2021年6月5日土曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (837) 「オタノワカナイ川・オッチャラベツ川・オクヤラセナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

オタノワカナイ川

ota-utka-nay?
砂浜・波立つ浅瀬・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
徳志別漁港のすぐ南側で海に注ぐ川の名前で、残念ながら地理院地図には川として描かれていません。「オタの湧かない川」とはこれ如何に……という話ですが、「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしき川が描かれておらず、明治時代の地形図に「オタッカナイ」と描かれていたことが唯一確認できました。

「再航蝦夷日誌」や「竹四郎廻浦日記」にも記録が見当たらないので、まずは「オタッカナイ」が正であるとして、実際の地形に即して考えてみました。ota-utka-nay で「砂浜・波立つ浅瀬・川」あたりではないかと思われるのですが……。

オッチャラベツ川

o-ichan-un-pet
そこに・鮭鱒の産卵場・ある・川
(典拠あり、類型あり)
「オタノワカナイ川」の北隣を流れる川の名前です。こちらは地理院地図にも川として描かれていて、川の名前も記入されています。まぁ川の規模が全然違うので、当然といえば当然なのですが……。

「東西蝦夷山川地理取調図」には当該の位置に「ヲイチヤヌンベヲ」という名前の川が描かれていました。「再航蝦夷日誌」には「ヲヱチヤシヌベツ」とあるので、「──ベヲ」は「──ベツ」の誤字だと考えるべきなのでしょうね。

ちなみに「竹四郎廻浦日記」には「イチヤヌンベ」とありました。「辰手控」には「ヲイチャヌンヘ」とあるので、やはりこれも「ナ」が「ヲ」であると見るべきなのでしょう。

永田地名解には次のように記されていました。

O ichanun pet  オ イチャヌン ペッ  鱒川 今ハ鱒僅上ルノミ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.441 より引用)
どうやら「オッチャラベツ」の正体は o-ichan-un-pet で「そこに・鮭鱒の産卵場・ある・川」みたいですね。「チャラ」という並びからは charse-nay の可能性を考えたくなりますが、道内各所にあるチャラい……いや、「チャラ系」の川名ももしかしたら ichan に由来するものが紛れているのかもしれません。

オクヤラセナイ川

(pon-)o-charse-nay?
(小さな・)河口・すべるように流れる・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
オッチャラベツ川の北、枝幸町岡島の南を流れる川の名前です。明治時代の地形図を見ていると、現在とほぼ同じ位置に「ポンオチヤラセナイ」という名前の川が描かれていました。

むむ、これは……。「オッチャラベツ川」の解から道内各所にある「チャラ系」の川名について注意が必要だなぁと気づいたのですが、こんなすぐ近くに「ポンオチヤラセナイ」があったとは。しかも厄介なことに「ポン」がついているので、解釈の幅が「更に倍!」になってしまうんですよね。

o-charse-nay であれば「河口・すべるように流れる・川」と読めます。一方で「ポンオチヤラセナイ」が「小さなオッチャラベツ」なのであれば pon-o-ichan-un-nay で「小さな・そこに・鮭鱒の産卵場・ある・川」ということになります。

ただ「オッチャラベツ」が -pet なのに対し、「ポンオチヤラセナイ」は -nay なので、そもそも同系とは見なせない……とも言えるのですが、pon- があるのに他に poro- などを冠した川が見当たらない、という問題も出てきます。

「オッチャラベツ川」と「オクヤラセナイ川」は元々何の関係も無かったものが、たまたま近くを流れていたので両者(の由来)が混同された……と言ったあたりがオチなのかもしれません。ということで、やはり「オクヤラセナイ川」は (pon-)o-charse-nay で「(小さな・)河口・すべるように流れる・川」と考えて良いのでは無いでしょうか。

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