2026年9月13日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1435) 「トマム・ホロカトマム川・杜満射岳」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

トマム

tomam?
泥炭地
(? = 旧地図等に記載あり、既存説に疑問あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
占冠村東部の地名で、道東自動車道に「トマム IC」があるほか、JR 石勝線にも「トマム駅」が存在するのですが、実はこの「トマム駅」、開業当初は「石勝高原駅」だったんですよね(1981/10/1 から 1987/1/31 まで)。なお「石勝高原駅」から「トマム駅」に改称した際に、お隣の「トマム信号場」が弾き出されるような形で「ホロカ信号場」に改称していたそうです。

『北海道実測切図』(1895 頃) には、鵡川の占冠村中央から上流部(占冠駅からトマム駅の間に相当)に「トマム」と描かれています。謎なのが現在の「ホロカ信号場」のあたりに「Tomamur?u」と描かれいてるように見えるところで、7 文字目が本当に「r」なのか確証が持てないところも、更に謎を深めています。

トマムは湿地、沼沢地

山田秀三さんの『北海道の地名』(1994) には次のように記されていました。

アイヌ語トマム(tomam)は湿地,沼沢地の意。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.374 より引用)
tomam で「湿地」あるいは「泥炭地」と見て良いでしょう……と思ったのですが、ちょっと嫌な予感がしてきました。順番が逆になってしまいましたが、『北海道の地名』には「トマム」について次のように記載があります。

トマム
 明治の地図には,今の占冠村中央市街の処でソーウシペッとトマム川が分かれているように書いた。つまりトマムを鵡川源流の名としたのであったが,トマムは占冠市街から本流を7,8キロ上った辺の地名だったようである。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.374 より引用)

湿地はどこにあったか

「占冠市街から本流を7,8キロ上った辺」としていますが、次のように続きがありました。

その辺では南からポン(小さい)トマム,北からホロカ(後戻りする)・トマムという小流が鵡川本流に注いでいて,そこがトマムという土地だったらしい。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.374 より引用)
「ポントマム」や「ホロカトマム」が流れているのは、占冠村中央から 20 km ほど遡ったあたりなので、とても「7, 8キロ」では済まないほど離れています。果たしてこのあたりに本当に湿地があったのか……という疑問を抱いてしまいますが、『占冠村史』には「事実開拓時代には湿地もあつた」(※ 原文ママ)と記されています。

ただ『北海道実測切図』や『陸軍図』を見ると、現在の占冠駅のあたりを「トマム川」が流れていたことになっています。もちろん 2~30 km ほど遡れば「ポントマム」や「ホロカトマム」があるのですが、そこまで離れたところにある「泥炭地」が占冠村中央を流れる川の名前の元となった……というのが、ちょっと信じられないのです。

「尾根の間に入る鵡川」

更に言えば、「トマム川」という川名は「シム川」と同じく「──ム川」なのですね。まぁ普通に考えれば「トマム・ム川」となるのですが、それ以外の可能性もゼロではないかな……と。

「トマム川」は「双珠別川」と対になるネーミングとして存在していました(『北海道実測切図』などによる)。従って「トマム川」という名前は、現在の占冠村中央のあたりでの「特徴」からそう呼ばれるようになった……と考えたくなります。

「トマム」が tomam ではないという(大胆な)仮定をするならば、tu-oma-{mu-ka-p} で「尾根・そこに入る・{鵡川}」というのはどうでしょうか。

『北海道実測切図』では、現在の「占冠 PA」(千歳方面)のあたりで「トマム」の支流として「ムカワ」(=シム川)が描かれるという妙なことになっていますが、この「ムカワ」(=シム川)の北の尾根はかなり長いものです。

また「パンケシュル」の東の山も、そこそこ長い「尾根」と呼べるかもしれません。従って tu-oma-{mu-ka-p} よりも tu-utur-oma-{mu-ka-p} で「尾根・間・そこに入る・{鵡川}」と見たほうが、より実際の地形に相応しいネーミングとなるかもしれません。

「トゥトゥロマムカㇷ゚」の -utur が抜け落ちたなら「トマムカㇷ゚」となり、更に -ka-p が落ちたとすれば「トマム」になる……と言えばなるんですよね。ご都合主義が極まっているかもしれませんが、大河川・鵡川の最上流部の名前としては、どこにあったか良くわからない「泥炭地」よりもこれくらいのネーミングのほうが妥当に思えてきます。

ホロカトマム川

horka-{tomam}
U ターンする・{トマム(川)}
(旧地図等に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
鵡川の西支流で、JR 石勝線の「ホロカ信号場」の西、道東自動車道の「ホロカトマムトンネル」と「下トマムトンネル」の間を流れる川です。国土数値情報では何故か「ロカトマム川」になっています。

horka は「U ターンする」と言った意味で、一般的には川を遡った際に本流の向きとは逆に進んでしまうような川を指します。おそらく最も有名なのが雨竜幌加内町の「幌加内川」(雨竜川支流)で、この川を遡って「幌加内峠」を越えてしまうと「鷹泊ダム」(雨竜川)の下流に出てしまうので、まさに「U ターンする川」と言うに相応しいものです。

ところが、不思議なことに「ホロカトマム川」を遡ると北、あるいは北東に向かうので、必ずしも鵡川に対して「逆向き」の川とは言えません。あえて言うなら鵡川に合流する直前が西から東に向かって流れているので、西に向かう鵡川とは逆方向と言えるのですが……。

ちょっともやもやした感じも残るのですが、horka-{tomam} で「U ターンする・{トマム(川)}」と見るしか無さそうな感じです。

杜満射岳(とまんしゃだけ)

{tomam}-sa-un-nupuri??
{トマム}・前・にある・山
(?? = 旧地図等に記載あるが位置に疑問あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「ホロカトマム川」を遡って北に向かうと空知郡南富良野町との分水嶺に辿り着くのですが、一帯の分水嶺の中ではもっとも高い山が「社満射岳しゃまんしゃだけ」で、この山の頂上付近には「杜満射岳とまんしゃだけ」という一等三角点があります(標高 1,062.3 m)。よく見ると山の名前が「満射岳」で三角点の名前が「満射岳」という、まるで間違い探しのようなことに……(汗)。

さてどっちが正解か……という話ですが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「トマㇺシヤウンヌプリ」と描かれていました(「ン」は小書き)。もっともこの山にも疑問はあって、現在の「トマム山」の北、「落合岳」の西、「幾寅峠」のに位置するようにも見えます。


現在の「社満射岳」は「幾寅峠」のずっと西に位置するので、両者が同一であると見做せるかどうか……という話も出てくるのですが、「トマㇺシヤウンヌプリ」と「杜満射岳」なので、まあ同一と考えていいのではないかと……。

ただ「トマㇺシヤウンヌプリ」という山名にも問題があります。{tomam}-sa-un-nupuri ではないかと思われるのですが、これは「{トマム}・前・にある・山」と読めます。これは現在の「社満射岳」よりも「トマム山」(とその尾根にある「尖山」)を指しているようにも見えます。

『北海道実測切図』でのどっちつかずな描かれ方が混乱を呼んだ……ということなのかもしれませんね(罪作りな話……)。

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