2018年7月15日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (551) 「ルウチシウナイ川・ヌプチシオマナイ川・ノロウエシナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ルウチシウナイ川

ru-chis-un-nay
道・中くぼみ・ある・川
(典拠あり、類型あり)
足寄川は利別川の東支流で、足寄の市街地の東側で利別川に注いでいます。ルウチシウナイ川は足寄川の東支流ですから、利別川から見ると支流の支流、十勝川から見ると支流(利別川)の支流(足寄川)の支流(ルウチシウナイ川)となりますね。

戊午日誌「東部報十勝誌」には次のように記されていました。

     ルウチシンナイ
右のかた小川也。然し源は遠しと。其うしろはウラホロに当るよし。ルウチシはウラホロえ越る道すじと云儀也。其処さして高山なしと。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.328 より引用)
「其うしろはウラホロに当るよし」とありますが、実際にはペンケ仙美里川の支流の「1 の沢川」に出るだけです。ただ、いい具合に山の鞍部ができているのは確かで、このあたりでは珍しくサミットが海抜 200 m を下回っています。まさに ru-chis(「道・中くぼみ」つまり「{峠道}」)と呼ぶに相応しい地形です。

「ルウチシ」は ru-chis でいいとして、「──ンナイ」または「──ウナイ」とは何ぞや……ということですが、何のことは無い、明治の頃の地形図には「ルーチシウンナイ」と記されていました。ru-chis-un-nay で「道・中くぼみ・ある・川」と読み解いて良さそうな感じです。

ヌプチシオマナイ川

nup-kes-oma-nay?
野・末端・そこに入る・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
足寄川の支流で、「ルウチシウナイ川」の北隣を流れています。音からは nup-chis-oma-nay で「野・中くぼみ・そこに入る・川」と読み解けそうです。「野原の中くぼみ」って何だろう……と思わないでもないのですが、地形図を見ると立派な河岸段丘があり、「ヌプチシオマナイ川」(地理院地図では「ヌフチシオマナイ川」)は段丘を掘るように流れています。これを nup-chis(野・中くぼみ)と呼んだのか……と思ったのですが……

ただ、明治の頃の地形図を見てみると「ヌプケシュオマナイ」と記されていました。ああ、これなら納得できます。nup-kes-oma-nay で「野・末端・そこに入る・川」と考えられます。なるほど、隣の「ルウチシウンナイ」から chis が紛れ込んだということでしょうか。

ところが、戊午日誌「東部報十勝誌」には次のように記されていました。

     ユツケシヨマナイ
右のかた小川。此処鹿多きよりして号。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.329 より引用)
えっ……? ちなみに頭注には「ユク 鹿が」「ケシ いつも」「オマナイ 居る川」とありました。yuk-kes-oma-nay で「鹿・いつも・いる・川」と言うのですが、あまり見かけない形です。文法的にも kes を動詞で受ける?のは若干変な感じもします。

これは……ご都合主義かもしれませんが、明治の頃の地形図に記されていた「ヌプケシオマナイ」が最も正確な理解だったのでは無いでしょうか。

ノロウエシナイ川

oro-wen-net-nay?
その中・悪い・流木・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
足寄川の北支流の名前です。これもアイヌ語由来の川名なのでしょうけど、ぱっと見た感じではなんだか良くわからない形です。

ただ、ありがたいことに昔の地形図に大ヒントが記されていました。どうやら「ノロウエシナイ川」の西側(老人ホーム?の近くの川)が「ポンノロウェン子ナイ」と呼ばれていたように読み取れます。

なるほど、これで「ノロ」の謎が解けたような気がします。おそらく「ポンノロウェン子ナイ」は pon-oro-wen-ne-nay で「小さな・その中・悪い・ような・川」だったか、あるいは pon-oro-wen-net-nay で「小さな・その中・悪い・流木・川」あたりでしょう。アイヌ語にもリエゾン(連声)の仕組みがあるので、ponn につられて oron-oro になってしまった、ということだと思います。

あとは「ウェン子ナイ」が「ウエシナイ」になったメカニズムを解明すれば良いのですが、「ン」を「シ」と書き間違えたか、あるいはまさかの「子」()を「シ」にしてしまったか……あたりでしょうか。

ということで、「ノロウエシナイ川」は oro-wen-ne-nay で「その中・悪い・ような・川」か、あるいは oro-wen-net-nay で「その中・悪い・流木・川」だったのではないかと考えてみました。wen-ne-nay というのは文法的に少々怪しい感じもするので、どちらかと言えば wen-net-nay のほうが本命かもしれません。

ただ、net を丸太のような流木と考えるのは無理がありそうかな、と思います。川筋に折れた細枝が多くあるけど、湿っていることが多く焚き木には使えないから wen(悪い)である……と言ったストーリーはどうでしょう?

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