpe の語源を分解すると o-kim-un-pe で「その尻・山・にある・もの」となり、「山から来るもの」というニュアンスになるようです。

「オキランベ」の場合、o-kim-ran-pe で「その尻・山・下がる・もの」と解釈できたりするでしょうか。「鉄砲水」なんかだと san を使う場合が良くあるのですが、「山津波」だと ran になる……ということで良かったのでしょうか(若干不安)。

ちなみに、参考までに「山津波」以外の解釈を考えてみると、o-kir-un-pe で「河口・足・ある・もの」とか o-kiraw-un-pe で「河口・角(つの)・あるもの」と言った読み方もできそうです。後者は扇状地の入口に角のように聳える山がある……ようにも見えるので、もしかしたら案外正解に近かったりするのかも……?

活込(かっこみ)

kakkum?
ひしゃく
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
美里別川の本別町と足寄町の間に「活込ダム」があります。どうでもいい話ですが、貯水池を横切る町境が不思議な形をしていますね。

貯水池は足寄町側の方が広そうに見えますが、地名としての「活込」は本別町にあります。また美里別川の支流に「パンケ活込川」と「ペンケ活込川」もあります。「活込」という名前の由来をたどるには、「パンケ活込川」と「ペンケ活込川」をヒントに考える必要がありそうです。

「川汲」と「活汲」

道南の南茅部に「川汲」という地名があることをご存知のかたもいらっしゃるかと思います。また道東の津別にも「活汲」という地名があります。いずれも「かっくみ」と読むので厳密には少しだけ違いますが、「活込」も似たような地名ではないかと考えてみました。

「川汲」については「カッコウのいるところ」という解が記録されていますが、「活汲」については「ひしゃく」を意味する kakkum が語源ではないか、とされています。津別の「活汲」については、知里さんは「ひしゃくの材料となる白樺が多かったからではないか」と考えたようです。

二つの「ペンケ活込川」

ここで一点、少し困ったことがあるのですが、OpenStreetMap で「ペンケ活込川」の位置を確認すると、同名の「ペンケ活込川」が二つ見つかるのですね。そして二つ目?の「ペンケ活込川」は「パンケ活込川」の下流にあるという、常識的に少々あり得ないことが起こっています(penke は「川上の──」という意味です)。

ただ、古い地形図を見ていて謎は解けました。どうやら現在 OpenStreetMap で「パンケ活込川」と記されている川はかつての「ペンケカッコミ」で、下流側に「ペンケ活込川」と記されている川がかつての「パンケカッコミ」だったようです。どこかで誰かが取り違えてしまったんでしょうかねー……?

共通点?

面白いことに「パンケ活込川」(かつてのペンケカッコミ)と「ペンケ活込川」(かつてのパンケカッコミ)は、川下で直角に近い急カーブを描くという特徴を共有しています。*上から俯瞰すると* ひしゃくのように見えなくも無いかな……と。そう考えて道南の川汲川を見てみると、川汲温泉のあたりで直角に近いカーブが綺麗に続いているなぁ……などと思えてきます。

本別の活込の場合、川の流れがひしゃくを想起させたのか、あるいはひしゃくの材料となる白樺が多かったからなのかは良くわかりませんが、とりあえず kakkum で「ひしゃく」だったと考えてみたいです。

ヨウナイ川

i-o-nay
アレ・多くいる・川
(典拠あり、類型あり)
今回は色々と妄想が捗る(ぉぃ)ネタが続いたので、最後はちと軽めのネタを。ヨウナイ川は美里別川の西支流で、活込ダムによって形成された「活込貯水池」に注ぎます。

こちらも古い地形図を見ると一目瞭然でした。「イナオイ」と記されています……おっと、右から読まないといけないんでしたね。どうやら i-o-nay で「アレ・多くいる・川」だと考えられます。

i で「アレ」と表現するのは、言挙げを憚る何かを指すための言い回しです。地名の場合は「ヒグマ」「マムシ」「蛇」あたりが「アレ」に該当するのですが、ここの場合はどれが適切だったでしょう。足寄の「大誉地」は「蛇」ではないかと言われているので、ここも「蛇」の可能性があるかな……と思ったりしていますが。

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