2019年1月14日月曜日

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「日本奥地紀行」を読む (食べ物と料理に関するノート (1))

 

イザベラ・バードの「日本奥地紀行」(原題 "Unbeaten Tracks in Japan")には、初版(完全版)と、いくつかのエピソードが削られた普及版が存在します。今日からは、「普及版」では完全にカットされた「食べ物と料理に関するノート」を読んでゆきます。



改めて昨年(2018 年)の記事を読み返してみたんですが、ずーっと「新潟市」の記事ばっかですね(汗)。題名のリライトもサボってますが、この調子だともうひと工夫が必要になるかもしれません。なお、番外編「食べ物と料理に関するノート」が終われば、イザベラはついに新潟を出発することになりますので、もう少しだけお待ち下さい!

食べ物と料理に関するノート

イザベラ・バードの「日本奥地紀行」は、イザベラによる探検の記録を詳らかに記したものであると同時に、母国イギリスの人々に向けた「日本という未知なる国の紹介文」でもありました。まぁ、いろんな意味で現代における「旅行ガイド」のような甘っちょろいものでは無かったのでしょうけど……。ということで

日本の食べ物については手紙のなかでたいへんよく言及してきたものの、それでもまだ少ないので、手紙に出てきた二、三のつながりの深いものに関して、このノートで補足をしておきたい。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.288 より引用)

イザベラ姐さんによる日本の「食べ物と料理」徹底解説のお時間です。

魚と醤油

まずは、そもそも日本ではどのようなものが食されているかの紹介です。

日本の食材の範囲はほぼ際限がない。とはいえ、最下層の人々の必需食料品を成しているのは、米、粟、塩魚、大根である。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.288 より引用)

「最下層の人々」という表現が重たく感じますが、当時の日本は「武士」こそいなくなったものの、ガチガチの格差社会だったということなのでしょうね。米は今でも日本人の主食ですが、稗や粟などの雑穀類は、現在ではむしろ意図的に食する「嗜好品」になったでしょうか。

鰹、鯨、強く塩をしたり干したりした鮭、なまこ、いかその他は生で食べる。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.288 より引用)

最近、マッチポンプ的に話題になった「日本の伝統食」である「鯨」が明記されているのは興味深いですね。マグロやハマチ、ブリよりも「鰹」「鯨」「鮭」が出てくるのも面白いです。「鮭」については、新潟県の北の方では長期保存の利く食材として重宝されていたような記憶もあります。

ごま油で揚げて食べる魚もあり、これは揚げ物をしているのが近所にわかってしまうほどの臭いを発する。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.288-289 より引用)

「ごま油で揚げて食べる魚」とありますが、これは「天ぷら」のことなんでしょうかね。ごま油の香ばしさと言ったら相当なものですが、イザベラはあの匂いについてはどう感じていたのでしょう。

うなぎその他の美味は日本の偉大なソースである醤油を添えて供されるが、醤油は発酵させた小麦と大豆、それに塩、酢、場合によってはさらに風味を出すために酒を加えてつくり濃い茶色をしている。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289 より引用)

イザベラは「鰻の蒲焼」も食していた可能性が高いということが判明しました。イザベラにとって「鰻を食する」ということに抵抗は無かったのだろうか……と思ったりもしますが、イザベラは鰻のことを「美味」(原文では "dainties")と記しているので、素直に「美味い!」と感じていたようですね。

醤油のことを「日本の偉大なソース」としていますが、これは確かにそのとおりでしょうね。「とんかつソース」も凄いと思いますが、「醤油」の無い和食はちょっと想像したくありません。

鳥獣と家禽

イザベラは日本の「必需食料品」として「米、粟、塩魚、大根」を挙げましたが、もちろんその他の肉も食していました(現代人よりは摂取量は少なかったのでしょうけど)。「鳥獣と家禽」と題されたセクションでは、日本人が食用に供していた鳥獣について記されています。

 鶴やこうのとりは裕福な人々の贅沢品であるが、鴨、雁、雉(きじ)、鴫(しぎ)、鷺(さぎ)、山鴫(やましぎ)、雲雀(ひばり)、鶉(うずら)、鳩は中流が食べ、神道の強いところや、仏教の生命の尊さについての教えが外国人との接触やその間接的な影響により消えてしまったところでは、鶏や家鴨(あひる)も食べる。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289 より引用)

