2019年2月16日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (606) 「ケナシ川・登和里・久尾内沢」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ケナシ川

kenas-pa-oma(-nay?)
原野・かみ・そこに入る(・川)


士別市朝日町中央(かつて「奥士別」と呼ばれていたあたり)から 3~4 km ほど東で天塩川に合流している北支流の名前です。

丁巳日誌「天之穂日誌」には次のように記されていました。

並びて
     チライルウベシヤニ
右の方山也。此辺川幅五〜六間に成るよしなり。こへて
     ヲサツテウシ
     ヲシキナウシ
     ケナシハヲマ
等皆左りの方小川、滝に成て落る由なり。こへて
     ト ワ リ
     イワヲナイ
皆左りの方小川。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.118 より引用)

前後関係を正確に把握するために、ちょっと長めに引用してみました。

最初に出てくる「チライルウベシヤニ」は、おそらく「九線川」のことだと考えられます。続く記述を見ると、「左りの方」すなわち北側に「ヲサツテウシ」「ヲシキナウシ」「ケナシハヲマ」が並んでいる、と読めます。

「東西蝦夷山川地理取調図」では「ヲサツテカシ」「チライウシルヘシベ」「ヲシキナウシナイ」「ケナシハヲマ」そして「トツリ」(?)の順で川が存在するように描かれています。「ヲサツテカシ」と「チライウシルヘシベ」の位置関係が逆転していますが、この順序のほうが現実の地形に即しているようです。また「トツリ」はおそらく「トワリ」の誤記で、現在の「登和里川」のことだと考えるのが自然です。

ということで、現在の川名を「登和里川」を基準に並べてみると、「朝日六線川」「九線川」「ケナシ川」「ホウダイ川」「登和里川」となるでしょうか。となると「朝日六線川」が「ヲサツテウシ」で、「ケナシ川」が「ヲシキナウシ」、そして「ケナシハヲマ」が「ホウダイ川」ということになりそうです。

「朝日六線川」は「ヲサツテウシ」あるいは「ヲサツテカシ」で、 o-sattek-us-i は「川尻・涸れている・そうである・もの(川)」あたりでしょうか。「ケナシ川」は「ヲシキナウシ」あるいは「ヲシキナウシナイ」で、o-{si-kina}-us-nay は「川尻・ガマ・多くある・川」と読み解けます。

そして現在「ホウダイ川」と呼ばれている川がかつての「ケナシハヲマ」で、kenas-pa-oma(-nay?) は「原野・かみ・そこに入る(・川)」と読めます。ですので厳密には「ケナシ川」は o-{si-kina}-us-nay だったことになりますが、「ケナシ」が kenas-pa-oma(-nay?) と無関係だ、と考えるのもあまりに不自然なので、kenas-pa-oma(-nay?) という名前が別の川に取り違えられてしまった、と見るべきなのでしょうね。

登和里(とわり)

tuwar-i
(水が)ぬるい・もの(川)


士別市東部の地名(士別市朝日町登和里)で、同名の川も流れています。また同名の山(登和里山)もあるほか、登和里山の北には「砥割山」(これも「とわりやま」と読む模様)もあります。

この「登和里」あるいは「砥割」ですが、おそらく tuwar で「ぬるい」だと思われます。……あ、手元の本にも記載がありましたので、見ておきましょう。

 登和里(とわり)
 朝日町の字名の一つで美しくよい地名であるが、元来は天塩川の支流の名で、登和里部落の中を流れている川の名である。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.163-164 より引用)

はい、確かに美しくて良い地名だと思います。

奥士別の上流に出ている小川の名はオサットワリという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.164 より引用)

ふむ、そうだったんですね。このあたりは o-sat-(川尻・乾いている)で始まる川が多いのですね。

トワリの意味は不明で、トは湖沼のことで、ワは水の中を歩いてわたるとか「…… から」という意味にもなる。トワは知里博士の地名辞典では湖周となっている。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.164 より引用)

あらっ? てっきり tuwar だと思ったのですが……

もしかするとト゚ワㇽの訛りで、なまぬるいの意かもしれないという。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.164 より引用)

ですよね。おそらくそうなんじゃないかと……。

山田秀三さんの「北海道の地名」にも記載がありましたので、見ておきましょうか。

登和里 とわり
 登和里川は朝日町市街から約 7 キロ東の天塩川北支流。その辺の土地を登和里と呼ぶ。トワリはトゥワㇽ(tuwar 水がぬるい)の意か。上川盆地のペートル川がpe-tuwar(水・ぬるい)であったのと似た形である。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.151 より引用)

ですよね。更科さんがなんだかややこしそうなことを書いていましたが、素直に tuwar-i で「(水が)ぬるい・もの(川)」と解釈してしまって良いかと思います。

久尾内沢(くおない──)

ku-o-nay?
仕掛け弓・ある・川


岩尾内川の西側を流れて天塩川に注ぐ南支流の名前です。地理院地図では「久尾内沢」とありますが、OpenStreetMap などでは「久屋内川」とあります。

大正 11 年に測図された陸軍図では「クオーナイ川」とあります。これは ku-o-nay で「仕掛け弓・ある・川」と考えるのが自然かと思います。

ku は、本来は「弓」という意味しか無く、chi-ani-ku で「我ら・手に持つ・弓」と chi-ama-ku で「我ら・置く・弓」のどちらにも解釈できますが、知里さんによると

地名に出てくるばあいの ku はほとんど後者を意味する。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.52 より引用)

とのこと。「仕掛け弓」を意味する語彙としては amappo というものもありますね。

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