2018年8月5日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (557) 「キンイチナイ川・キナワシモラワン川・タクイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

キンイチナイ川

kina-us-nay?
草・多くある・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
足寄町螺湾から螺湾川を遡ったところに「螺湾沢」というところがあり、そのすぐ下流側で「茂螺湾川」(もらわん──)が螺湾川に合流しています。キンイチナイ川は茂螺湾川の西側(下流側)を流れていて、直接螺湾川に注ぐ支流の名前です。

鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。

キンイチナイ沢(営林署図)
 茂螺湾川口から 0.7 キロ下流を、南側から流入している小沢である。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.186 より引用)
あーなるほど。こうやって書くとシンプルでいいですね。

 キムン・イチャン・ウン・ナィ(kimun-ichan-un-nay 山奥にある・サケマスの産卵穴・ある・川)の意。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.186 より引用)
ふーむ。まぁ、そう読めなくも無いのかな、という感じですね(上から目線)。引っかかるものを感じているのは、戊午日誌「東部報十勝誌」に次のような記述があるという点についてです。

高山多き処小沢。またしばしを過てキナウシラワン、此処草多きよりして号る也。またしばし過、モウラワン左りの方也。本川右のかたに有。其源はメアカン岳より落来る。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.330 より引用)
この記述によると、「キナウシラワン」という支流と「モウラワン」という支流がそれぞれ存在するように見て取れます。ただ、現在の地形図では「茂螺湾川」の支流として「キナシモラワン川」があるように記されています。

問題になるのが「モウラワン左りの方也」という一文で、これは螺湾川の支流が「キナワシモラワン川」で「茂螺湾川」が「キナウシモラワン川」の支流だとすれば全く正しい記述です。但しそうなると「本川右のかたに有」と「其源はメアカン岳より落来る」という表現が矛盾することになります。

雌阿寒岳の麓のオンネトーから流れてくる川が「本川」なのであれば、「本川左りの方に有」となるのが正しいことになります。

何をグダグダを書いているんだ……と思われるかもしれませんが、戊午日誌にある「キナウシラワン」は現在の「キナワシモラワン川」と同一なのか、それとも実は違うのか、を気にしています。

「キナウシラワン」が「キナワシモラワン川」と同一なのであれば、何も気にすることはありませんが、もしかして違うのなら、実は「キナウシラワン」が「キンイチナイ」に化けたという可能性は考えられないでしょうか。kina-us-{ra(w)-an}(-pet) は「草・多くある・{螺湾}(・川)」ですが、それが kina-us-nay で「草・多くある・川」になり、「キナウシナイ」が「キンイチナイ」に転訛したという(割と大胆な?)仮説なんですが……。

キナワシモラワン川

kim-kus-{mo-ra(w)-an}-pet?
山側・通る・{子である螺湾}・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
ということで「キナシモラワン川」です。戊午日誌「東部報十勝誌」や「東西蝦夷山川地理取調図」には「キナシラワン」という川が記録されていますが、「ウ」ではなく「ワ」で、しかも「ラワン」ではなく「ラワン」です(ややこしい)。

この「キナワシモラワン川」が、旧記にある「キナウシラワン」と同一のものなのか、それとも否か……という話ですが、違ったのではないかと考えてみました。

地形図を見ると良くわかるのですが、この「キナワシモラワン川」は南から北に向かって直線的に流れていて、しかも水源に近い鞍部を越えるとすぐ「キムクシデイナウシュベツ川」に出ることができます。何となく、螺湾のアイヌがこの川を交通路として利用しなかったとは思えないんですよね。

そう考えると、「キナワシ」は「キナウシ」の誤記ではなく「キンクシ」の誤記だと考えたくなってきます。kus 系の川名は、たとえば「ルークシュポール」のように、峠の向こう側の地名をつけるんじゃないのか……と思ったりもしますが、良く考えてみると「キムクシデイナウシュベツ」自体が本流(inaw-us-pet)の名前を継承した川名だったので、kim-kus-{mo-ra(w)-an}-pet と考えても何ら不都合はありませんし、むしろ全く同一の命名規則に則っているとも言えそうです。

そんなわけで、「キナワシモワラン川」は kim-kus-{mo-ra(w)-an}-pet で「山側・通る・{茂螺湾}・川」ではないかと考えてみました。あ、「茂螺湾」は mo-{ra(w)-an}-pet で「子である・{螺湾}・川」と見ていいのかな、と思います。

「キナワシ」が「キナウシ」ではないとなると、失われた「キナウシラワン」を「キンイチナイ」に求めたくなりますよね。そして、もしかしたら「ナ」が「ン」に化けて「シ」が「チ」に化けるという、冗談みたいな誤記があったのかもしれない……とも思えてきますし、あるいは「キンクシ」と「キナウシ」を混同した可能性も考えられるかもしれません。

タクイ川

tak-o-i???
ごろた石・多くある・もの(川)
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
最近は記録の少なさをいいことに妄想が捗ることが多いのですが(汗)、この調子で続けてしまいましょうか。「タクイ川」は足寄町上螺湾の西で螺湾川に合流する南支流の名前です。

そもそもアイヌ語由来なのか、というところから疑ってかからないといけないのですが、仮にアイヌ語に由来するとしたならば……

山の向こうの白糠町側に「タクタクベオベツ川」という素敵な名前の川があります。tak-tak は、知里さんの「──小辞典」によると「ごろた石」という意味だそうですが、tak でも同様に「川の中のごろた石」を意味するようです。

tak-o-i であれば「ごろた石・多くある・もの(川)」となりそうですので、あるいはそんな意味なのかなーと考えてみました。

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