鳥獣は「裕福な人々」や「中流」の人々の食材だったことがわかりますが、それ以上に「牛」や「豚」が出てこないことが衝撃的です。日本において牛肉や豚肉が普通に手に入るようになったのはいつ頃の話なんでしょうね。

多種多様な野菜

魚の話題と肉の話題に続いて、今度は野菜の話題です。

野菜の種類は無限にあるが、大きな例外ひとつをのぞき、あとはきわめて無味である。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289 より引用)

「大きな例外」というのは、どうやら「大根」のことのようです。イザベラは殊のほか「大根」のことを気にしていて、わざわざ「大根」と題した章を設けて色々と記しています。

大豆は一四種が食料として栽培され、そのほか豌豆、蕎麦、とうもろこし、さつまいも(最下層しか食べない)、蕪、にんじん、レタス、きくぢしゃ、きゅうり、瓜、マスクメロン、西瓜、ほうれん草、ポロねぎ、玉ねぎ、にんにく、チリ唐辛子、唐辛子、茄子、山芋、紫蘇、とくさの一種[つくし?]、黄菊の花、蓮の根と種、くわい、里芋、ハワイのタロ芋などがある。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289 より引用)

「豌」は「えん」と読みます。「豌豆」で「えんどう」となりますが、これは「サヤエンドウ」のことですね。「きくぢしゃ」は漢字では「菊萵苣」ですが、「萵苣」はレタスの和名なのだとか。確かに見た目はサニーレタスっぽいですが、菊ながらの苦味が特徴とのこと。「ポロねぎ」は我々が一般的に「ネギ」と認識しているアレのことです。青ネギも白ネギもどっちも良さがありますよね。

少々意外なのが、「さつまいも」を「最下層しか食べない」としているところでしょうか。確かに「石焼き芋」は庶民の味覚と言った趣がありますが……。

栽培した野菜以外に、ごぼう、わらび、寒葵(かんあおい)、たで、筍(非常に美味)その他の根菜や茎を食べる。茄子は非常に広く栽培されている。鬼百合と白百合の球根も食用に栽培されている。野菜はふつう煮る。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289 より引用)

この中では「寒葵」に馴染みが無いでしょうか。知らないだけかもしれませんが、食材としては全く記憶にないものですね。あとイザベラが「筍(たけのこ)」のことを「非常に美味」としているのも興味深いですね。確かに、筍の煮物は普通に美味しいですもんね。

大根

そして、ついに「大根」の話題に入ります。

最後まで残しておいたのはすぐれた野菜、かの名高い大根であるが、これには旅行者も居留者も外国人はみんな悩まされる。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289 より引用)

まさに「真打ち登場」と言うに相応しい導入部ですが、どうやらイザベラを始めとする外国人にとって、「大根」はとても悩みのタネだったようです。

大根は有名な植物であるが、まったく敬意に値する! 果敢な人でも逃げ出すほどなのだから! 大根は下層階級によってどこででも栽培されて使われており、味のしない食べ物にこれで風味をあたえる。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.289-290 より引用)

大根おろしの、あのピリッとした独特の味覚は、焼き魚とあわせて食べるといいアクセントになると思うのですが……

その根は純白で、でこぼこがほとんどなく、とてつもなく大きくしたラディッシュのように見え、ふつうの人の腕くらいに太く、長さは一フィート[約三〇・五センチ]から二フィートあまりある。この状態では比較的害はない。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.290 より引用)

「この状態では比較的害はない」とは(笑)。そして「大根」の「害」について、ついにその真相が記されます。

これを軽く干してから米ぬかとともに塩水に漬ける。大根は多孔質で、寝かせてある三ヵ月のあいだに大量の漬け汁を吸収し、その結果、それを食べているときは同じ家のなかにいるのも困難なほどの悪臭を放つようになる。
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.290 より引用)

あー……。これは「たくあん漬け」のことですね。なるほど、あれは確かに(人によっては)耐えられない悪臭、と言えるかもしれません。「果敢な人でも逃げ出すほど」というのも理解できそうな気がします。

わたしの知る悪臭のなかで、これよりひどいのはスカンクくらいのものである!
(イザベラ・バード/時岡敬子訳「イザベラ・バードの日本紀行 上」講談社 p.290 より引用)

あはははは(笑)。

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