2018年3月3日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (513) 「チャラツナイ・チキウ岬(地球岬)・トッカリショ岬」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

チャラツナイ

chararse-nay
滑るように流れる・沢


「チャラツナイ」は、地理院地図によると、新富町二丁目の南の海岸部の地名……であるように読み取れます(「蓬莱門」の北西)。ただ、元々は蓬莱門の東側、チキウ岬の北を水源とする小川の名前だったようです。

永田地名解には次のように記されていました。

Chararashi nai  チャララシ ナイ  瀧川 高サ一丈許ノ小瀑ナリ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.191 より引用)

「チャラシ」ではなく「チャララシ」なのが新しいところでしょうか。「滝川」といいながら「小瀑なり」というのはさもありなんと言ったところで、本来 charse は「岩肌を滑るような流れ」の擬音語だとされています。

いつも通り、知里さんの薄い本「室蘭市のアイヌ語地名」も見ておきましょうか。

(八三) チャラツナイ(茶良津内)。チャラチナイ。原名「チャラシナイ」(Cárasinay)。語原「チャラㇽセ・ナイ」(<cárarse-nay〔滝をなしてサラサラと流れ下る・小川〕)。
(知里真志保・山田秀三「(復刻版)室蘭・登別のアイヌ語地名『室蘭市のアイヌ語地名』」知里真志保を語る会 p.30 より引用)

ふむ。char-se ではなく chár-ar-se なのが新しい……と思ったのですが、知里さんの「──小辞典」には逆に chár-ar-se で項が立てられていたことに今頃気づきました(お恥ずかしい)。

chár-ar-se ちゃラㇽセ ((完)) すべっている;すべり降りている。──川について云えば,小川が山の斜面を急流をなして飛沫をあげながら流れ下っているさまを云う。細い滝をなしてすべり落ちている。[char(ザアッという音);-se(……という);char-se(ザアッ・という);char-ar-se(ザ・ザアッ・という)]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.14 より引用)

な・なるほどっ・と言う……(汗)。とりあえず永田っちの言う通り「チャララシ」なのであれば chararse-nay で「滑るように流れる・沢」と考えて良さそうですね。

知里さんの薄い本にも同梱されている山田秀三さんの「登別・室蘭のアイヌ語地名を尋ねて」には、次のように記されていました。

チャラツナイ
 漢字を当てて茶良津内とも書いた。音はまあまあである。
(山田秀三「アイヌ語地名の研究 3」草風館 p.360 より引用)

「音はまあまあである」ですか(笑)。

前記したようにシ、ツを混同する和人のくせで、それが茶良津内になった。
(山田秀三「アイヌ語地名の研究 3」草風館 p.360 より引用)

実はこの「チャラツナイ」の項、「おかしな地名誤伝」の一例として記されていたのでした。誤記誤読による誤伝は室蘭に限った話ではありませんが、山田さんが調べた限りでは室蘭には少なからず誤伝があるようですね。

 処が地図の上の位置が悪い。母恋の沢奥に、昔その外洋側で漁師をしておられた永沢宇蔵さんというアイヌ系の古老を尋ねてその地図の話をした。とんでもない、今チャラツナイと書いてある処はプトフレナイだよ、と云われる。
(山田秀三「アイヌ語地名の研究 3」草風館 p.360 より引用)

確かに「東西蝦夷山川地理取調図」を見ても、「ムカリシヨ」の西側には「フトフレナイ」と記されていて、東側に「チヤリマナイ」という謎な地名が記されています。誤記は今に始まったことでは無かったのですね(汗)。

本来の「チャラルセナイ」だったと思しき川は、おそらくこの川だったんじゃないかなぁ、と思います。地球岬の駐車場のすぐ近くから西に流れる川です。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

チキウ岬(地球岬)

{chi-ke}-p
{削れた}・もの


室蘭市最南端(だと思う)のビュースポットです。地理院地図には「チキウ岬(地球岬)」とあります。「地球岬」という漢字表記も公式に認められている、と言った感じでしょうか。

知里さんの「室蘭市のアイヌ語地名」には、今回も力の入った記述がありました。

(八四) チキウみさき(地球岬)。原名「ポロチケウェ」(Porócikewe)。語原「ポロ・チケㇷ゚」(<poró-cikép〔親である・断崖〕;ci-ke-p〔自分を・削つた・者〕〔削れたもの〕〔断崖絶壁〕)。cikép→cikéw→cikéwe と転訛したらしい。
(知里真志保・山田秀三「(復刻版)室蘭・登別のアイヌ語地名『室蘭市のアイヌ語地名』」知里真志保を語る会 p.30-31 より引用)※ 原文ママ

