2025年8月16日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1269) 「ソガベツ川・幌春山・春別山」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ソガベツ川

so-ka-pet?
滝・上・川
(? = 旧地図に記載あり、既存説に疑問あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
日高幌別川の上流部で合流する東支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川名が見当たりませんが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「ソカペッ」と描かれていました。

戊午日誌 (1859-1863) 「保呂辺津誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     ソウカベツ
右のかた小川。右の川の上に大滝有。此処まで鮭・鯇・鰔等上れども、それより上えは一尾も上ることなしと。是より両岸峨々たる峻壁になりて、猛獣・豪鷲多し。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.422 より引用)
「右の川の上に大滝有」とありますが、地理院地図にも「ソガベツの滝」が描かれています。『北海道地名誌』(1975) には次のように記されていました。

 ソガベツ川 トヨニ岳に発する春別川左支流。
 ソガベツ沢 野塚岳に発するソガベツ川の左支流の沢。アイヌ語「ソカペッ」で滝の上の川の意か。
(NHK 北海道本部・編『北海道地名誌』北海教育評論社 p.575 より引用)
so-ka-pet で「滝・上・川」ではないかとのことですが、若干据わりが悪い感があります。本来は so-ka-o-pet で「滝・上・そこにある・川」とか、あるいは so-ka-oma-pet で「滝・上・そこにある・川」だったのかもしれません。

幌春山(ぽろしゅん──)

poro-sum-pet?
大きな・西・川
(? = 旧地図に記載あり、独自説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ソガベツ川の北、日高幌別川支流の「シュンベツ五号川」の南に位置する山に「幌春山」という名前の三等三角点(標高 1,083.0 m)が存在します。

北海道実測切図』(1895 頃) には「ポロシュㇺペッ」という川が描かれていました。位置的には現在の「日高幌別川」の本流に相当すると思われます。

「幌春山」はこの「ポロシュㇺペッ」に由来すると思われます。poro-sum-pet で「大きな・西・川」と見て良いでしょう。

日高幌別川はかつて「春別川」と呼ばれていたことがあるのですが、これは『北海道実測切図』の「シュㇺペッ」表記に由来すると思われます。

ただ「シマン川」の項で記した通り、「シユンヘツ」は本来は「シマン川」を指していたと考えられるので、「シマン川」と「春別川」が併存するのはおかしな話です。

誰かがそのことに気づいたのか、現在は「日高幌別川」と呼ばれるようになったのですが、1917(大正 6)年に三角点が選点された際の所在地は「日高国浦河郡浦河町大字杵臼村字」の「俗稱ベッ」だったので、かつての俗称がそのまま三角点の名前に残った……ということのようです。

春別山(しゅんべつ──)

sum-pet
西・川
(旧地図に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
日高幌別川の源流部の西支流「シュンベツ四号川」の北、元浦川源流部の東支流「ポンウラカワ川」の東、「ソエマツ五号川」の南に位置する山に存在する三等三角点(標高 1,292.7 m)です。「幌春山」もそうなのですが、山の頂上ではなく「支峰」の頂上に三角点があるのはちょっと不思議な感じもしますね。

「春別山」という三角点名は、かつて「春別川」と呼ばれていた川(現在の「日高幌別川」)に由来すると思われます。sum-pet で「西・川」ということになりますね。

ただ前述の通り、「春別川」というネーミングは誤謬の産物である可能性が高いので、「明治以前から存在する由緒正しい(?)アイヌ語地名」であるかどうかは疑問の余地があるのですが、松浦武四郎が記録した「シユンヘツ」にインスパイアされた地名であることは間違い無さそうな感じです(たとえ位置が間違っていたとしても)。

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