(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
安平(あびら)
apa-pira??
出入口・崖
出入口・崖
(?? = 旧地図等に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
苫小牧の北東に位置する自治体名で、JR 室蘭本線に同名の駅もあります。2006 年に勇払郡「片方に崖」?
駅名なので、まずは『北海道駅名の起源』(1973) を見ておきましょう。安 平(あびら)
所在地 (胆振国)勇払郡早来町
開 駅 明治35年10月11日(北海道炭砿鉄道)
起 源 アイヌ語の「アラ・ピラ・ペッ」(片方にがけのある川)の転かしたものである。
(『北海道駅名の起源(昭和48年版)』日本国有鉄道北海道総局 p.74 より引用)
一方で戊午日誌 (1859-1863) 「新道日誌」には次のように記されていました。扨其往来より眺め行て川の東岸
アビラフト
川口に鮭取小屋有。川巾七八間のよし。本名はシアヒラとも云り。其名義わかりがたし。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.441 より引用)
松浦武四郎は「アビラ」あるいは「シアヒラ」の意味はわからない、としています。支流? それとも本流?
現在の地図では、「勇払川」が「安平川」に合流して、最終的に「安平川」として海に注いでいます。これは大正時代の陸軍図の時点で既にそうなっていますが、『北海道実測切図』(1895 頃) では「シアピラ川」が「勇拂川」に合流し、最終的に「勇拂川」が海に注いでいました。明治から大正にかけて主客転倒があったということになりますね。安平川を遡ると、安平駅の近くで *支流* の「支安平川」が枝分かれしています。ただ si- は「主たる」「本流の」を意味する接頭辞なので、本来は「シアヒラ」が本流だったと見るべきでしょう。
ただ、戊午日誌「新道日誌」には次のように記されていました。
また少し過て二股に成るよし。右のかたを
シアビラ
と云よし。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.442 より引用)
ここまでは良いのですが……また左りの方
アラヒラ
是本川なり。然れども其小川の名は当時残らざるよし也。是また源に高山もなし。只平山にしてユウハリの方え突かけ行とかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中』北海道出版企画センター p.443 より引用)
「是本川なり」とあり、当時既に「安平川」が本流として認識されていたことを伺わせます。『北海道実測切図』には「アラピラ川」と描かれていますが、「安平」という地名も描かれていて、「アヒラ」とルビが振られているようにも見えます。「アラピラ」と「アピラ」
永田地名解 (1891) には次のように記されていました。Ara pira アラ ピラ 一面ノ崖 又「アピラ」ト云フ義同ジara- は『地名アイヌ語小辞典』(1956) によると ar- の【K】、すなわち「樺太での用例」とされます。ということで ar- を見てみると……
ar- アㇽ 対をなして存在する(と考えられる)ものの一方をさす;一方の;もう一方の;他方の;片方の;片割れの。──n や r の前では an- になり,t や ch の前では at- になる。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.7 より引用)
これを見る限り、永田方正が「一面の」としたのは少々謎です。ar-pira で「もう一方の・崖」と見るべきでしょうか。また、永田方正は「アラピラ」と「アピラ」は同じ意味だ……としましたが、果たして本当にそうなんでしょうか。「アラピラ」が「アピラ」に転訛したというのも十分あり得る話ですが、他の可能性も考えたくなります。
「もう一方の出入口の崖」?
ここからは例によって独自研究なのですが、「戸」や「出入口」を意味する apa という語があるのですが、地名においてはチセ(家)における apa と似たような感じで、外から中を覗かせないような「衝立」のような地形をそう呼んだ……と想像しています[独自研究]。
「コロイ山」の北西の尾根も apa と呼べそうな気がするのです。si-apa-pira で「大きな・出入口・崖」だったのでは……という想像ですが、これだと「シアパピラ」となり余計な「パ」の音が入ってしまいます。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ただ (si-)apa-pira という考え方は「(シ)アピラ」と「アラピラ」という二通りの言い回し?が存在することも容易に説明できます。アイヌ語地名の命名法?に従えば「シアピラ」が *本流* なのですが、現在の安平川上流である「アラピラ」は「シアピラ」よりも長い川で、この川を本流だと捉える向きもあったことは既に記したとおりです。「アラピラ」は ar-{apa-pira} で「もう一方の・{出入口・崖}」だったのではないでしょうか。一般的には支流は mo- や pon- を冠することが多いのですが、現在の安平川上流部の場合、本流である「支安平川」よりも長いということもあり、mo- や pon- と呼ぶのはおかしい……という判断かもしれません。
この説の弱いところとしては安平駅の周辺にそれっぽい崖が見当たらないところですが、よく見ると追分駅の北に「出入口」っぽい崖があると言えばありますね。地形図をチラ見した限りでは似たような規模にも見えるので、そういった意味で pon-(小さい)ではなく ar-(もう一方の)だったのかもしれません。
「釣り針」と「出入口」
「出入口」を意味する apa が実は ap となることもあったとすれば完璧?なのですが、現時点ではそのような都合の良い解釈にはお目にかかれていません。ap は一般的には「釣り針」とされますが、地名解で頻出する ap の多くが実は apa だったと考えることもできそうに思われます。一歩踏み込んだ想像をするならば、apa(出入口)の元となる ap という言い回し?もあったんじゃないかな……とか。
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