そうですね。「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ホロチケウユ」「ホンチケウエ」という文字が並んでいます。「チケウユ」は「チケウエ」の誤字と考えたほうが自然でしょうか。

chi-ke-p で「我ら・削る・もの」と読み解けそうですが、 {chi-ke}-p で「{削れた}・もの」と読むのがより的確でしょうか。

チキウ岬の本来の形は「チケウェ」だったと記録されていますが、知里さんは「チケㇷ゚」が「チケウェ」に変化したとして、次のような推察を記していました。

「チケㇷ゚」の形が忘れられた結果「チケウ」が新しく語基と感じられそれを土台として第三人称形として「チケウェ」(その断崖)が造られたのであろう。「チケウ」から「チケウェ」になる過程に於いては「チケウレ」(cikewre 「削られた」「削れた」)も牽引作用として働いたかもしれない。どつちみち、地球岬のチキウは、チケウ或はチケウェの訛である。
(知里真志保・山田秀三「(復刻版)室蘭・登別のアイヌ語地名『室蘭市のアイヌ語地名』」知里真志保を語る会 p.31 より引用)※ 原文ママ

他ならぬ知里さんの「──小辞典」には、chikep の項の次に chi-kere-nupuri という項がありました。kere は「削らせる」という意味で、chi-kere であれば「削れている」と解釈できます。

知里さんの言う cikewrechi-kere のことだと解釈したのですが、知里さんは「牽引作用として働いたかもしれない」として影響を与えた可能性はあるとしつつ、「原型」は chi-ke-p との姿勢のようでした。それは何故なのだろう……と一瞬思ったのですが、よく考えたら kere で終わる地名は(知里さんとしては)あり得ないということにようやく気づきました。最後に -p をつけて chi-kere-p「削れている・もの」となる筈だ、ということですね。

さて、今回は永田地名解の解釈を後回しにしていたのですが、実はこういう理由があったのでした。

永田地名解ポロチケウェー「大ニ秘スル所」(「チケウェー」ハ守リテ人ヲ寄セ付ヌコトナリ、此処鉛アリ、故ニ秘シタリト云)とあるが、このアイヌ語のどこを押してもそういう意味は出てこない。
(知里真志保・山田秀三「(復刻版)室蘭・登別のアイヌ語地名『室蘭市のアイヌ語地名』」知里真志保を語る会 p.31 より引用)

あははは(笑)。「このアイヌ語のどこを押しても」という表現はいいですね。ちなみに kewe で「追い払う」という意味があるので、chi-kewe で「我ら・追い払う」と解釈することも(理屈の上では)可能なのかもしれません。

そんなわけで、chi-kewe-p を無理やり意訳すると「何人も寄せ付けぬもの」という風に読めなくも無いかな、と思ったりもします。いかにも中二的な感じで(ネタとしては)良いのでは無いでしょうか(笑)。

トッカリショ岬

tukar-iso
アザラシ・岩


チキウ岬の北東の位置する岬の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」にも「トカリシヨ」とありますね。

永田地名解には次のように記されていました。

Tukar’esho  ト゚カレショ  海豹岩
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.191 より引用)

ふむ。tukar-iso で「アザラシ・岩」と解釈したようですね。ちょっと気になったのが「手前」を意味する tukari という語彙の存在でして、「手前の岩」だったらどうしよう……と思ったのですが。

ただ、知里さんの薄い本「室蘭市のアイヌ語地名」にも、永田地名解と同じ解が記されていました。

(八八) トッカリショ。原名「ト゚カリショ」(Tukáriso)。語原「ト゚カㇽ・イショ」(<tukár-isó〔アザラシ・岩〕)。永田地名解「ト゚カレショ」(海豹岩)。松浦日誌(岩磯)鮭場也。今は岩ではなく漁場そのものをそう呼んでいるようだ。(脚注)
(知里真志保・山田秀三「(復刻版)室蘭・登別のアイヌ語地名『室蘭市のアイヌ語地名』」知里真志保を語る会 p.33 より引用)

どうやら他に解釈のしようが無さそうな感じですね。気になる「脚注」には、次のように記されていました。

(脚注)幌別方面のアイヌはトッカラシと訛る。
(知里真志保・山田秀三「(復刻版)室蘭・登別のアイヌ語地名『室蘭市のアイヌ語地名』」知里真志保を語る会 p.33 より引用)

なるほど。tukar-us-i だと「アザラシ・多くいる・もの」と読めそうですね。

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