2019年1月5日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (594) 「ウシネビラ川・ユニナイ沢川・下川ペンケ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ウシネビラ川

ut-ne-pira???
肋骨・のような・崖
(??? = 典拠なし、類型未確認)
下川町二の橋のあたりで名寄川に合流する南支流の名前です。明治の頃の地形図を見た限りでは、現在のウシネビラ川に相当する位置に「ソーケショマナイ」と記してある……ようにも見えます(最初の三文字がちょっと怪しいのですが)。もし「ソーケショマナイ」なのであれば、so-kes-oma-nay で「滝・末端・そこに入る・川」ということになりますね。

さて、現在はこの川の名前は「ウシネビラ川」なのですが、残念ながらその意味は良くわかりません。一つだけ思いついたのが、実は「ウシネビラ」は「ウッネピラ」だったんじゃないかな、という想像です。

ut-ne-pira は「肋骨・のような・崖」という意味になるかと思います。地名における「肋(あばら)」とは何ぞやという話ですが、「肋・川」を意味する ut-nay であれば道内のあちこちで目にすることができます。本流に合流する手前で大きく向きを変えて、直角に近い形で合流する川を「肋・川」と呼んだのですが、これは背骨に対する肋骨のように見えたから、なのでしょうね。

ということで、「肋骨のような崖」と呼ぶに相応しい地形が無いか……と思ったのですが、困ったことに「ウシネビラ川」ではなく「ユニナイ沢川」にそれっぽい地形があることに気が付きました。ちょうどこの部分です。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
つまり、「ウシネビラ」は本来は現在の「ユニナイ沢川」を指す川名で、しかも「シ」ではなく「ッ」ではないか……という、年明け早々想像力の塊のような解釈に辿り着いてしまったということでして……。難点は、類型の地名が他に見当たらないあたりでしょうか。

丁巳日誌「天之穂日誌」には「ウラチンナイ」という川の存在が記されています。もしかしたら、これが現在の「ユニナイ沢川」を指している可能性もありそうです。

ユニナイ沢川

yu-ochi-nay?
湯・多くあるところ・川
i-ochi-nay?
アレ・多くいるところ・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
ウシネビラ川から見て、二つ西(下流側)の川の名前です。深い谷を刻んでいるところで大きく曲がっているのが特徴的ですが、この部分を ut-ne-pira と呼んだのではないか……というのが先程の話です。

丁巳日誌「天之穂日誌」には「ユウイナイ」という川の存在が記されています。

少し行
    ウラチンナイ
    ユウイナイ
等是も小川。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.86 より引用)
「東西蝦夷山川地理取調図」には「ユウチナイ」と記されています。ポイントとしては、「ユウチナイ」と「ヘンケヌカナン」の間に「ウラチンナイ」があるところでしょうか。「ヘンケヌカナン」は現在の「下川ペンケ川」のことと考えられますので(あ、ネタバレだ)、「ユウチナイ」は「下川ペンケ川」から見て二つ東(上流側)の川だということになります。

「ユウチナイ」であれば yu-ochi-nay で「湯・多くあるところ・川」か、あるいは i-ochi-nay で「アレ・多くいるところ・川」あたりかなぁ、と思われます。

i を「アレ」としましたが、具体的に何なのかは不明です。熊や蛇、マムシなど、口に出すのも憚られるものであることは確かなのですが……。

下川ペンケ川(しもかわ──)

penke-nup-ka-an-p?
川上の・野原・の上・ある・もの(川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
下川町中心部の東側で名寄川に合流する南支流の名前です。下川ペンケ川の源流部には「下川鉱山」があり、銅などを算出したそうです。

永田地名解には次のように記されていました。

Penke nukananp  ペンケ ヌカナンㇷ゚  ?
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.418 より引用)
久々に伝家の宝刀「?」のお出ましですね。もっとも、「ヌカナン」あるいは「ノカナン」は意味が釈然としない場合が多く、一概に永田地名解を責めることもできないのが現状です。

山田秀三さんの「北海道の地名」にも、次のようにありました。

 ノカナン,ヌカナンのような形の地名が処々にあるが意味が分からなくなっている。このヌカナンについても,永田地名解はただ ? 印をつけただけであった。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.148 より引用)
そうなんですよねぇ。というわけで「ペンケヌカナン」の解釈も謎だと思われるのですが、一方でこんな解が記された書物もありました。

 ペンケ川 市街の東で名寄川の左に入る小川。「ペンケノカナンプ」(川上の原野ある川)の略。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.359 より引用)
まぁ、謎な解がちょくちょく見られる本なので、果たしてどこまで信用できるか……という話もありますが、一応ご参考までに。「ペンケノカナンプ」をどう読めば「川上の原野ある川」になるのか、というところ自体が若干謎ですが、penke-nup-ka-an-p だとすれば「川上の・野原・の上・ある・もの(川)」となりますね。

確証が持てないので若干否定的なニュアンスで書いてしまっていますが、これでも実は悪くない解だと思っています。逆に、山田さんが「意味が分からなくなっている」としたのが何故なんだろうなぁ……と思ったりもします。

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