2021年2月7日日曜日

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アイヌ語地名の傾向と対策 (805) 「ピウケナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ピウケナイ川

pe-ukik-nay???
水・ぶつかり合う・川

(??? = 典拠なし、類型未確認)

忠別湖の東で忠別川に合流する北支流の名前です。忠別川の支流ではありますが、川の規模はなかなかのものです。

「ヘウキナイ」?

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヘウキナイ」という名前の川が描かれていました。丁巳日誌「再篙石狩日誌」も同様で、次のように記されていました。

     ヱヲロシ
     無名の小川
     ノカナン
     ヘウキナイ
     フヨマナイ
等何れも左りの方、キトウシの辰巳の方に山つヾきになる也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.281 より引用)

「ピウケナイ」?

一方で、永田地名解には次のように記されていました。

Piuke nai  ピウケ ナイ  襲ヒ川 石多クシテ流水襲撃シ怖ルベキ處ナリ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.52 より引用)

「襲い川」というのも良くわからない解ですが、そもそも「ピウケ」に「襲う」という意味があったかどうかも良くわからないんですよね。田村先生の辞書によると、「襲う」だと koyki という語彙があるようなんですが……。

ちなみに、明治時代の地形図にも「ピウケナイ」と描かれていますが、別に「ピカケナイ」と描かれた地図もあるようです。これは転記の際のミスだったと考えるべきなんでしょうかね……。

知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 ピウケナイ(Piuke-nai「水がどつと押しよせてくる・沢」) 左,枝川。この沢の入口は滝になつており,その上は両岸の断崖が迫つて所謂「はこ」をなしている。「ピウケ」は「襲う」意。「石多クシテ流水襲撃シ怖ルベキ処ナリ」(永田氏『地名解』)。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.329 より引用)※ 原文ママ

ふーむ。これは永田地名解を完全に肯定していますね……。繰り返しになりますが、「ピウケ」に「襲う」という意味があったかどうか、手元の辞書類では確認できないのですね。

謎の「ピウケ」

知里さんの「地名アイヌ語小辞典」を見てみると、「ピウケ」に近い語彙として、まず piwka が出てきます。

piwka ぴゥカ ①石原;小石川原。②【テシオ】=mem.[<pi-o-ka(石・群在する・表面)]。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.96 より引用)

この piwka の項ですが、なぜか②が二つありまして……

②【ナヨロ】川岸からちょっと引っこんでいる水溜りで水が流れるとも流れぬともつかぬ所。(=mem)
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.96-97 より引用)

まぁ、「小石の川原」と見て間違い無さそうな感じでしょうか。永田地名解に「石多くして」とあるのは興味深いですね。

「ピウケ」に近い語彙としては、他に piwke-i というものもありました。

piwke-i ぴゥケイ 【テシオ】出っぱった所。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.97 より引用)

ピウケナイに出っ張ったところがあるかと言われると、あると言えばあるような気もします。piwke-nay で「出っ張った・川」というのも候補の一つとして挙げられるのではないかな、と……。

「ヘウキナイ」説の検討

ただ、「東西蝦夷山川地理取調図」や「再篙石狩日誌」には「ヘウキナイ」と記録されていて、永田方正氏はこれをあっさり「ピウケナイ」に修正しています。これまでにも「永田流」の修正が頓珍漢なものと思わざるを得ないケースもありましたし、直近の「ノカナン」の「鳥ノ卵ヲ置ク處」という解もかなり奇妙なものでした。果たして「ピウケナイ」という修正が妥当なものであったかどうか、そこも改めて評価する必要がありそうに思えます。

仮に「ヘウキナイ」という音が元の名前に近いとするならば、pe-ukik-nay で「水・ぶつかり合う・川」という解釈は成り立たないでしょうか? ukiku-kik で「互い・を打つ」と分解できそうなのですが、「水がぶつかり合うように押し寄せる」というのは、永田地名解の「流水襲撃し怖るべき」ともどことなく通じるものがあるような気もします。

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