2026年2月15日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1348) 「ピンニ川・オクマウシ川・ユオイ沢川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

ピンニ川

pinni
ヤチダモの木
(旧地図等に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
二風谷ダムの 0.7 km ほど南西で、西から沙流川に注ぐ支流……とされています(国土数値情報による)。ピンニ川の北には「敏技沢ぴんぎざわ」という四等三角点(標高 270.4 m)もあるのですが、当該三角点は「オクマウシ川」の水源の近くにあるので、なぜ「敏技沢」という名前になったのかは謎です。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には何故かそれらしい名前の川が見当たりませんが……


北海道実測切図』(1895 頃) には「ペンニ」と描かれていました。


戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

また此山の上の処に
     ヒ ン ニ
西岸相応の川也。其名義は此川すじ秦皮たも多く有るが故に号るとかや。ヒンニは秦皮の夷言也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.685 より引用)
pinni は「ヤチダモの木」を意味します。これも単独では地名・川名としてはおそらく適切ではなく、pinni-us-i で「ヤチダモの木・多くある・ところ」や、pinni-ta-us-i で「ヤチダモの木・切る・いつもする・ところ」と言った地名だった可能性がありそうですが、他の地名との比較という意味では pinni という情報があれば十分だったので、おそらくその後ろがバッサリと略されてしまった……ということだと思われます。

オクマウシ川

o-kuma-us-i?
河口・横山・ついている・もの(川)
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
二風谷ダムのすぐ南で、北西から沙流川に合流する支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ヲコマウシ」という名前で描かれていますが、不思議なことに『北海道実測切図』(1895 頃) にはそれらしい川が見当たりません。


戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     ヲコマウシ
西岸小川也。其名義は川口に沼一ツ有。其処え棚を架て是え魚を釣し(つるす)と云儀なり。本名ヲクマウシと云しとかや。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.686 より引用)
また永田地名解 (1891) にも次のように記されていました。

O kuma ushi   オ クマ ウシ   干竿アル處 松浦地圖「オコマウシ」ニ誤ル
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.230 より引用)
地名アイヌ語小辞典』(1956) には、kuma について次のように記されています。

kuma クま ①両方に柱を立ててその上に横棒を渡し,それに肉をかけて乾す施設;肉乾棚。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.53 より引用)
『小辞典』には、物干し台に渡された竿に魚が吊るされている図(絵)が添えられています。このように物干し竿が渡された場所だから「オクマウシ」なんだよ……ということですが、『小辞典』には次のように続きが記されていました。

②横山。この語はクワ(杖)と同じく本来は棒の意味であった。横にさしわたす棒を「さクマ」(<sat-kuma 乾き・棒)と云い,魚肉をかけて干す竿を「ちぇㇷ゚・クマ」(chep-kuma 魚・棒)と云い,
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.53 より引用)
途中でバッサリ切ってしまいましたが、実際にはまだまだ続きが記されています。「②横山」の最後は次の文章で締められていました。

棒状に細長くのびている平磯を「そークマ」(so-kuma)と云い,棒のように横たわっている山を kuma, si-kuma, kuma-ne-sir などと云い,横山のような波を「クまネリㇽ」(kuma-ne-rir 横棒・のような・波)と云うのもすべて棒の意味から出たのである。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.54 より引用)
ここで重要なのが「棒のように横たわっている山を kuma, si-kuma, kuma-ne-sir などと云い」という部分で、地名における kuma は「魚を乾かす棒」よりも「横山」である場合が圧倒的に多い……という印象があります(個人の感想ですが)。

そう意識した上で「オクマウシ川」を見てみると、河口の北東側が見事に「横山」になっています。o-kuma-us-i は「河口・横山・ついている・もの(川)」と見ていいのではないでしょうか。

ユオイ沢川

i-o-i?
アレ・多くいる・もの(川)
(? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
沙流川の東支流で、二風谷ダムのダム湖に注いでいます。厳密には二風谷小学校の北で「オサツ川」と合流後、沙流川(にぶたに湖)に注いでいるかもしれません。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川名が見当たりません。


北海道実測切図』(1895 頃) には「ユオエ」と描かれています。


戊午日誌 (1859-1863) 「左留日誌」には次のように記されていました。

また少し上りて
     ユ ヲ イ
東岸山間の小川也。其名義は水源に温泉有るが故に号る也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.685 より引用)
yu-o-i で「湯・そこにある・もの(川)」ではないかとのこと。平取には「オバウシナイ川」や「ユーラップ川」、「パンケオユンベ川」など、「湯」あるいは「湯気」の存在を示唆する川名が目立つ印象がありますが、これもその一つ……ということになるでしょうか。

二風谷の北の「看看川」の近くに「びらとり温泉」がある……のですが、ちょっと離れていますし、どの程度の温度の「湯」が湧いているのか気になっています(ボイラーで加熱している「温泉」も多いので)。

個人的には、「ユーラップ川」や「パンケオユンベ川」は yu ではなく i-o(アレ・多くいる)ではないかとの考えに傾きつつあるのですが、「ユオイ沢川」についても同様に i-o-i で「アレ・多くいる・もの(川)」という可能性があるんじゃないかなーと思っています。

「アレ」は言挙げを憚るものに対して使用される代名詞で……という文章を今月に入ってから何度も書いているような気もするのですが……、具体的にはヒグマだったりマムシだったりが対象でしょうか。「パンケオユンベ川」のあたりで「マムシ注意!」の看板を見た記憶があるので、「ユオイ沢川」も「マムシが多い川」だった可能性を考えたいところです。

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