2026年7月17日金曜日

‹  前の投稿

北海道のアイヌ語地名 (1409) 「カイカウニ沢川・イナエップ沢川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

カイカウニ沢川

kay-keure-i?
波・を削る・もの
(? = 旧地図等に記載あり、既存説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
むかわ町穂別仁和にわから町道上キナウス線の「仁和大橋」を渡った先で西鵡川に合流する川です(「仁和大橋」のすぐ東で南東から鵡川に合流する「カイカニ沢川」という川がありますが、これは別の川です)。

北海道実測切図』(1895 頃) には「カイカウニ」と描かれています。なお似て非なる「カイカニ沢川」の位置には「ヌㇷ゚パオマナイ」とあり、何故こんなパチもん紛らわしい名前に化けたのかは謎です。


「雷が落ちて木を倒したので」説

戊午日誌 (1859-1863) 「武加和日誌」には次のように記されていました。

過て
     カイカウリ
左り平地に有。此辺川すじ屈曲して針位酉に向ふ也。相応の川一すじ有、其傍に人家七軒有。是近年イナユウ(エフ)より引移りしと云り。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.535 より引用)
メインディッシュの地名解については、次のようにありました。

其名義は往昔此処に大木が有りて、其木え雷が落て木を倒せしと云事のよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.535 より引用)
「雷」は kamuy-hum という表現もあるようですが、これは「雷の音」というニュアンスのようなので、「稲妻」であれば kamuy-imeru あるいは imeru あたりになるのでしょうか。とりあえずこれらの語彙から「カイカウリ」に辿り着くのは容易ではなさそうな感じです。

「破れて脆いところ」説

案の定と言うべきか、永田地名解 (1891) には異なる解が記されていました。

Kaikauni,or kaye kaure-i   カイカウニ   破レ脆キ處 ?
永田方正北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.211 より引用)
地名アイヌ語小辞典』(1956) によると、kay で「折れる;折れくだける」、また kay-e で「折る」だとされています。kay は様々な意味を持つようで、他にも「おんぶする」「折れ波」「大網膜」「腹膜」などにも解釈できるとのこと。

陸軍図を見てみると、鵡川の北西を鉄道(後の国鉄富内線)が通っていて、鉄道の上は崖が続いているように描かれていました。「カイカウニ」を素直に解釈すると kaye-ka-un-i で「折れ波・の上・そこにある・もの」になりそうですが、松浦武四郎は「カイカウ」と記録しているので、先程の解はやや違和感が残ります。

「波を削るもの」?

松浦武四郎の記録を考慮すると、kay-keure-i で「波・を削る・もの」と読めそうな気もします。……あ、これって永田地名解の kaye kaure-i とそっくりでしたね。

「波が削るもの」であれば、鉄道が建設されるまでは現在進行形で崩れてそうな崖を指す地名に相応しく思えますが、「波削るもの」というのは奇妙な感じがします。kay-ani-kewre であれば「波・で・削る」となりそうですが、わざわざ明示的に -ani を追加せずとも意味は通じる……という判断だったのでしょうか。

あるいは本当に「波を削るもの」があったのかもしれません。水の流れを遮る何か……立岩か、岩礁か、あるいは波によって削られる岩崖を逆の立場から表現しただったのかも……?

イナエップ沢川

inaw-o-p??
イナウ・多くある・ところ
(?? = 旧地図等に記載あり、既存説に疑問あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「カイカウニ沢川」の合流点から 1 km ほど鵡川を遡ったところで東から合流する支流です。道道 74 号「穂別鵡川線」は「イナエップ橋」でこの川を渡っています。

北海道実測切図』(1895 頃) には「イナイップ」と描かれていました。不思議なことに鵡川の西側にも「イナイップ」と描かれているのですが、こちらは地名だったように見受けられます。


戊午日誌 (1859-1863) 「武加和日誌」には次のように記されていました。

また過て
     イナエフ
右の方に在相応の川也。其名義は昔しより何の故にか、此村の川端えイナホを立しによつて号しとかや。イナホウシの転じたるよし也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.537 より引用)※ 原文ママ
inaw-us-i であれば「イナウ・ある・ところ」と読めます。イナウは木から削り出したぬさ(のようなもの)なので、「木幣」と表現することもあります。

現在の川名が「イナエップ──」で、『北海道実測切図』は「イナイップ」、そして戊午日誌は「イナエフ」としていますが、『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはには「イナユウ」とあります。もっとも「イナユウ」は誤読から来る誤記の可能性が高そうにも思えます。

松浦武四郎が記した「イナホウシ」説は蓋然性が高いように思われるのですが、何故「イナエフ」あるいは「イナイップ」という妙な形に転訛したのか、やや釈然としないところもあります。

では他の可能性を……と考えてみたのですが、それらしい解釈が思い浮かばないというのが正直なところです。inaw-us-iinaw-o-p で「イナウ・多くある・ところ」に化けたと考えるしか無さそうでしょうか……?

前の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

新着記事