2021年3月13日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (814) 「エチラスケップ川・ウラナンスケップ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

エチラスケップ川

e-{chi-rutke}(-p)??
頭・{崩す}・もの

(?? = 典拠あるが疑わしい、類型未確認)

石狩川の南支流で、主に旭川紋別自動車道の北側を流れています。「東西蝦夷山川地理取調図」には「イチナンケフ」という川が描かれています。ただ、実際の「エチラスケップ川」と比べると随分と大きな規模の川であるかのように描かれているのがちょっと気になります。

「イチナンケフ」と「イチラシケ」

丁巳日誌「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。

此箬原を分て行こと凡十丁計にて
     イチラシケ
川すじに出るなり。此処より本川端までは十丁も有と聞り。川巾五六間、水清く、桃花魚・雑喉多し。依て此処にて宿さんとて、形計の丸小屋を懸て宿するに、此方彼方を異草にても採らばやと探すに、一種のものを得たり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.310 より引用)

随分と「エチラスケップ」に近づきましたね。どうやらこの川の近くで松浦武四郎が野宿したようで、現地には記念碑が立っていたりするのでしょうか。

問題は「イチラシケ」と「イチナンケフ」が同一の川なのか……というところです。特に「イチナンケフ」は上川町の「エチャナンケップ川」ととても似ているようにも見えます。

改めて「東西蝦夷山川地理取調図」を確かめてみましたが、現在の「エチャナンケップ川」に近い位置に「エシヤウシ」という川が描かれていました(「エシヤウシ」は現在「江差牛山」のあるあたりと考えられます)。注意すべき点として、「東西蝦夷──」においては「イチナンケフ」のほうが「エシヤウシ」よりも遥かに大きな川として描かれているという点が挙げられます。

もしかして「イチナンケフ」が何かの拍子に「エシヤウシ」の北麓の川の名前に転用されたのか……と思ったのですが、「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。

     イチナンケ
     エシヤウシ
二川とも左りの方、柳原なり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.313 より引用)

うっかりミスか別名か

となると考えられそうなシナリオは以下のどちらかでしょうか。

「うっかりミス」説

「東西蝦夷山川地理取調図」は「イチラシケ」の位置に誤って「イチナンケフ」を描いてしまった、という仮説です。こう考えると、「東西蝦夷──」において「イチナンケフ」が過大に描かれていることも納得できてしまいます(汗)。

「別名」説

「イチラシケ」には「イチナンケフ」という別名があった、という仮説です。

「エチナンゲップ」と「エチャナンケップ」

「イチナンケフ」は「エチャナンケップ川」ととても似ていますが、日高の新冠町にも「エチナンゲップ山」という山があります。「なんだ山じゃないか」と思われるかもしれませんが、麓に「パンケイチナンゲフ」と「ヘンケイチナンゲフ」という川の記録もあります。

「エチナンゲップ」は e-{chi-nanke}-p で「頭・{削れる}・もの」ではないかと考えていました。永田地名解は現在の「エチャナンケップ川」と思しき川を「エチナンゲㇷ゚」と記録していますが、全く同じ風に解釈できるのでは、と考えています。

そして「エチラスケップ川」のオリジナル?と思われる「イチラシケ」あるいは「エチラスケ」をどう解釈するか、少し頭を悩ませたのですが、e-{chi-rutke}(-p) で「頭・{崩す}・もの」と読めそうなことに気が付きました。

「東西蝦夷──」の「イチナンケフ」は個人的にはうっかりミスのような気がしてなりませんが、この解釈だと仮に「イチラシケ」に「イチナンケフ」という別名があったとしても納得できそうな気がします。そして「東西蝦夷──」がうっかりミスをやらかした理由も理解できそうな気が……。

ウラナンスケップ川

urasam-us-ke-p??
笹の葉・多くある・削る・もの(川)

(?? = 典拠なし、類型あり)

エチラスケップ川の南支流で、主に旭川紋別自動車道の南側を流れています(「エチラスケップ川の支流」としましたが、これは後の流路改良によるものである可能性があり、本来は独立して石狩川に合流していたと考えられそうです)。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ウラシウシ」という名前の川が描かれていましたが、これは uras-us-i で「笹・多くある・もの(川)」と読めそうですね。

そして現在は「ウラナンスケップ川」という名前になっているのですが、何分小さな川なので古い地図ではその名前を確認できません。「ウラシウシ」が「ウラナンスケップ」になる理屈がどうにも理解できなかったのですが、知里さんの「植物編」を見ていて urasamuras-ham)という表現があることに気が付きました。

( 5 ) urasam(u-rá-sam)「ウらサㇺ」[<uras-ham→注 2] 葉 ((名寄))
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.221 より引用)

ということで、urasam-us-ke-p だと考えれば「笹の葉・多くある・削る・もの(川)」と読めそうな気がします。「ウラナン──」が「ウラサン──」の誤記じゃないかという推測は、「東西蝦夷──」にある「ウラシウシ」からの推測です。

また、ke-p を「削る・もの」とするのは胆振の豊浦町の「礼文華」と同じ考え方で、途中で崖などを削る箇所があったのではないかとの想像です。

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