2026年2月8日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1345) 「アベツ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

アベツ川

apa-o-i?
戸・ある・ところ
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
平取本町の東、国道 237 号の「新平取大橋」のあたりで沙流川に合流する東支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) では「アペ川」と描かれています。


東西蝦夷山川地理取調図』(1859) では「アヘツ」と描かれている……のだと思いますが、「マヘツ」あるいは「フヽヘツ」のようにも見えますね。


楡の樹皮が多かった?

戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

扨此処より岸処々石原有、山多くは雑木立。過て
     アヽベツ
東岸中川。鱒・あめます・チライ・桃花魚うぐい多し。其名義はアツベのよしにて転じたりと。昔し楡皮多かりしより号るとかや。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.679 より引用)
オヒョウ(楡)の樹皮から紡いだ糸で織られた「アットゥㇱ」(衣服)は交易品になるほど人気のあるもので、そのためオヒョウの自生地は地名にも良く残っています。オヒョウニレの樹皮は at なので、「アアベツ」は「アツベ」で at が多かったことによる……というのが松浦武四郎が記した説ですね。

座るところ?

一方で、永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

A pe   ア ペ   坐處 「」ハ坐スルノ義靜内郡「シピチヤリ」川ニモ「アペウンナイ」ノ地名アリ義同シ○松浦地圖「マベツ」ニ作ルハ誤ナリ
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.229 より引用)
「松浦地図」の「マベツ」は誤りなり……としていますが、確かにあれは「マベツ」と読める……というか、そうとしか読めないですよね(汗)。

そして『北海道実測切図』には「アペ川」と描かれていますが、なるほどこの解を参考にした可能性が高そうですね。a-pe で「座る・ところ」だと言うのですが、「座るところ」とは何ぞや……という話の前に「ほらほら他所にも類例があるよ」という話にしちゃうあたり、永田方正もなかなかやりますね……(何を)。

戸があるところ?

山田秀三さんの『北海道の地名』(1994) には次のように記されていました。

 以上の二説は,ア・ペッ「a-pet(何かが)坐る(坐っている)・川」,またアッ・ペッ「at-pet おひょう楡(の木)の・川」のように理解できるが,まだ説が出て来そうな名である。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.363 より引用)
そうですね。まだ説が出せそうな気がしています(汗)。

「アパ」あるいは「アペ」系の地名は apa(戸、入口)と解釈できてしまう場合が多いように感じています。apachise(家)の入口に相当する部分で、外から家の中が丸見えにならないような位置に設けられています(風雪を凌ぐ意味もあるのでしょうが)。

地名においては、下流側から上流側を遮るような形で山が聳えている場合が多い……との認識です(独自研究ですが)。道北の「安平志内川」がその最たるものとの認識ですが、例えば様似の「アポイ岳」も東を流れる「幌満川」にそれらしい地形が見られます。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「アベツ川」もこの apa 系の地名(川名)じゃないか……と考えてみると、それっぽくもあり、そうでもないようにも思えます(どっちだ)。中流部(平取町小平こびらの東)あたりがそれっぽい(山が上流部の眺めを遮っている)ようにも思えますが、apa-o-i で「戸・ある・ところ」が転訛に転訛を重ねて「アペ」になったかどうかは……正直なんとも言えません。

昨日の記事でも yam-o-i が「ヤムエ」に化けたんじゃないか……という思いつきレベルの内容を記していますが、-o-i が「エ」に化けた実例の有無を把握しておきたいですね。どこかに存在するんじゃないかと思っていますが……。

もう一方で

もっとも apa(戸、入口)では無かったとしても、at(オヒョウニレの樹皮)や a(座る)ではなくて ar-pet で「もう一方の・川」と見ることも可能だと考えています。アベツ川は、額平川(沙流川東支流)より下流側ではシラウ川と並ぶ規模の支流ですが、これと言った特徴が無かったので「もう一つの川」と呼ばれた……という可能性もあるかも、という想像です。

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