2018年7月14日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (550) 「ドイマベツ川・クオンベツ川・チンコロ川・ペンケポンビリベシリ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ドイマベツ川

tuyma-pet?
遠い・川


足寄町北西部、美里別川上流部の東支流の名前です(地理院地図では「ドイマベツ小川」となっています)。

「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 ドイマベツ沢 美里別川上流の左支流。ドイマベツはアイヌ語「トイ・オマ・ペッ」で泥ある川の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.645 より引用)

ふーむ。いや、ちょっと違う解を想定していたのですが、なるほどそう読むこともできますね。

一方、鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。

ツイマペツ
ドイマベツ沢(地理院図)
トイマベツ沢(営林署図)
 ユーウンペツ沢の上流 2 キロ付近を、北側から美利別川に流入している。足寄町史は「トイマベツ トイマはトゥイマまたはツゥイマの発音で遠いという意。ベツは川だから、遠く奥行のある川という意だと、貫塩喜蔵説」と。つまりトゥイマ・ペッ(tuima-pet 遠い・川)と解したのであった。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.159 より引用)

この鎌田さんという方は、山田秀三さんの「北海道の地名」を愛読されていたんだろうなぁ……と思うことがあります。何と言うか、文体というか、項目の締め方なんかがそっくりなんですよね。今回の例だと「つまり」以下が特にそっくりで微笑ましくなります。

さて、おそらくは更科さんの説である「土(食土)のある川」説と、足寄町史の「遠い川」説が出てきたわけですが、古い地形図には確かに「ト゚イマペツ」(つまり「トゥイマペツ」)と記されています。そう考えると toy-oma-pet で「食土・ある・川」説よりは tuyma-pet で「遠い・川」説のほうが確からしく思えてきます。

懸念点としては、tuyma(遠い)という語彙が、地名としてはあまり使われることが多くないように思えるあたりでしょうか。「遠い川」というのはあまりに抽象的に過ぎて、アイヌの地名の流儀からは若干外れるような気もするのですね。そういう意味では、むしろ更科説のほうが「アイヌの地名らしい」ようにも思えてしまいます。

クオンベツ川

suma-o-terke-us-pet?
岩・多くある・跳ぶ・いつもする・川


ドイマベツ川から 1 km ほど上流で美里別川に合流する西支流の名前です。「クオンベツ川」という名前からは ku-o-pet で「仕掛け弓・多くある・川」あたりかと思ったのですが……

ところが、古い地形図を見てみると「シユマオテレケウンペツ」と記されていることに気づきました。なるほど、これだと suma-o-terke-us-pet で「岩・多くある・跳ぶ・いつもする・川」と読み解けます(「ウンペツ」は「ウㇱペッ」の誤記ではないかと想像しました)。「シユマオテレケウンペツ」では長すぎたからか、前半が省略され「ケウンペツ」となり、それが訛って「クオンベツ」になったのではないか、という想定です。

後づけの情報で恐縮ですが、クオンベツ川はクマネシリ岳の南側を通っています。クマネシリ岳は美里別川とヌカナン川の間で「横棒のように」聳えているため、クオンベツ川より北側には鞍部が事実上存在しません。ですので、川沿いは峠道として使用されることもあったんじゃないかな……と思われます。

地理院地図では道の存在は確認できませんが、OpenStreetMap には道の存在が描かれています。「けもの道」程度の小径が現在でもあるのかもしれません。

チンコロ川

chin-kor(-pet?)?
脚・持つ


音更町には「パンケチン川」「ペンケチン川」「ポンチン川」「ポンパンケチン川」などがありますが、若干離れた足寄の山中に真打ちを発見しました(何の)。

chin は「獣の皮を張る」で kor は「持つ」かと思ったのですが、これだと動詞が続くことになるのでちょっと変かもしれません。chin は名詞だと「上脚」「内もも」という意味になるので、chin-kor(-pet) は「脚・持つ(・川)」と解釈できそうに思えます。

何らかの地理的特徴からこのような名前になったのだろうと考えるしか無いのですが、そうですね……上流部の左右にとても小山が並んでいるようにも見えます。これを指して「脚を持つ川」と呼んだ……とかでしょうか?

ペンケポンビリベシリ川

penke-pon-{pir-pet}-sir(-pet?)?
川上の・子である・{美里別川}・山(・川)


チンコロ川の北隣を流れる支流の名前ですが、ちょっと理由ありな川名かもしれません。途中で南支流が合流しているのですが、こちらは「パンケポンビリベシリ川」と名づけられているようです。

「ペンケ」は penke で「川上の──」という意味ですね。「ポン」は pon で「小さな」あるいは「子である」という意味です。「ビリベ」は「美里別」のことと考えるのが自然でしょう。ですので「ポンビリベ」は「美里別の支流」と考えて良いかと思います。

問題は最後の「シリ」でして、これは sir で「大地」だったり「山」だったりを意味します(近くだと「クマネシリ岳」がありますね)。となると、「ポンビリベシリ」は川の名前から借用された山の名前だったのかもしれません。

但し、「ピリベツ岳」は「西クマネシリ岳」の北側にあるので、ペンケポンビリベシリ川とは関係無さそうです。

本題に戻って「ペンケポンビリベシリ川」ですが、川名から借用された名前の山から流れる川の名前……なんでしょうか(わけわからん)。penke-pon-{pir-pet}-sir(-pet?) で「川上の・子である・{美里別川}・山(・川)」と解釈するしか無いような気が……(汗)。

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