2021年3月6日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (812) 「狩布川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

狩布川(かりっぷ──)

{Ishikari}-ekari-p?
{石狩川}・遠回りする・もの

(? = 典拠あるが疑わしい、類型あり)

愛別川の南支流で、1986 年に竣工した愛別ダムがあります。ダム湖の名前は「狩布湖」と言うのだそうです。

イシカリカリ?

「東西蝦夷山川地理取調図」には「イシカリカリ」という名前の川が描かれています。また丁巳日誌「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。

扨、此アイヘツの事は此イチヤンコエキなる者能くしり居る山中に附、其大略を聞取て樺明しもて筆記するに、先フトより七八丁上りて左りの方ウツクシナイ、右の方ヌフリコヽマツフ、ヌツハヲマナイ、左りの方チシフ(コ)トンナイ、並びてハンケアンヘ、しばし上りて右の方イシカリカリ(プ)しばし上りて左りのちサツクルベシベツ、此処よりテシホ川すじケ子フチえ山越によろしと。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.319 より引用)

毎度おなじみ「イチヤンコエキ」からの聞き書きですが、こちらも「イシカリカリ」となっていますね。「プ」が追記されていますが、現在「狩布川」と呼ばれるこの川は、以前は「イシカリカリプ川」と呼ばれていたとのこと。

永田地名解には次のように記されていました。

I shikari kari  イ シカリ カリ  渦流 又川ノ奥無キヲ云フト
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.47 より引用)

このように、永田地名解も「プ」の無い形で記録しています。ところが明治時代の「北海道地形図」には「イシカリカリㇷ゚」という名前の川が描かれています。「北海道地形図」は永田地名解との親和性が高い……というか、永田地名解の情報を元に川名の表記を決めている風すらあるのですが、今回は両者で川名に違いがあるのは興味深いですね。

石狩狩布川

更科さんの「アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 石狩狩布川(いしかりかりっぷがわ)
 愛別川の支流に石狩狩布という名の川がある。石狩という地名が疑問の地名で、イシカリ・ぺッで非常に屈曲した川といわれているが、また水源が急に地下からわき出す川もイシカリペツ(釧路川支流)と呼んでいる。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.284-285 より引用)

「愛別ダム」の東側一帯は、現在は「旭山」という地名ですが、以前は「石狩々布」で「イシカリカリップ」と読ませていたみたいです。また、川名も同様に「石狩々布川」だったとのこと。

本題の「石狩狩布川」についてですが、更科さんは次のような考えを記していました。

石狩川をまわるものといえば言えないこともない。しかしそれらとは全然ちがった意味の地名であるかもしれない。イシカは鳥の尾羽をいう言葉であり、カリは作るという意味もあるからである。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.285 より引用)

ほう……と思って辞書で確認してみたのですが、どうやら「鳥の尾羽」は「イシカ」ではなく「イㇱ」あるいは「イシ」のほうが一般的……なんでしょうか。たとえば知里さんの「──小辞典」にも次のようにあります。

is, -i いㇱ 鳥の尾羽。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.37 より引用)

ついでに言えば、「イシカ」に近い語彙として iska があり、これは「盗む」と解釈できるようです(参考)。is-kar で「鳥の尾羽・作る」と考えてみたのかもしれませんが、いろんな点で釈然としないものがありそうです。

石狩川にまがって行く?

また、「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 石狩狩布川 (いしかりかりっぷがわ) 愛別川の左支流。アイヌ語で石狩川にまがって行くの意で,上流が石狩川の方から流れて大きくまわっているので,この川の水源から石狩川に山越えしたかと思う。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.318 より引用)

この文章も更科さんのものではないかと思うのですが、ここでは素直に「石狩川に曲がって行く」と考えたようですね。

知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 イシカリカリプ(<ishkari-ekari-p「石狩川・へ・廻つて行く・もの」) 右,枝川。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.332 より引用)※ 原文ママ

やはり知里さんも「石狩狩布」の「石狩」を固有名詞と考えたようです。山田秀三さんもこの考え方を是としたようで、旧著「北海道の川の名」には次のように記されていました。

狩 布 川

 愛別川の東支流の名。
〔永田地名解〕 イシカリカリ 渦流。又川の奥なきをいう。
〔知里博士〕 イシカリカリプ <Ishikari-e-kari-p (石狩川・へ・回って行く・もの)

 この川を溯ると、東々南に回っていって、水源は石狩川(本流)に近づいている形である。川の源流の名は、よくその山向うの土地の名をつけて呼ぶ。知里説が正しいようである。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.56 より引用)

「石狩狩布川」ではなく「狩布川」になっているのが興味深いですが、「北海道の川の名」は「監修 北海道土木部河川課」とのことなので、公的には早い時期に「狩布川」になっていたのかもしれませんね。

e-kariekari

それはさておき。山田さんは {Ishikari}-e-kari-p で「{石狩川}・へ・回って行く・もの」だろう……と考えたようですが、e-kari を「へ・回って行く」と考えるのはちょっと妙な感じもします。

よく見ると知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には e-kari ではなく ekari となっていて、また萱野さんの辞書によると ekari は「回る:遠回りする」とあるので、{Ishikari}-ekari-p で「{石狩川}・遠回りする・もの」と考えるほうが自然かもしれません。

「回る」という表現にも若干解せないものを感じていたのですが、なるほど「遠回り」であれば「その通り!」ですね。

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